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第六章 取り戻しに行く俺
159、ホージュとアンナ(イア視点)
しおりを挟むホージュさんを縛り上げた私は、確かにあの話をきいて頭にきてはいたが、まずは話を聞くことから始めようと思っていた。
しかし予想外だったのは、アンナさんもこの場に残ったことだった。
「アンナさん、もしやホージュさんと戦うおつもりで残ったんですの?」
「当たり前じゃない! 何もかもこいつのせいなんだから、一発ぐらい殴んないと、私の気が済まないわよ!」
「だから、それはアンナさんの自業自得で……」
「うるさいわね!!」
言い争いをしだした二人の姿を見て、私はアンナさんにも縄をかけることにした。
「ちょっ、ちょっと何で私まで!?」
「アンナさん、いきなり暴力はいけませんよ。まずは話し合いをした上で、それでダメな場合のみ実力行使を許可しますわ」
私はアンナさんならわかってくれる筈だと、ニッコリと笑みを浮かべる。
しかし予想とは違い、顔を引き攣りながらアンナさんは渋々頷いたのだった。
「…………わかったわよ」
そして私は二人を正座させ、話を聞く事にした。
「先程、アンナさんは八年前に私たちを陥れたのはホージュさんだと言いましたわね?」
「そうよ、その話だってホージュから直接言われたんだから、間違いないわよ!」
「アンナさん、それは違いますよ。私は直接手を下したなんて、一言も言ってませんけど?」
「嘘よ! だって、あんたは当時から『ユグドラシルの丘』の密偵で、私かバンを陥れようとしてたって……」
そう言いかけて、アンナさんは口をつぐんでしまった。
多分ホージュさんの言う通り、そこまでハッキリと言われてなかったのだろう。
「お二人の話はわかりましたわ。では、私が改めて伺いましょう。ホージュさん、アナタは何が目的で8年前に『暁の宴』に潜入していたんですの?」
「……そんなの、言うわけないじゃないですか」
「それは、残念ですわ。言ってくれないと、言うまで尋問しなくてはいけませんからね」
そう言って、私はホージュの縄に微量の電気を流す。
「っいたぁ! 何よコレ!?」
「ええ、ですから尋問ですわ」
「コレじゃあ尋問じゃなくて、拷問ですよ!」
「え? 何か仰いましたか?」
そう言って私は、笑顔でもう一度電流を流す。
その姿を横で見てたアンナさんの顔が青ざめているのが見えるけど、気にしない事にした。
「いったぁ~! 私痛いの嫌なのにっ!」
「あなた方がファミリーを抜けてから色々ありまして、もっと私がしっかりしていればどうにかなったかもしれないと、心を入れ替えたんですの。そしてこの光の縄とマジックアイテムを組み合わせて、尋問にも使えるようにしたんですわ。勿論、まだまだ出力を上げられますから、痛いのが嫌なホージュさんにはキツイかもしれませんね」
「……うう、わかりました。話しますよ。どうせ話した所で過去の話ですし、アンナさんが悪いのは変わりありませんから」
そう言ってくれたホージュさんに「わかってくれてありがとう」と微笑むと、すごく嫌そうな顔をされてしまった。
「とりあえず話しますけど……8年前、私が『暁の宴』に潜入捜査していたのは、グラシルの妹であるナナを助ける為だったんです。ナナっていうのは私にとって初めて出来た友だちなんですけど、病気のせいで今は殆ど寝たきりになっているんです。あの時、私はその子を助ける方法を探す為に色んなところに潜入をしていました」
「つまり、潜入していたのは私たちのファミリーだけじゃなかったと言う事かしら?」
「その通りです……。それで私が探していたのは、魔力を常に回復出来るようなスキルを持った人でした」
その言葉に私はバンのスキルを思い出す。
あのスキルは僅かだが、副産物として他人の魔力を奪える効果があった。
私が気づいたのは最近だけど、スキルをずっと観察していたホージュならば、もっと前から知っていた可能性はある。
「そこで目をつけたのが、バンだったということですわね」
「……その通りです」
横でアンナさんだけ話がついていけずに、どういうことなのかと首を傾げている。
「つまりあなた方は、他の人からスキルを奪う方法を知っていたわけですのね?」
「はい。私たちが知っている方法は既に察していると思いますが、スキルの持ち主を殺しその死体からスキルを抜き取ると言うものです」
「……はぁ。なんて、非道な行いなのでしょう。きっと、それを試す為に何人もの人を殺してきたというわけですわね」
「…………」
ホージュはその事を否定しなかった。
つまりは、肯定ということなのでしょう。
「そしてアナタはバンさんとアンナさんの仲が悪い事や、アンナさんが癇癪持ちなのを知っていたうえで、あの日あの場所へと私たちを導いたのですわね」
あの日の探索は、確かにホージュが道案内役をしていた。
きっとホージュはあの場所に、ボス級モンスターがいる事を初めから知っていたのだろう。
「セッティングした事は否定しません。ですがバンを突き落としたのは、間違いなくアンナさんなのも事実ですから……」
そう言ってアンナさんを見るホージュの顔には、全く反省の色なんてみられなかった。
その姿にアンナさんは、怒りが爆発しそうになっていた。
そんな二人を見て、私は自分がずっと思っていた事を二人に伝えたのだ。
「いいえ、バンを突き落としたのは私たち3人ですわ」
「「!?」」
「何言ってるのよ! イアは何もしてないじゃない!」
「そうですよ、イアさんは関係ないです!」
二人にそう庇われても、私の意志は変わらない。
「あの時、アンナさんを止められていたら……ホージュさんよりも前に下調べをしていたら……私がもっと強ければ、バンを助けられたと思うんですの。あの時、バンが落ちていくのをただ見ていただけの私は、アナタたち二人と変わらない。共犯者ですわ」
「……何言ってるんですか!」
「そんなわけないじゃない、悪いのは私とホージュなんだから!!」
「いいえ、私たちは共犯ですわ。ですから3人で、罪を償えばいいんですよ」
そう言って、私は二人を抱きしめる。
大人しく抱きしめられていたアンナさんとは違い、ホージュさんは今も無駄に抵抗をしていた。
そしてブチっという音と共に、ホージュさんが縄から抜け出したのだ。
「ふぅ……イアさんの話が長かったおかげで、ようやく縄から抜け出せましたよ」
「ホージュ、アナタって人はまだ抵抗するつもりですの?」
「当たり前ですよ! 私にはまだやる事が沢山あるんです! 罪を償ってる時間なんて、今はないんです……。アナタたちに構ってる暇なんてないんですから!」
そう言って、ホージュさんはこの場から一度逃げよう思ったのか、私たちが入ってきた入口の方に向かって走り出す。
「お、ようやくここまで追いついたな!」
しかし、逃げ道から丁度私たちの仲間が追いついてきたのだ。
「イアさんに、アンナさん! 無事ですか!?」
まさか援軍がくるなんて思っても見なかったホージュさんの逃げ道は、なくなっていた。
「っ!? あんた達、何寝返ってるのよ!!」
ホージュんさんはその中にクラウさんとラレンスさんがいるのに気がついて、怒りの声を上げる。
「いやぁ、ちょっと口説かれちゃってさ~」
「私も、似たようなものかしら?」
「っく……! こうなったら、あなた方全員まとめて道連れにするまでです!!」
そう言って、ホージュさんは大規模魔法を撃とうとする。
その魔法陣からは、火属性の火力の高い爆発を想定した物だと読み取れた。
まずいと思った私はホージュさんを止めようとした。
しかし、それよりも早く私の前を誰かが通り過ぎたのだ。
「この、タイミング。待ってたわよ!! 『スピリットブラスト』!!!!」
いつのまに縄を解いたのか、魔法陣を起動しているホージュの前に飛び出したアンナさんは、ホージュさんにスキルを打ち込んだのだ。
「なっ!!」
「言ったでしょ? 一発殴らないと気が済まないって!」
「な、殴って、無いじゃない……」
そう言いながらホージュは倒れ、そのまま気絶してしまったようだった。
「アンナさん……」
「いや、本気でやったわけじゃないから! それにちゃんと手でスキル使ったから、殴ったようなもんでしょ?」
そう弁明するアンナさんに、私はため息をついてしまう。
その後、サバンからバンに危機が迫っているかもしれない事を聞いた私たちは、倒れたホージュさんをとりあえず連れて行こうと、クラウさんのスキルである『キープ・プリズン』へと入れる事を決めた。
こうして、私たちはバンの所へと急いで向かう為に階段を駆け上ったのだった。
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