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第六章 取り戻しに行く俺

165、ダンジョンマスター

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「マスター!」

 懐かしい、その声……。
 水色の髪に、水色の服を纏い。
 幼い女の子の姿をした、まるで人のような存在。

 マリーは怪我をする前と全く変わらない姿で、俺の目の前にあらわれたのだ。

「…………っ、マリー!」
「マリーさん!!」

 俺は飛び出してきたマリーの姿を認識すると、今の状況など関係ないとマリーを抱きしめていた。

「ま、マスター! ワシに会えて嬉しいのはわかったのじゃ、しかし今はそれどころでは……!」

 俺は今はもうマスターじゃないのに、今も俺の事をマスターと呼ぶその声に泣きそうになる。
 そんな俺を見てなんとも言えない表情をしたまま、焦るマリーは俺に叫ぶ。

「うぬぬ……っ! マスター、急いでこのダンジョンボックスに『プロテクト・ゾーン』を使うのじゃ!」
「……っ!」

 その言葉にハッとした俺は、すぐにマリーの言いたいことを理解した。
 今このダンジョンにはダンジョンマスターがいない。それは俺がダンジョンマスターになった状態と同じである事。
 そしてモンスターの暴走は、ダンジョンマスターが突然消えた事に関係している事。

 つまり、新しいダンジョンマスターが生まれさえすればモンスターの暴走は止まり、全て元通りになる筈なのだ。
 何よりダンジョンを取り戻す為にここに来た俺にとって、再度ダンジョンマスターになると言うことは願ったり叶ったりな事だった。

 8年前のあの日から最近まで、俺がどうしてダンジョンマスターになれたのか、全く分からなかった。
 だけど今なら、俺がダンジョンマスターになれた理屈が少しだけ理解できる気がするのだ。

 ーーー俺が、ダンジョンマスターになれた理由。

 そのヒントは、ユリウスがダンジョンマスターになった時にあった。
 確かダンジョンを奪われたとき、ユリウスは箱型のマジックアイテムのような物を使ってこのダンジョンを囲い込んでいた。
 その姿は、俺が『プロテクト・ゾーン』でダンジョンを囲った様子にとても似ていたのだ。

 そしてダンジョンボックスとは、元は自然界にあったダンジョンを切り取りボックスに閉じ込めた物だと言われている。
 その方法は当時の魔王しかしらず、それは誰にも伝えられていないと言われている為、どのような原理で作られたのか知っている人は誰もいない。
 だけど俺は思ったのだ……きっと閉じ込める方法なんて何でも良くて、もしかすると魔王の気まぐれで適当に作った物だったのかもしれないと……。

 そして俺のスキルである『プロテクト・ゾーン』にも、同じように物質を箱型に囲う性質がある。
 なによりその効果は普通の結界とは違い、結界内の魔力を吸収したり、その中であれば小さな結界を自在に操ったりできたのだ。
 俺の『プロテクト・ゾーン』の本当のスキルは、囲った物を俺の世界に閉じ込めるという物だったのではないかと、今は考えている。

 その性質が上手くマッチしてダンジョンマスターになれたのなら、俺としてはただ運が良かったとしか言いようがない。
 正直、そこまで確信しているわけじゃないけど、そう思いでもしないと俺はもうダンジョンマスターになれない気がするからな……。

「……マスター、改めて同じように行くか心配しておるようじゃな?」

 俺の沈黙が長かったからなのか、気がつくとマリーが心配そうに俺を見上げていた。

「いや、そういうわけじゃ……」
「何、心配しなくても大丈夫じゃ。マスターが途中で倒れない限り、必ず成功するはずじゃからな」
「そうですよ、バンさんなら絶対上手く出来ますよ!」

 マリーだけじゃなくて、セシノも俺を励ましてくれている。
 他の仲間も何が起きているのかよくわかっていないようだけど、今も襲い掛かるモンスターを俺からなるべく離そうと戦ってくれていた。

「……あの、そこのお二人の言う通り、貴方のしたい事は必ず成功します」

 そして最後に声をかけたのは、俺におぶられているナナだった。

「……スキルを使う前に、私を降ろした方がいいと思います。きっと、もう……立てると思うので」

 俺は言われた通り、ナナをゆっくりと降ろしてやる。ずっと寝たきりだったナナは少しよろめくのをセシノに助けてもらいながらも、しっかりと地面に足をつけて立っていた。
 その姿は悲しい程痩せ細って今にも倒れそうなのに、不思議とその瞳の輝きは虹色に光っている。

「……すみません。この瞳は未来視の影響ですので、気にしないでください」

 俺の驚いた顔に気がついたのか、ナナは少し恥ずかしそうに目を逸らしていた。

「マスター、早くするのじゃ!!」

 マリーの急かす声に、ナナから目が離せなくなっていた俺はハッと我に帰る。
 
「……ああ、すぐに元通りにしてやるよ!」

 俺はゆっくりと周りをを見渡して、一度深呼吸する。
 例え、亡くなってしまったフォグたちが帰って来ないとしても、俺はこのダンジョンが大好きなんだよ……だから、俺を再び受け入れてくれ!

 そう願いながら、俺は叫ぶーーー。

「『プロテクト・ゾーン』展開!!!!」

 ありったけの魔力を込めて、『プロテクト・ゾーン』の範囲をダンジョンボックス全体的へと、徐々に広げていく。

 そして俺は、再びあの声を聞いたのだ。


『ーーダンジョンマスターを更新しました、ダンジョンマスターを更新しました。このダンジョンの新しいマスターは、バン・ダイン。あなたですーー』

 その声に安堵した俺は、魔力が切れた事とホッとしたのもあって、やはり意識を手放したのだった。
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