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第17章 すべてはまぼろしに…
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「眠れてる?」
早速秀人が用意してきた父親の車のドアを開けると、玲は珠紀を
振りかえる。
「大丈夫よ」
目尻にしわを寄せて、無理に微笑むその顔は…痛々しいほどに
やつれていて、このまま消えてしまうのではないか、と思うくらいに
存在感が希薄だった。
「ね、大丈夫?」
「大丈夫よぉ」
うっすらと微笑む珠紀の手を、玲はキュッと握りしめる。
「無理して笑わなくてもいいのよ。
辛かったら言って。
私たち…親友でしょ?」
玲に続けて、車に乗り込もうとする珠紀に、玲は言わずにはおれなかった。
珠紀は一瞬、ポカンとしたけれど
「ありがとう」
そう言った顔は、わずかに赤味がさしていた。
「もういいかい?」
運転席から2人を見ていた秀人は、ようやく声をかける。
「あっ、すみません」
ニッと玲は、珠紀に向かって笑って見せる。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」
珠紀をうながすと、2人並んで後部座席に陣取った。
カーラジオからは、聞き覚えのある曲が流れる。
秀人は沈黙に耐えられず、ボリュームを上げた。
実は彼は先ほどから…言おうかどうしようかと、迷っていることがある。
だけどもそれは、珠紀にとっては、つらいことかもしれない…
と思うと、中々言い出せないでいるのだ。
それに、元々あそこに連れて行ったのは自分だし、
彼女たちを、危険な目に合わせたのも、自分のせいなのだ…と
思っていたからだ。
お互いに相手のことが気になるのに、どうしたらいいのか
わからない…と探り合っている状態だ。
話題はすぐに尽き、再び珠紀は黙り込む。
そうしてじぃっと、窓の外を眺めていた。
その手を、先ほどから玲が、ずっと握りしめている。
早速秀人が用意してきた父親の車のドアを開けると、玲は珠紀を
振りかえる。
「大丈夫よ」
目尻にしわを寄せて、無理に微笑むその顔は…痛々しいほどに
やつれていて、このまま消えてしまうのではないか、と思うくらいに
存在感が希薄だった。
「ね、大丈夫?」
「大丈夫よぉ」
うっすらと微笑む珠紀の手を、玲はキュッと握りしめる。
「無理して笑わなくてもいいのよ。
辛かったら言って。
私たち…親友でしょ?」
玲に続けて、車に乗り込もうとする珠紀に、玲は言わずにはおれなかった。
珠紀は一瞬、ポカンとしたけれど
「ありがとう」
そう言った顔は、わずかに赤味がさしていた。
「もういいかい?」
運転席から2人を見ていた秀人は、ようやく声をかける。
「あっ、すみません」
ニッと玲は、珠紀に向かって笑って見せる。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」
珠紀をうながすと、2人並んで後部座席に陣取った。
カーラジオからは、聞き覚えのある曲が流れる。
秀人は沈黙に耐えられず、ボリュームを上げた。
実は彼は先ほどから…言おうかどうしようかと、迷っていることがある。
だけどもそれは、珠紀にとっては、つらいことかもしれない…
と思うと、中々言い出せないでいるのだ。
それに、元々あそこに連れて行ったのは自分だし、
彼女たちを、危険な目に合わせたのも、自分のせいなのだ…と
思っていたからだ。
お互いに相手のことが気になるのに、どうしたらいいのか
わからない…と探り合っている状態だ。
話題はすぐに尽き、再び珠紀は黙り込む。
そうしてじぃっと、窓の外を眺めていた。
その手を、先ほどから玲が、ずっと握りしめている。
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