桜ハウスへいらっしゃい！

第１章 そして決戦の火ぶたが落とされる

１０

「でもね」と杏子は目をクルクルさせて言う。
「定期を作る方が、下宿代を出すよりも、安くつくって言うのよ！」
そう言い放つと…
「そのお金～せめてお小遣いに回してくれると、いいのになぁ」
ぼやくように言うけれど、内心本音が漏れているようだ。
「なんかすごいなぁ～オバサン！」
そこまで娘のことを思う親心も…まさに杏子たちにとっては、
驚きでしかないけれど…
杏子は大きくうなづき、
「なめんなよぉ～うちの母親！」
と言って笑う。
でも…とタイムリミットを思うと、２人は不安になり、
しばし黙り込んだ。
　扶養家族にとっては、母親、という存在は、もはや自分とは
考え方のレベルが違い過ぎる…というか、別の人種。
まったく歯の立たない相手、というのは同様なのだ。
黙って考え込み、しばし思いにふける…
静かにアイスティーをすする音のみが、響いてきた。

「でもね！魔法の言葉で、一挙解決！」
突然陽気な声で、杏子が言うので…
「なにそれ？」
聞かずには、いられない。
すると「うふふ…」
杏子はニヤリと笑って、チロリと舌を見せる。
いきなり厳かな声音を使って、
「かわいい子には、旅をさせよ、と言うでしょ？」
淡々と真面目に話す杏子。
「うん…」
うなづきつつも、何でもいいから、早く教えてくれ…
じれてくる待子であった。