立つ男

ツヨシ

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私は高校を卒業すると、クレーン車を製造する会社に勤めた。
研修期間として配属されたのは、製品検査の部門だった。
製品検査とは一言で言うと、クレーンが正しく稼動するかどうかを調べる仕事だ。
たとえば配管を逆に繋いでしまうと、右に動くはずが左に動くこともあるそうだ。
十年ほど前になるが、その時も配管を逆に繋いでしまい、クレーンが上に動くはずが下に動き、おまけに下に人がいたために、その人がクレーンと車体に挟まれて亡くなってしまったという事故があったと聞いた。
何トンもの鉄の塊に挟まれて、人としての原型を留めなかったという。
それ以来クレーンの稼動を調べるときは、操作する人以外はクレーン車に近づかないように徹底しているそうだ。


ある日私は班長と主任の三人で、製品検査をしていた。
班長も主任も、入社して二十年以上になるベテランだ。
主任がクレーンを操作し、班長と私が少し離れた場所でそれを記録する。
お互いのやり取りは、マイクとスピーカーを使って行なっていた。
そして班長が「次、右」と言い、主任が「はい」と言ったときに、私はクレーンのすぐ右に人が立っているのを見た。
私は慌てて主任に向かって「ストップ、ストップ!」と叫んだ。
班長が「なんだ」と言い、主任も「どうした」と言いながらクレーン車から降りてきた。
私は言った。
「クレーンの右に人がいました」
二人ともクレーン車を見た。
そこにはだれもいなかった。
さっきまで確かにいたはずなのに。
「誰もいないぞ」と班長。
「ほんとにいたのか?」と主任。私は言った。
「いました。後姿ですが、やけに背が高くてものすごく痩せた人が」
班長と主任はお互いに顔を見合わせた。
心なしか二人とも、なんだか顔が青ざめているように見えた。


翌日、私は製品検査部門から、別の部門に所属変更されることが決まった。


       終
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