桜ハウスへいらっしゃい！

第3章 魔女の館と、人の言う…

２２

　　帰りの新幹線の時間がなくなる、というので、淑子にうながされるまま、
フジヨシさんの車に乗り込もうとすると
「あら、新入り？」
玄関の靴箱の所で、外から戻って来たと思われる女性に、声をかけられた。
ちょっと派手目な服装で、髪を金髪に染めた、３０代くらいの女性だ。
淑子はその姿を見ると、たちまち眉間にシワを寄せて、にらみつける
ようにする。
その女性は、淑子の視線に気付かないのか、または無視をしているのか、
「ずいぶん、物好きな人もいるもんだわ～
　こんなボロっちいとこに、来るなんて！」
大きな声で言うので…
さすがのフジヨシさんも見とがめて、
「ちょっとあなた…失礼よ！」
たしなめるようにして、その女性に声をかける。
女性はそんなこと、頓着しない様子で、ささっとブーツを脱ぐと、
「まぁ、ここいらで一番、家賃も安いしねぇ。
　でも、お嬢ちゃんなら、もっといいトコ探せばいいのに」
これ見よがしに、声を張り上げると、気の毒そうな顔をして、
待子を遠慮なしに、ジロジロと見た。
待子はいきなりの出来事に…呆気に取られて、ポカンと
その女性を見つめる。
だが、周囲の視線などお構いないに、待子に近付くと、
「ねえあんた、知ってる？
　ここって、魔女の館って言われているのよ」
にやにやとした顔で、待子にささやいた。
「えっ？」と驚いた顔をする待子に、流し目で見ると…
「まぁここにいる住人は、みんな…変わった人ばかりだからねぇ」
器用に背伸びすると、上の方の段に、靴をおさめる。
「ま、そのうち、わかるわよ」
そう言うと…笑いながら、軽く手を振ると、待子たちの側を
すり抜けて、階段を上がって行った。