ラストダンスはあなたと…

第１０章 思いがけない味方

５

「でも…私、帰らないと、みんなが心配するし…」
　おそらく今頃、玲が自分のことを探しているのだろう…と、珠紀は思う。
するとオバサンは、申し訳なさそうに頭を振ると、
「ごめんなさい。すぐにすぐは…難しいかもね」
静かに珠紀に言う。
「このまま、逃げるのは？」
丁度2人きりになったので、先ほどまで考えていたことを口にすると、
なぜだかオバサンは頭を振る。
「ここには、たくさんのしかけがあって、下手に逃げ出すと、
　アラームが鳴るしかけになっているの。
　すぐに警備の人が飛んでくるシステムになってるわ」
申し訳なさそうに言う。
ここにそんな仕掛けが？
前時代的な建物だし、ほとんど人の気配もしない、と思っていると
「ここはね、地下なの。どことは言えないけれど」
　さすがにこれ以上は、教えられない…と、オバサンは口をつぐむ。
　
　あの庭ではないの？
　ホテルでもないの？
　やはり、逃げるのは無理なのか…
珠紀は絶望的な気持になる。
「でも、安心して！
　私が絶対に、あなたを家に帰してあげるから！」
不安そうな顔をする珠紀に向き直ると、力強い声でそう言った。
「でも…見つかると、怒られるんでしょ？」
このオバサン、本当に大丈夫なのか、と急に不安になる。
「坊ちゃんはああ見えて…昔はとても、優しい子だったのよ。
　あんなことがあってから、すっかり気難しくなったけど」
　少し悲しそうな顔をする。
やはりこの人は、ここのことをよく知っているんだ…と、
珠紀はそれだけは、確信した。
ならば、この人を味方につけるしかない。
そう思うのだった。