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第6章  魔女の館へようこそ!

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「お風呂は共同だから…」と言いつつ、大家さんは「あっ」とつぶやく。
「トイレの所の貼り紙を見た?」
 貼り紙?
待子は一瞬、なんのことかわからずに、キョトンとするけれど…
次第に、そう言われれば、不動産屋のフジヨシさんが、何か言ってたなぁと
思い出す。
「あそこにね、順番が書いてあるから…あれに従って、降りて来てね」
そう言うと、母屋から一旦外に出ると、桜ハウスの玄関脇から、母屋に
行く途中にある小屋へと向かう。
「母屋にもあるけど…ここね、駐車場だったのを、一部つぶして
 改築したのよ」
そう言うと…
「渡り廊下もあるけど、今は使ってないの」
前に立って歩いて行く。
小さな小屋なのだが、母屋に対して、離れのような雰囲気もある。
小さな中庭に面した小屋、という風情だ。
「でもね、冬は風邪をひかないように、気を付けてね」
ポケットから、小さな鍵を取り出すと、ドアを開けてくれた。
「本当は、母屋からつながっているけど、わざわざ通るの、イヤでしょ?」
まだ珍しそうに、茶室のような小屋を見つめる待子に、
言い訳のように説明する。
「一応、鍵がかかるから…のぞきや外から人は、侵入できないとは
思うけど…」
大家さんは、中に足を踏み入れると、待子を手招きする。
「でも、何かあったら、遠慮せずに教えてね」と、非常用のインターフォンを
指し示した。

 初めての一人暮らし…
下宿屋さんが、本来はどんなものなのかは、待子は知らない…
これが普通なのか、いいのかどうかも、比べるものがないから、
わからない…
「一応、夕方6時~9時までの間になってるから、それまでに
入ってね」
「でも…どうやったら、自分の順番がわかるんですか?」
それは先ほどから、気になっていたことだ。
「一応、出る前に、声をかけて!
 そうしたら…ブザーで次の人に教えられるんだけど…
 できれば、次の人に言ってくれると、助かるわ。
 それに…すぐに他の人とも、仲良くなれるでしょ?」
ニコニコと微笑みながら、大家さんは言った。

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