1 / 1
1
しおりを挟む
僕の住む漁港の沖に、島があった。
小さな島だ。
地元では有名な島だった。
漁師町なのに、漁師が誰一人として立ち入らない島だ。
噂があった。
ずっと昔から。
それはあの島にはなにかがいると言う噂だ。
子供の頃から聞いてきた。
ただ、なにかいると言う話だが、いつ、誰が、なにを見た、と言う具体的な話は一切ない。
だから僕はその噂を信用していなかった。
ある日、僕は海に出た。
父の漁船で。
漁船と言っても大きめのボートに一部屋根がついたようなしろものだ。
父に連れられて何度か漁に出たことがあるので、船の操作の仕方はわかる。
目的は例の島だ。
それほど遠くないところにある。
一度近くを通ったことも。
迷うことなく島に着く。
小さな砂浜に船を停めた。
その砂浜以外は木々が生い茂るばかりだ。
砂浜を眺めた後、森に入る。
しばらく歩いたが、景色はそう変わらない。
とりあえず島の反対側に出ようと思った。
距離はそんなにはない。
そのまま歩いていると、不意になにか見えた。
目の前の細い木から、横になにかが飛び出して動いている。
よく見るとそれは人の手だった。
真っ白で細い手がうねうねと動き、こちらを手招きしているように見えたのだ。
それだけでも充分に異様だが、問題は手が飛び出している木だ。
その位置からして木の後ろに人がいるとしか考えられないのだが、その木はとても細く、人が隠れられるような太さには全然足りない。
――ひえっ!
慌てて振り返り、走り出す。
すると別の細い木の横からまた手が。
無視して走っていると、次はすぐ目の前に白い手がぶらんと下がってきた。
それも避けて、息も絶え絶えながら船にたどり着いた。
慌ててエンジンをかけて島から離れようとすると、今度は海の中から何十何百という手が現れたのだ。
そのうちのいくつかは、船のへりをつかんでいた。
――!
文字通り必死で船を操作して、なんとか帰ることができた。
僕はごく親しい人には島に行ってなにかを見たと言ったが、なにを見たのかは何度聞かれても答えなかった。
とにかく言いたくなかったのだ。
その後、島の噂は相変わらず、あの島にはないかいる、のままだ。
終
小さな島だ。
地元では有名な島だった。
漁師町なのに、漁師が誰一人として立ち入らない島だ。
噂があった。
ずっと昔から。
それはあの島にはなにかがいると言う噂だ。
子供の頃から聞いてきた。
ただ、なにかいると言う話だが、いつ、誰が、なにを見た、と言う具体的な話は一切ない。
だから僕はその噂を信用していなかった。
ある日、僕は海に出た。
父の漁船で。
漁船と言っても大きめのボートに一部屋根がついたようなしろものだ。
父に連れられて何度か漁に出たことがあるので、船の操作の仕方はわかる。
目的は例の島だ。
それほど遠くないところにある。
一度近くを通ったことも。
迷うことなく島に着く。
小さな砂浜に船を停めた。
その砂浜以外は木々が生い茂るばかりだ。
砂浜を眺めた後、森に入る。
しばらく歩いたが、景色はそう変わらない。
とりあえず島の反対側に出ようと思った。
距離はそんなにはない。
そのまま歩いていると、不意になにか見えた。
目の前の細い木から、横になにかが飛び出して動いている。
よく見るとそれは人の手だった。
真っ白で細い手がうねうねと動き、こちらを手招きしているように見えたのだ。
それだけでも充分に異様だが、問題は手が飛び出している木だ。
その位置からして木の後ろに人がいるとしか考えられないのだが、その木はとても細く、人が隠れられるような太さには全然足りない。
――ひえっ!
慌てて振り返り、走り出す。
すると別の細い木の横からまた手が。
無視して走っていると、次はすぐ目の前に白い手がぶらんと下がってきた。
それも避けて、息も絶え絶えながら船にたどり着いた。
慌ててエンジンをかけて島から離れようとすると、今度は海の中から何十何百という手が現れたのだ。
そのうちのいくつかは、船のへりをつかんでいた。
――!
文字通り必死で船を操作して、なんとか帰ることができた。
僕はごく親しい人には島に行ってなにかを見たと言ったが、なにを見たのかは何度聞かれても答えなかった。
とにかく言いたくなかったのだ。
その後、島の噂は相変わらず、あの島にはないかいる、のままだ。
終
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる