断崖

ツヨシ

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細く狭い範囲に、強力でなにかよくわからない不気味なものを宿す深い目に。

その目に俺は心底恐怖した。

しかし千石の恐怖を感知する機能は、半ば壊れている。

「おい、聞いてんのかよ」

千石の声に小久保が応えた。

「そうだ、思い出した。僕はもう死んでしまったんだ。その断崖絶壁から落ちて」

「そうだよ。おまえはもう死んだんだよ。ぐずぐずしてる暇はないぜ。よい子はとっととあの世に行く時間だぜ」

「そうそう、思い出した。思い出したよ。全てね」

「そりゃよかった。だったらさっさとあの世に行けよ」

「うん、全部思い出したからね」

小久保が笑った。

千石の無駄に柔軟な顔が作り出すぬちゃっとした笑いではない。

それでいて千石以上に異様で奇妙な顔で。

無機質。鉱物。

そういった人間ではない、それどころか生き物ですらないなにかが笑ったもの。

俺にはそうとしか見えなかった。
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