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第13章  今宵一夜だけは…

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「それはどうだろう」
急に冷ややかな声で、男は珠紀を
見つめる。
その目はまるで、見知らぬ女を見るように
冷たくて、心のないロボットのような、
無表情な顔をしていた。
(どうして?)
珠紀は不思議に思う。
(この人に、暖かい心を取り戻して欲しい)
ふと、心の中から湧き上がってきた。
 一体自分は、どうしたというのだろう?
心の変化に、自分でも訳がわからず、
戸惑っていた。

   彼の心のアップダウンが、あまりにも
激し過ぎる。
珠紀はどうフォローしたらいいのか、
わからない…
さすがに困って黙りこむと、
それまで背中を向けていた彼が、ふいに振り向き
「すまない」
ポツリと言った。
「君のような、若い女の子の相手を
するのに、慣れていないんだ…」
珍しく彼が、頭を下げる。
(どういう風の吹きまわし?
珠紀はそう思うけれど、
「お母さんって、素敵な方だったんでしょうね」
バラを型どったブランコに、ストンと
腰を下ろすと、珠紀はうっとりと眺める。
こんな素敵な場所は、見たことがない、と思う。
「そうだなぁ」
ちょっと考え込んだ後
「いつも優しかったよ。
 ボクのこと…とても心配してくれたし」
彼は遠い目をする。
それから思いきったように、彼女を
まっすぐに見つめると
「ところで君は…ボクのことが、
 怖くは、ないのか?」
いきなり言った。
「えっ、なぜですか?」
真面目な瞳が、じっと珠紀の目を
捕らえている。
「だってボクは…君を閉じ込めた人間だ」
そう言うと、再び暗い表情になる。
正直言うと…彼の機嫌を損ねるのが
怖い…とはおもう。
それでも…珠紀は少し考えたあと
「だって、事情がおありですよね?」
ニコリと微笑む。
確かに…怒らせたら、帰してもらえない!
そう考えたこともある。
それでも…
珠紀は少し考えて
「だって、事情があるんですよね?」
微笑みながら言った。
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