となりのソータロー

第5章

６

　ん？
　何か、マズイことでも言ったか？
　せっかく、話を聞き出せそうだと思ったのに…
高梨先生は、少し残念そうな顔をする。
　急に龍友は、再び能面のような無表情になると、
「危ないなぁ」
ボソリとつぶやく。
（えっ、どうした？）
さっきは照れくさそうな、はにかむ表情が、チラリと見えたのに、
また引っ込めてしまった。
「その手には、乗りませんよ」
　にぃっと彼は笑う。
（何なんだ？）
　まるで彼が二重人格のようだ、と宗太郎たちが言っていたのだが、
このことだったのか、と先生は気付く。
おそらくは、感情の切り替えスイッチのようなものが、どこかに
あるのだろう。
どこにそれがあるのか、高梨先生にも、まったく読み取ることが
出来なかった。

「先生！」
　龍友が、やけにツルっとした、仮面をかぶったような顔をして、
まっすぐに先生を見る。
「ボクも…規則には、はみ出さないように気を付けます。
　だから…しばらくは、ソーッとしておいてくれませんか」
先生の手前、抑え気味ではあるけれど、取り付く島もないくらいに、
一切のすきを見せようとはしない。
「そうか？
　でも…困ったことがあったら、必ず相談してくれよ」
　せめて、学校では孤立しないように…
先生は、それだけを願っていた。