兄になるのも悪くない。

kuro-yo

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「見て、お兄ちゃん。サクラ、可愛い?ねえ、可愛い?」

 ママが押し入れの奥からひっぱり出してきた女児向けの子供服に着替えたサクラは、俺の前でスカートを両手でちょっとつまみあげながらくるりと一回転して、ポーズをとった。

「うっ、サクラは可愛い服が似合うんだな…。」

 くそっ、中身は兄貴のくせに、なんて可愛いんだ。

「そういえば、ユウキ、今日は出掛けるんじゃなかったの?」

「あー…うん。」

「じゃあ、多めにお小遣いあげるから、二人で出掛けたら?」

「げっ。」「ありがとう、お母さん。」

 まいったな。

「お兄ちゃん、サクラ、遊園地行きたいな。」

「あー…時間があったらなー」


 ~


「サクラ」

「なに?」

「くっつくんじゃない。恥ずかしいから。」

 可愛い服に身をつつみ、可愛い小物を身につけるサクラは、家を出てからずっと、歩いている時も電車に乗る時も、俺の腕にしがみつくようにして体を寄せている。

「ええ、いいじゃん。こういうの好きでしょ、お兄ちゃん。」

「別に好きなわけじゃ…」

 弱いだけだから。うん。

「よう、アマキ。買い物か?…その子だれ?アマキが知らん女連れとは珍しい。」

 デパートの書籍売り場で、学校の友人に出会ってしまった。

「これは、その、」「初めまして。妹のサクラです。いつも兄がお世話になってます。」

「これはこれはご丁寧にどうも。…アマキ、おまえ妹なんかいたのか。がさつなおまえと違ってしっかりしてるな、あはは。」

 友人が俺の肩をばしばしと叩きながらそう言った。

「あー、それについては学校で話すわ。今はこいつの面倒みなきゃならないんでな。サクラ、遊園地行くぞ。じゃ、またな。」

「お、おぅ。」

 俺はサクラの手を引いて、なにかまだ言いたそうな友人の前から足早に去った。

「お兄ちゃん、さっきみたいな別れ方はお友達にちょっと失礼だよ。」

 サクラは頬を少しふくらませてそう言った。くっ、その姿で言われると、として言われるよりきついな。

「す、すまん。サクラ。」

 そう言うとサクラはにこっと笑顔になった。

「怒ってないよ。ほら、早く遊園地行こう。」


 ~


 遊園地では、二人で楽しめる遊具をひと通り堪能した。人生初のお化け屋敷にも入り、サクラはきゃあきゃあとはしゃいでいた。本当に楽しかった。

 別にで遊園地に来た事がないわけじゃない。あれに乗りたい、これが食べたい、と俺が兄貴をひっぱりまわすのを、兄貴が苦笑いしながらだまって着いてきてくれていたのを良く覚えている。

 それが立場が逆転して、自分がサクラに翻弄される側になったら、さぞかし面倒だろうなどと思っていた。

 しかし、蓋を開けてみれば、そこにはにひっぱり回される事を結構楽しんでいる自分がいた。今を心の底から楽しむを見守る事に、誇らしさを感じる自分がいた。

「きれいね、お兄ちゃん。」

 天辺まで上がった観覧車の中で、夕焼けに染まりかけた空が地平に向かって描く虹色のグラデーションを眺めながら、サクラが呟いた。

「だな。…サクラ、今日は楽しかったか?」

「うん。またお出掛けしようね。」

「あー…いや、しばらくは勘弁して欲しい。」

「なんで?お兄ちゃん、こういうの好きな癖に。」

 別に好きなわけじゃない。弱いだけだ。

 帰りの電車の中ではずっと、遊び疲れたサクラは俺に寄りかかり、静かに寝息をたてて居眠りしていた。

 普段の兄貴なら、これくらいの事で居眠りしたりはしないのだが、やはり若い体では疲れ方も早いのかもしれない。

 降車駅で起こしたが、改札を通ったあとも眠そうにしているサクラが可愛いそうになり、最後は家までサクラをおぶって帰るはめになった。

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