呻き

ツヨシ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

呻き

しおりを挟む
集金の仕事はろくでもない。
素直にお金を払わない人が多いからだ。
身の危険を感じることも珍しくない。
人間はお金が絡むとなにをしでかすかわからない。
でもそんなありがちな話ではないこともある。

あるアパートに集金に行ったときのことだ。
恐ろしく古いアパートで、一見廃屋に見えるのだが、人が住んでいる。
一人。
全部で六部屋あるのだが、住んでいるのは痩せて青白い顔をした中年男一人だけだ。
その男の部屋に集金に行ったことがある。
部屋には入口の横の目の高さくらいのところに小さな窓があるのだが、その窓がなぜか開いていた。
中を見たが誰もいない。
部屋は狭く一部屋なので、窓から内部が全て見える。
ちなみに風呂はなく、トイレと台所は共有だ。
――今はいないみたいだな。
そう思い、督促状をドアに挟んで帰ろうとした。
そのとき、聞こえてきた。
人の声。
なにを言っているかはわからない。
聞いているうちに、声と言うよりなにか呻いているように聞こえてきた。
驚き、もう一度部屋をのぞいたが、やはり誰も見当たらない。
――なんなんだ、いったい。
なんだか恐ろしくなり、その日は帰った。

しばらくして男を訪ねたが、また窓が開いていた。
中を見たが誰もいない。
もう一度督促状をドアに挟もうとした。
が、前に挟んでいた督促状がそのままになっていた。
どうしようもないなあと思いつつ、もう一枚の督促状を挟もうとした。
そのとき、再び聞こえてきた。
人の声。
呻いているような、もがき苦しんでいるような。
中をのぞいたが、誰もいなかった。すると呻き声が急に近づいて来た。
もう私のすぐ目の前から聞こえてくる。
それなのにどう見ても誰もいないのだ。
私は督促状を手にしたまま、その場から走り去った。

数日後、ある男が逮捕された。
容疑は殺人。
殺されたのは呻き声が聞こえてきた部屋に住んでいた男だった。
しかも男は、私が最初に訪ねた日よりも前に、殺されていたのだ。

       終
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

影を見た

ツヨシ
ホラー
もう一人の自分を見た

怪談実話 その4

紫苑
ホラー
今回は割とほのぼの系の怪談です(笑)

[完結済]短めである意味怖い話〜ノロケ〜

テキトーセイバー
ホラー
短めである意味怖い話を集めてみました。 オムニバス形式で送りいたします。 ※全て作者によるフィクションです。 タイトル変更しました。

全ての者に復讐を

流風
ホラー
「ちょっとだけならいいよね?」 始まりは、女神の暇つぶしだった。 女神により幸運値を最低限まで下げられた15歳の少女。そのため人生最悪。学校で、SNS上でイジメにあった。 最終的に妊娠してしまい、そのまま生埋め。 恨みを持って死んでしまった少女の復讐が始まる。その復讐相手は誰なのか、神以外知らない。 ※卑猥な単語と残虐な表現があるため、R-15にしています。 ※全4話

10秒でゾクッとするホラーショート・ショート

奏音 美都
ホラー
10秒でサクッと読めるホラーのショート・ショートです。

ちょこっと怖い話・短編集(毎話1000文字前後)──オリジナル

山本みんみ
ホラー
少しゾワっとする話、1話1000文字前後の短編集です。

とある紙の話

またり鈴春
ホラー
このお話しに登場するのは、 とある紙と、手相と、個々の価値観のみ

生きている壺

川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。

処理中です...