御手洗さんの言うことには…

３１

ソータローのこと…10

「かんばやし？」
　ハッと清子は、口ごもる。
「リョウくんって…かんばやしって言ってたっけ？」
さすがにそこまでは、覚えてはいない。
「人違いだろ？」
　それに、リョウくんって、誰だ？
これで、話はおしまい…とばかりに、宗太郎は打ち切ろうとする。
「待って、待って！
　かんばやしくんの下の名前って…何て言うの？」
珍しく清子は、引き下がろうとはしない。
「えっ？」
　何だか、面倒くさいなぁ～
　それを知って、どうしようと言うんだよ？
明らかに宗太郎は、ちょっとイヤな顔をする。
「え～っ、知らないよ。
　いちいち下の名前なんて」
それに、呼んだりしないからな、と宗太郎はムッとした顔になる。

　だけど清子は、さらに宗太郎に向かい、
「ねぇ、思い出してよぉ。
　かんばやしくんの下の名前！」
やけにしつこく、聞いてくる。
「え～っ、何て言ったっけなぁ」
どうやらこのまま、見逃してくれそうにないので、仕方なく思い出そうと
している。
「リョースケ？
　リョータ？
　そもそも何で、そんなことを聞くんだよぉ」
ブツブツと文句を言う。
「そんなに知りたかったら、清子が聞けばいいだろ」
プイッと、顔をそむける。
「ふーん、まぁ、いいわ。
　とにかく《リョウ》って、言うんだね？」
清子は意味あり気に、つぶやいた。
「なんでそんなに、こだわるんだ？」
　どうやら宗太郎は、まだ気づいてはいないようだ。
「そんなの…自分で、考えなさいよ！」
何でもかんでも、人に頼るのは感心しないわねぇ～
清子は、すぐに教えるのは止めた。