御手洗さんの言うことには…

９

まさか、お嬢様？

「ねぇ、ねぇ、知ってる？」
　興奮したように、サヤカが教室に飛び込んでくる。
「何よ」
そんなにあわてて、走ってくるほどのこと？
「ちょっと！ホコリが入るから、ドタバタしないで！」
カナエは、弁当箱のフタを閉じる。
「ごめん、ごめん」
サヤカは両手を合わせると、持ってきたレジ袋を、ドスンと机の上に置く。
「なに？購買で、新しいパンでも見付けた？」
からかうように、サナエは口をはさむ。
サヤカはたいてい、弁当をコンビニか購買で買っている。
自分で作るくらいなら、ゆっくりと寝ていたい、と思うようだ。
お母さんは？と聞くと、高校生になったのだから、自分でどうにかしなさい、
という考えなのらしい。

　変わっているなぁ～
カナエはそう思い、お箸を握りしめる。
だけど、いつもパンだと、お小遣いが足りなくなったりはしないのか？
そんな、余計な心配までしてしまう。
昼休憩は、いつも…教室を越境して、グループで食べることが多い。
先生も、その辺は心得たもので、うるさく目くじらを立てたりはしない。
「あのね、あの子…
　どうやら、お金持ちのお嬢様なのかもしれない！」
　冷めた目をするクラスメイトに向かい、サヤカは再び大きな声を出す。
「しぃっ！
　周りの人が、ドン引きしてる！」
たしなめるように、ユウコが言う。
「あっ」
あわてて口を閉じると、ストンとあいている席に、腰を下ろした。
「何よぉ～あの子って、だれ？」
ナギコは、サヤカに聞いてみる。
　すると、待ってました、とばかりに目を輝かせると、サヤカは仲間たちの
顔を見た。
「ねぇ、御手洗さんって、どんな所に住んでいるか、知ってる？」
目を爛々とさせて、聞いてくる。
「何よぉ～普通の家でしょ？」
あの、ちょっと変わった雰囲気の子のことが、そんなに気になるの？
ヘンなの！
ナギコは冷静にそう思うと、弁当箱を開けた。