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第4章 引っ越し前奏曲
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「ね、どうだった?」
早速その晩、杏子から電話がかかってきた。
メールでもよかったのだが、せめて声が聴きたい…と思っていたので、
いいタイミングではあった。
実を言うと…母淑子と、半ばケンカ勃発の1歩手前で、ようやく帰って
来たところ。
正直、シャワーを浴びるのでさえ、この日はおっくうだった。
「どうだったも、こうだったもないわよぉ」
思いっきりヘタレな声を出すと、シェアハウスとは名ばかりの、
古い下宿屋の話を、キョーコに話して聞かせる。
合間に、「えっ、うそっ!マジ?そんなこと…あり得ない」
と、合いの手が入るので…
「やっと、まともな人と、会話が出来た」とすっかり安心するのだった。
いわく、「おまえは贅沢だ」
「今日のあの態度は、なんだったのだ…」
散々淑子にせめられていたので、心底へこたれていたのだ。
本当に自分がワガママなのか、
私って、本当にゼイタクを言っているの?と、ひどく気になって
いたので、杏子の反応が、何よりもうれしいのだ。
「そうよねぇ~そう思うよねぇ」
杏子の言葉に、ようやく自分が間違っていないという、自信を
取り戻しているのだった。
「で、どうするの?」
受話器の向こうの杏子の声は、とても優しい。
「どうするも何も…勝手に契約をされちゃったわよ」
思い出すだけでも、泣きそうな気持ちになる。
あの母親に歯向かうなど…10年早いのだ。
帰り際の光景を思い出す…
あの魔女の館を出た後、まっすぐに、不動産屋に連れて行かれ、
仮契約をしてきたのだ。
「えっ、もう決めたの?」
電話の向こうで、杏子の驚いた声が響いて来る…
「そうよ、杏子は?」
「うちはまだ、これからよ」
「え~っ、私達より早く、見に行ったでしょ?」
これには、驚きしかない…
だって待子たちは、今日初めて行って、その日のうちに、
仮とはいえ、決めてきたというのに…
すると杏子は淡々と、
「だってさ…4年とはいっても、これからず~っと毎日
住むわけだから、気に入ったところに、したいじゃないのぉ」
あまりにももっともなことを言うので…
待子はその、あまりにも単純なことを、忘れていたことに
気が付いた。
早速その晩、杏子から電話がかかってきた。
メールでもよかったのだが、せめて声が聴きたい…と思っていたので、
いいタイミングではあった。
実を言うと…母淑子と、半ばケンカ勃発の1歩手前で、ようやく帰って
来たところ。
正直、シャワーを浴びるのでさえ、この日はおっくうだった。
「どうだったも、こうだったもないわよぉ」
思いっきりヘタレな声を出すと、シェアハウスとは名ばかりの、
古い下宿屋の話を、キョーコに話して聞かせる。
合間に、「えっ、うそっ!マジ?そんなこと…あり得ない」
と、合いの手が入るので…
「やっと、まともな人と、会話が出来た」とすっかり安心するのだった。
いわく、「おまえは贅沢だ」
「今日のあの態度は、なんだったのだ…」
散々淑子にせめられていたので、心底へこたれていたのだ。
本当に自分がワガママなのか、
私って、本当にゼイタクを言っているの?と、ひどく気になって
いたので、杏子の反応が、何よりもうれしいのだ。
「そうよねぇ~そう思うよねぇ」
杏子の言葉に、ようやく自分が間違っていないという、自信を
取り戻しているのだった。
「で、どうするの?」
受話器の向こうの杏子の声は、とても優しい。
「どうするも何も…勝手に契約をされちゃったわよ」
思い出すだけでも、泣きそうな気持ちになる。
あの母親に歯向かうなど…10年早いのだ。
帰り際の光景を思い出す…
あの魔女の館を出た後、まっすぐに、不動産屋に連れて行かれ、
仮契約をしてきたのだ。
「えっ、もう決めたの?」
電話の向こうで、杏子の驚いた声が響いて来る…
「そうよ、杏子は?」
「うちはまだ、これからよ」
「え~っ、私達より早く、見に行ったでしょ?」
これには、驚きしかない…
だって待子たちは、今日初めて行って、その日のうちに、
仮とはいえ、決めてきたというのに…
すると杏子は淡々と、
「だってさ…4年とはいっても、これからず~っと毎日
住むわけだから、気に入ったところに、したいじゃないのぉ」
あまりにももっともなことを言うので…
待子はその、あまりにも単純なことを、忘れていたことに
気が付いた。
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