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第六章 取り戻しに行く俺
154、お城へ
しおりを挟むユグドラシルの丘がついに進軍を始めた。
それは思ったよりも早い行動だった。
俺たちはギルドに情報提供はしたが、ギルド側の準備はきっと間に合っていないと思う。
しかし俺達は、ダンジョンへと乗り込む日をその次の日にすると決めたのだった。
さて、どうやって乗り込むかの話し合いを前にしたと思うが、その方法はセシノの提案によって解消されている。
セシノのスキルは、ポーチとポーチの空間を繋ぐことだ。
あの日ダンジョンから出てすぐ、ゲートを封鎖された事を知ったセシノは、自分のポーチならダンジョンへと入れるのではないか?
そう思ったようで、俺たちには内緒にしにて『カルテットリバーサイド』内にある、宿屋の自分の部屋に置いてきたポーチを使い、ダンジョン内へと一度戻ったらしい。
本当なら保護者代わりである俺が、なんて危険な事をしてるんだと怒らなくてはいけないのだろう。
しかし、今回セシノは俺を心配してこんな事をしたのだ。そう思うと、俺は何かを言う気にはなれなかった。
それにセシノのその行動のおかげで、『カルテットリバーサイド』に行く事ができるわけだ。
そんなセシノに、俺はただ感謝しかできなかったのだ。
そんなわけで今日、ついに俺たちは『カルテットリバーサイド』に向かう。
1日経ったことによって、中央エリアへと進軍を進める『ユグドラシルの丘』の規模と被害状況が、少しずつわかっていた。
今、中央エリアに進軍しているのは約100人。人数は少なく聞こえるが、そこに集まっているのは殆どランク5を超える猛者ばかりだという。
因みに『ユグドラシルの丘』は総勢150人を超える、最大規模のファミリーである。
『カルテットリバーサイド』に来ていたのが30人程で、東エリアにいたのが総勢50人ぐらい。中央エリアに残っているメンバーや各エリアの人員を考えると、ダンジョンにいたファミリーの殆どが中央エリアに向かったと考えられる。そうイアさんは言っていた。
そしてダンジョンにほぼ人がいない今が決行のチャンスだと思った俺たちは今、『暁の宴』の会議室へと集まっていた。
メンバーは前回と変わらず、セシノ、アンナ、イア、レン、サバン、マヨ、シェイラ、そして俺だ。
「皆さん、一つだけ注意してください。私から手を離すと亜空間から出られなくなる可能性があります。念のため一人ずつ移動しますが、絶対に手を離さないでください」
そう言うセシノの顔はとても緊張していた。
実はセシノのバッグで他の人と移動するというテストは、マリーとしか行っていない。その為、人に対して試すのは今回が初めてなのだ。
しかし時間のない俺たちはそれでもやる価値はあるだろうと判断し、ぶっつけ本番で試してみる事にした。
もちろん、一番最初に試すのは俺だ。
皆を我儘に付き合わせているのだから、失敗して犠牲になるのは俺だけでいい。
「バンさん、行きますよ。絶対に私の手を離さないで下さいね」
「ああ、わかってる」
セシノは何度も同じ注意をしながらバッグの中を進んでいく。
すぐに着くのかと思っていたが、亜空間の中は思ったりよも広い。ただ、前後左右のバランスが全くわからない為、自分が何処を歩いているのか混乱してしまう、そんな世界だった。
しかしそんな俺と違い、セシノの足取りはしっかりしていた。もしかするとこの亜空間を作ってるセシノには、違う何かが見えているのかもしれない。
そんな事を考えている間に、俺たちは出口へと辿り着いていた。
バッグから出た俺は、成功した事にホッとしながらも他のメンバーを迎えに行ったセシノを見送る。
そしてすぐに現在地の安全確認を行なっていた。
よし、ここはセシノが使っていた部屋で多分間違いないと思う……。
俺の判断に少し自身がないのは、既に部屋がモンスターによって荒らされた跡があったからだ。
ベッドのシーツや布団は引き裂かれ、机や壁にも獣の爪痕のようなものが残っている。
その姿を見て、ここはもう俺の知ってるダンジョンではない事を、実感してしまう。
しかし、今はそんな感傷に浸ってる時間なんてなかった。
俺は全員が到着するまで時間がかかる事を見越して、先に到着したメンバーで宿の中や外を捜索する事にしたのだ。
その結果、宿屋の中には人がいない事。森エリアに、大きなお城が建てられている事がわかった。
きっとグラシルがいるとしたらあの城だろう。
そう考えた俺たちは全員揃った所で、まずは城に近づいて様子を見る事に決めたのだ。
城に向かう道中、見知ったモンスターが俺めがけて攻撃してくるのを見て、仕方がない事だと思いつつも結界を張り、俺はなるべく戦闘を避けて城まで走り抜けたのだった。
暫くして辿り着いたお城の城門には、門番が立っていた。
それを遠くから確認した俺たちは城の少し手前で立ち止まり、どうやって入るのかを話し合う。
「気配を探った感じだと、城内にいる人間の数は10人も満たないうえにモンスターもいない。グラシルを誘き出す為に強行突破するという手もありだと思うが、皆はどう思う?」
レンさんが言うのなら、その数字に間違いはないのだろう。
しかし、慎重派のサバンは何人かに分かれて侵入した方がいいのではないかと提案していた。
それならと、俺も一つ提案する。
「あの、さっきモンスターの足止めに結界を使ったように、俺の結界を相手に向けて展開してその場に拘束するのはどうですか? それならレンさんの言う通り強行突破できると思います」
「成る程、成る程。しかしバン、お前の結界はどの程度の距離まで保てるんだ?」
「そうですね……この城の範囲なら端から端までは余裕だと思います」
爆弾事件の時にもっと遠くまで結界を張った事を思い出した俺は、このスキルは使い方ひとつでかなり役に立つんじゃないかという事に、今頃になって気がついたのだ。
「バン、アナタのスキルはかなり規格外だと思っていましたが、規模が違いましたのね……」
「でもグラシルみたいな特殊な人間には効かないので、今はあんまり嬉しくないですけどね」
イアさんに褒められた事は、少し嬉しかった。
でも俺が一番倒したい人間には効果がないというのが、一番歯痒い所でもある。
「アイツが特殊なだけで、今のお前に敵うやつはあまりいないと思うから気にするな。それにバンの言う通り、今なら強行突破するのが一番いいと俺の感がいってる!」
「……はぁ。そうか、わかった。レンがそう言うなら、それはもう決定事項みたいなもんだろ? 俺はそれに着いていくだけだ」
どうやらサバンもレンさんの性格をよく知っているようで、諦めたようにため息をついていた。
「それじゃあ、ここからは城攻めと行きますか!」
レンさんの言葉に頷いた俺たちは、一番に走り出したレンさんに続き真正面から城内へと突撃していく。
そして作戦通り敵に遭遇するたび、俺の結界を使い1人ずつ身動きができないように封じ込め先に進む。
俺は対処している途中で気がついたのだけど、どうやら城に残っていたのは以前宿屋でグラシルを取り囲んでいた女性たちのようだった。
「それにしても、思ったよりもサクッと進めていい感じだな!」
先頭を走るレンさんの言う通り、こんなにもさくさく攻略できるのには一つの理由があった。
それはこの城の構造がとても単純なことだ。
多分ダンジョンリフォームで建てたと思うのだけど、時間がなかったのかそこまで拘った作りにはなっていなかったのだ。
そのせいで先程から真っ直ぐ進む回廊の先に大広間があり、そこに階段があるというシンプルな構造が繰り返し続いている。
その為、俺たちは最上階にグラシルがいると仮定し、ひたすら上の階に向けて走るしかなかった。
そして5階の大広間に辿り着いた頃、俺達の前には一人の女性が立っていた。
その姿に反応したのはセシノとシェイラだった。
「え……」
「ラレンスさん……?」
俺はその女性が誰かわからず、セシノに確認してしまう。
「……セシノの知り合いか?」
「えっと、あの人はラレンスさんです。元『黒翼の誓い』でクイーンをしていた人ですね」
それは、以前セシノが所属していて俺が壊滅させた筈のファミリーの名前だった。
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