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第15章  ラストダンスはあなたと…

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「なに?なんですか?」
 彼の様子が、急におかしくなったのを、珠紀はすぐに気付いた。
「いや…なんでもない」
そう言うけれど、彼は明らかに、動揺しているようだった。
だが珠紀は、あえて何も聞こうとはしない。
このままでもいいか…と思ったからだ。

 さっき上って来た階段を、今度は降りて行く。
普段なら、面倒に思うはずなのに…珠紀の心は夢うつつ。
久し振りに、胸がときめいていて…何だかフワフワとおぼつかない。
武雄のことを、これまでで1番、身近に感じたからだ。
「キミも…明日、引き払う準備を…」と言いかけるけれど、
真剣な表情をしている彼の顔を見上げる。
(たとえ仮面で顔が半分、隠れていても…)
それでも彼に対する気持ちは、変わらない…
そんな風に、思っていたのだ。
(ばからしい…)
 それと同時に、彼は自分の心の変化に、ひどく動揺していた。
 ほんの数日、一緒にいただけの女の子に、心を惹かれるなんて!
しかもすっかり忘れていた、あの幼い頃の初恋の相手と、ダブルなんて…
(あり得ない)
正直そう思う。
(とにかく、1日でも早く、帰ってもらうしかない)
彼もまた、自分の心にフタをする。

 これは一時的な、気の迷いだ。
ただ情が湧いただけなのだ…
そう自分にも、言い聞かせてきた。
(女などに、うつつを抜かす時間など、存在しない。)
彼は自分を律するように、あえて自分に厳しくしていた。

 彼はある決意をしていた。
それは…1日でも早く、彼女を普通の暮らしに戻し、
そうしてあることを実行しよう…と決意していた。


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