桜ハウスへいらっしゃい！

第3章 魔女の館と、人の言う…

１５

　　ミシミシと廊下を歩くフジヨシさんと、母淑子の後をついて歩く。
気持ちが重たいので、歩みものろのろとして、遅々として、２人の
距離は縮まらない。
洗濯場を抜けると、思ったよりも広い…
驚いていると、
「お布団をね、みなさんここで干したり、洗濯物を干したり
してるんですよ」
いつの間にか、大家さんが待子の背後について来て、そうっと
ささやいた。
なるほどそうやって見ると、５人分のフトンくらいは余裕で干せそうだ。
頭上には、他に物干し竿が２本、ぶら下がっている。
そして端の方には、洗濯機が３台置いてあったので、案外スムーズに
使えそうな気がしてきた。
「これはね、前住んでいた人が、置いて行った物なの」
さらに大家さんがささやく。
ここの住民は、もしかしたらそれなりに、仲良く暮らしているかも…と
待子も心が動き始めていた。

「だけどね！」
まだフジヨシさんは、口をはさむ。
「ここは何といっても、古いから…洗濯機をフル回転して、
ドライヤーとテレビと使っていたら、ブレーカーが落ちることが、
ままあるから、気を付けて下さいね」
さりげなく話すと、
「なによ、それ～！」
思わず待子が叫んだ。
母はジロリと待子を見るけれど…
「あら」と言うだけで、文句は言わない。
「なんだか、面白そうねぇ」
もはや他人事だ。クスクスと楽しそうに笑うので…
私は本当に、この人の娘で間違いはないのだろうか…と、
すっかり暗い気持ちになって来た…
明らかに、リゾート気分の大人たち。
こっちは、他人事じゃないよ！と、突っ込みたい気持ちだが、
待子はもう何も、口をはさむ余裕など、どこにも残されていなかった…