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第5章  謎の肖像画

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  この階段ホールは、闇のように暗い…
よくこんなところを、平気で歩けるものだ、と珠紀は感心する。
建物の構造のせいか、やけに声がワンワンと響く。
もしかしたら、下の階の階段にも、聞こえるのでは、と思っていると…
「大丈夫!私はこの階段、慣れているから」
オバサンは、ニコリと微笑んだ。
「怖くはないんですか?」
思わず放った言葉に、オバサンは軽く頭を振る。
「仕事で何回も、行ったり来たりしているからねぇ。
 もう慣れっこよ。
 でも、初めは怖かったわねぇ」
楽しそうに、珠紀と玲を見つめる。
「でもまぁ、あなたたちは、エレベーターを使った方がいいわね!
 この階段、何が出るか、わからないし」
 まるで脅かすように、オバサンは平気な顔で、サラリと並べ立てる。

 ほら、やっぱり!
勝ち誇ったように、玲は珠紀をチラリと見る。
そんなこと言っても、あのエレベーターだって、十分怖いんだけど?
そう珠紀が思うのだが…
「ところであなたたち、どこに行くつもりなのかしら?」
ふいに気が付いたように、オバサンは2人に声をかける。
 そろそろ仕事に戻らないといけないのか、手にしていた荷物を、
握りなおした。

「どこにって…フロントに」
真面目な顔で、珠紀が答えると、
「そう…」
それでもオバサンは、何だかとても奇妙な顔をした。
 やはり、階段はダメなのか…
珠紀はちょっと、気おくれがした。
確かに薄暗くて、普通の階段とは違い、この階段ルームは、
先がよく見通せない。
自分の足元も、見えづらいので、危ないといえば、危ないのかもしれない…
と、むりやり納得していると、オバサンは何事か考えているようだった。

「とにかく気を付けて」
オバサンは小声で、ポソリとつぶやいた。
どういう意味、と思うけど、あんまり真剣な顔をして、そう言うので…
珠紀は思わずつられて
「はい」と答えた。
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