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恭介の傷
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恭介は幼稚園の頃からかっこいい王子様だと騒がれてきた。
もちろん子供心に褒められていたのはわかっていた。
発表会では主役、運動神経も良かったからリレーのアンカーだったし、常に憧れる存在としてチヤホヤされてきた。
だけどずっと同じ顔触れでやってきた級友たちは「恭介とはそういうもの」と慣れていたし、それぞれが必ず何か秀でていたから嫉妬で意地悪をされるということもない。みんなが俺ってすごいと思い込んでいた幸せな奴らだったのだ。
恭介自身も自分ならなんでもできると思っていたし、それを負担に思うこともなかった。
ただ、それは幼稚園からのエスカレーター組だけで、途中進学組には面白くなかったらしい。
恭介が何かに選ばれるたびにニヤニヤしながら「やっぱすごいねえ~幼稚園からここにいると違うよなあ」と嫌味を言う奴が現れてきた。
友達は気にするなって言うけれど、そいつらの手口は巧妙でめんどくさい事も「さすが平野くん」と押しつけて「やれないはずないよね?」と強要する。
断ればいいのに負けず嫌いだったから受けて立つし、結果を出すのが恭介だった。
だけど限度を越えれば疲弊する。疲れるなと思った時にはもう「やって当然。やれるのが平野」という雰囲気が出来てしまった。
嫌だと言えばいいだけなのに、それを言いたくない意地。だから余裕な顔をしてなんでもこなした。ニヤニヤしながら眺めていた奴らも最後は気まずそうに顔をそらしたから、勝負は恭介の勝ちだったんだろう。
まあ、大人になってしまえばあの時無理をしてでもやりきった事が今の自信につながっているのもある。お客様のどんな要望もこなそうとする根性もついた。
だけど今もそれを続けている気がするときがある。
負けたくない一心で無理をしてでも平気な顔で王子様を演じている。
日永だけではないのだ。
恭介をすごいと持ち上げ憧れを込めて見つめてくる奴は。
なのになんで彼に対してあんなにムカついたんだろう。そんなのは自分じゃないって、作りものなのにって。何でわかってくれないんだろうって腹を立てた。
日永に何も悪いところはなかった。
あの人は最初からあんな感じだったし、恭介信奉者だったから。
寝返りを打ちながらスマホの電源を入れると、日永からのラインが未読のままになっているのが目に入った。何か返さなきゃと思うのに、どう返信していいのか思いつかない。
適当に「ちょっとお腹が痛くなっちゃって」とか返せば円満に終わるのに、嘘をつきたくなかった。
だけどこの気持ちをどう伝えていいのかも閃かない。
「悪い事したよなあ」
あんなに一生懸命美味しい料理を作ってもてなしてくれたのに、ただ恭介を褒めてくれただけなのに一方的に突き放した。
恭介自身にも理解できないモヤモヤをただぶつけてしまった。
普段ならもっとスマートにできるものが日永相手だと狂う。どこかに甘えが生じる。
タイミングがいいのか悪いのか、明日から日永はもうホテルにはこないし会おうとしなければずっと顔を合わさずに済む。このまま距離を取ってもいいんだよなと心の中の悪魔が囁いた。
どうせ仕事の付き合いだし、日永だってホテルでの仕事がやりやすいようにお世辞を言っていたのかもしれないし。デイジーにだって関わらなければいいだけ。お店に行かなければそれで終わり。いつか「面白いお店があったよな」と話題になる程度だ。
今更王子様の仮面を脱ぐわけにはいかない。
それを取ったら恭介じゃなくなってしまう。だから日永の近くにいるのは危険だ。
恭介は日永からのラインを消去すると、そのまま布団を頭からかぶって目を閉じた。
とりあえず寝よう。睡眠不足だったし疲れているからこんなにメンタルが落ちるのだ。スッキリしてそれから考えよう。まずは立て直さなければ。
恭介のモヤモヤする気持ちも仕事が始まってしまえば落ち着いていった。
レストランのランチも通常営業だ。満席だけどあんな行列ができるわけでもない。
いつも来てくださる常連客が恭介にもあいさつをしながらフロントの前を通り過ぎていく。日永のランチの時には賑やかすぎてこれなかったとぼそりとこぼしていくお客様もいた。
確かにスペシャルなイベントは華やかで話題になるけれど、ゆっくり静かにホテルランチを楽しみたい方には近寄りにくい期間だっただろう。
まるで嵐のような日々だった。デイジーとの出会いから日永の登場と毎日が騒がしくスペシャルな日々だったのだ。
だけどそれも落ち着く時が来る。
恭介にとっての居場所はこのホテルで、贅沢な空間だけど落ち着ける。そんな場所を作っていくのが恭介の仕事だ。
いつしかあれも過去の事で「こんなイベントもやったよな」とホテルの一ページになっていく。
そんな風に毎日が過ぎていった。
再び嵐が起きたのは笹屋からの誘いがきっかけだった。
もちろん子供心に褒められていたのはわかっていた。
発表会では主役、運動神経も良かったからリレーのアンカーだったし、常に憧れる存在としてチヤホヤされてきた。
だけどずっと同じ顔触れでやってきた級友たちは「恭介とはそういうもの」と慣れていたし、それぞれが必ず何か秀でていたから嫉妬で意地悪をされるということもない。みんなが俺ってすごいと思い込んでいた幸せな奴らだったのだ。
恭介自身も自分ならなんでもできると思っていたし、それを負担に思うこともなかった。
ただ、それは幼稚園からのエスカレーター組だけで、途中進学組には面白くなかったらしい。
恭介が何かに選ばれるたびにニヤニヤしながら「やっぱすごいねえ~幼稚園からここにいると違うよなあ」と嫌味を言う奴が現れてきた。
友達は気にするなって言うけれど、そいつらの手口は巧妙でめんどくさい事も「さすが平野くん」と押しつけて「やれないはずないよね?」と強要する。
断ればいいのに負けず嫌いだったから受けて立つし、結果を出すのが恭介だった。
だけど限度を越えれば疲弊する。疲れるなと思った時にはもう「やって当然。やれるのが平野」という雰囲気が出来てしまった。
嫌だと言えばいいだけなのに、それを言いたくない意地。だから余裕な顔をしてなんでもこなした。ニヤニヤしながら眺めていた奴らも最後は気まずそうに顔をそらしたから、勝負は恭介の勝ちだったんだろう。
まあ、大人になってしまえばあの時無理をしてでもやりきった事が今の自信につながっているのもある。お客様のどんな要望もこなそうとする根性もついた。
だけど今もそれを続けている気がするときがある。
負けたくない一心で無理をしてでも平気な顔で王子様を演じている。
日永だけではないのだ。
恭介をすごいと持ち上げ憧れを込めて見つめてくる奴は。
なのになんで彼に対してあんなにムカついたんだろう。そんなのは自分じゃないって、作りものなのにって。何でわかってくれないんだろうって腹を立てた。
日永に何も悪いところはなかった。
あの人は最初からあんな感じだったし、恭介信奉者だったから。
寝返りを打ちながらスマホの電源を入れると、日永からのラインが未読のままになっているのが目に入った。何か返さなきゃと思うのに、どう返信していいのか思いつかない。
適当に「ちょっとお腹が痛くなっちゃって」とか返せば円満に終わるのに、嘘をつきたくなかった。
だけどこの気持ちをどう伝えていいのかも閃かない。
「悪い事したよなあ」
あんなに一生懸命美味しい料理を作ってもてなしてくれたのに、ただ恭介を褒めてくれただけなのに一方的に突き放した。
恭介自身にも理解できないモヤモヤをただぶつけてしまった。
普段ならもっとスマートにできるものが日永相手だと狂う。どこかに甘えが生じる。
タイミングがいいのか悪いのか、明日から日永はもうホテルにはこないし会おうとしなければずっと顔を合わさずに済む。このまま距離を取ってもいいんだよなと心の中の悪魔が囁いた。
どうせ仕事の付き合いだし、日永だってホテルでの仕事がやりやすいようにお世辞を言っていたのかもしれないし。デイジーにだって関わらなければいいだけ。お店に行かなければそれで終わり。いつか「面白いお店があったよな」と話題になる程度だ。
今更王子様の仮面を脱ぐわけにはいかない。
それを取ったら恭介じゃなくなってしまう。だから日永の近くにいるのは危険だ。
恭介は日永からのラインを消去すると、そのまま布団を頭からかぶって目を閉じた。
とりあえず寝よう。睡眠不足だったし疲れているからこんなにメンタルが落ちるのだ。スッキリしてそれから考えよう。まずは立て直さなければ。
恭介のモヤモヤする気持ちも仕事が始まってしまえば落ち着いていった。
レストランのランチも通常営業だ。満席だけどあんな行列ができるわけでもない。
いつも来てくださる常連客が恭介にもあいさつをしながらフロントの前を通り過ぎていく。日永のランチの時には賑やかすぎてこれなかったとぼそりとこぼしていくお客様もいた。
確かにスペシャルなイベントは華やかで話題になるけれど、ゆっくり静かにホテルランチを楽しみたい方には近寄りにくい期間だっただろう。
まるで嵐のような日々だった。デイジーとの出会いから日永の登場と毎日が騒がしくスペシャルな日々だったのだ。
だけどそれも落ち着く時が来る。
恭介にとっての居場所はこのホテルで、贅沢な空間だけど落ち着ける。そんな場所を作っていくのが恭介の仕事だ。
いつしかあれも過去の事で「こんなイベントもやったよな」とホテルの一ページになっていく。
そんな風に毎日が過ぎていった。
再び嵐が起きたのは笹屋からの誘いがきっかけだった。
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