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第五章 襲来に備える俺

121、半壊の宿屋

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 カルテットリバーサイドに帰ってきた俺たちは、ゲートを抜けた先に迎えが来ていない事を不思議に思っていた。

「なんか、様子がおかしくないですか?」

 セシノの言う通りダンジョンは既に夜時間で暗いというのに、少し離れた所から集団で騒ぐ声が聞こえていた。

「夜のダンジョンで騒ぐなんて、自殺志願者って言われてるのにな……」

 夜のモンスターは昼よりも強い。
 だから夜はモンスターを刺激しないよう、静かに行動するのが当たり前なのだ。

「でも騒ぎ方がそんな集団とは思えないですよ?」
「もしかして、ゲート付近だから何かあれば逃げるつもりなんだろうか」
「それだけならいいのですけど……」
「だからといって今すぐ見に行った所で俺たちに出来る事もないし、とりあえず騒ぎを起こすまでは放っておくか」
「なんだか凄く気になりますけど、仕方ないですよね……」

 変に出て行った結果、揉めても困るからな。
 なにより今の俺たちには戦力もなければ、すぐに逃げる為の手段もないのだ。

「セシノ、今はあんな奴ら気にしてる場合じゃないからな。ここに迎えが来ない以上、俺たちは宿屋まで歩いて帰るしか……ん?」

 突然、頭の中にザザっと音が聞こえたのだ。
 しかしその乱れた通信では、何を言っているのか全くわからない。

「バンさん、急に立ち止まってどうしたんですか?」
「いや、今通信が入ってきたんだけどノイズが酷くてな」
「もしかして、マリーさんでしょうか?」
「マリーの通信にしては雑な気がするが……あれ、また……」

 もう一度ザザっと音がしたと思ったら、今度は鮮明な声が聞こえたのだった。

『マスター! マスター、聞こえるか!?』
「その声は……フォグか?」
『ああ、そうだぜ! でもよかった、ようやく繋がって……焦っちまって、上手く繋がらなくてどうしようかと思ってた所だったんだぜ!』
「焦ったって……もしかして、そっちで何かあったのか?」
『ああ、そうだった! マスター、宿屋が……なんか色々大変なんだぜ!! すぐに来てくれ!!』

 詳しい話は着いてから話すと言われた俺達は、フォグの代わりに迎えに来てくれた別のウルフ型モンスターへと乗り、急いで宿の方へと向かったのだ。
 そんな俺たちが今乗っているウルフは、フォグの舎弟であるレインだ。その見た目は上の方が青くて下の方が白い、レインウルフという個体らしい。
 そしてレインは、今の状況を俺たちに少しだけ教えてくれたのだ。

「俺っちは見てないから詳しくは知らないっすけど、どうやら宿が何者かによって襲撃されて半壊になってるらしいっすよ」

 その話を聞いた俺たちは驚き、尚更早く宿屋に戻らなくてはと思ってしまったのだ。


 そして見えてきた建物は、まったくもって酷い有様だった。
 襲撃犯は入り口から正面突破したのか玄関は完全に無くなるどころか、宿屋の断面図が綺麗に見えていたのだ。
 まさか正面から宿屋の半分を綺麗に切り落としていくなんて、こんな事が出来るのは高ランク者しかいないよな……。
 そう思っていると、俺の前にいるセシノが宿屋の惨状に嘆いていた。

「こんなの、あまりにも酷すぎます!」
「……ああ、そうだな。それにしても綺麗に切れてるし、何で切ったんだろう?」
「バンさん、呑気に感想言ってる場合じゃないですよ!?」
「いや、ごめんって……どうせ建物自体はすぐに直せるからと思ってさ。でもここまで酷いと怪我人とか出てるかもしれないよな」

 こうして宿屋付近まで来た俺たちはレインから降りると、すぐに走り出していた。
 そして俺たちは宿屋の前に立っているアーゴを見つけたのだ。

「アーゴ!」
「マスター、オカエリ。コッチ、ツイテクル」
「わかった。そっちに誰かいるんだな」

 俺たちはアーゴの後ろを歩きながら、宿屋の様子を見ていた。
 しかし不思議な事に、先程から人の気配が全くないのだ。

「バンさん、どうやら宿屋のお客さんは皆居ないみたいですですけど……もしかして全員避難したのでしょうか?」
「まあ、これだけ荒らされたんだ。特に今は一般客が多かったし、町に逃げたとしても仕方がない」

 そしてアーゴに案内された場所は庭園温泉だった。
 そこには俺の仲間たちが全員集まっていた。
 しかも皆で何かを囲んでいるように見える。

「おーい、帰ったぞー! お前らは一体何を囲って……」

 そして俺は気がついた。
 ここには二足歩行型のフォグ、フラフ、レッド、ディーネそして一緒にきたアーゴしかいない。
 つまり囲まれてるのは……!

「マリー!」

 俺は慌てて走り出す。
 仲間であるモンスター達が俺に気がついて振り返る。
 その顔は皆、動揺してるようだった。

「マスター……」
「マリーは、どうしたんだ!?」 
「……そ、それがな」

 4体のモンスターは俺のために隙間を空けた。
 そして俺の目の前に、弱って人の姿の保てなくなったマリーが倒れている姿が見えたのだ。

「マスター、これは妾のせいであるぞよ! マリーは妾を庇って……」

 動揺しているディーネは俺に飛びつくとマリーと俺を何度も交互に見ていた。
 そして俺はスライムに戻っているマリーの核をすぐに確認した。
 大丈夫、核は壊れてない。
 それならマリーは死ぬ程の傷を負ったわけではない筈だ。
 
「ディーネ、一旦落ち着け。フォグ、マリーの状態は?」
「マリーは大ダメージを受けて体力が大幅に減ってるが、今のところ死ぬ事はないと思うんたが……」

 少し言いづらそうに言葉を濁したフォグは、スライム状になっているマリーの中へ手を突っ込むと、核に触れないように指を差したのだ。

「核に少しヒビが入っちまったからな。完全に完治するまでは、暫くはこの姿のまま動けねぇだろうな……」
「ヒビが悪化する可能性は?」
「マリーは結構強いからな、同じ攻撃を受けねぇ限りは大丈夫だと思うぜ」

 マリーから腕を引っこ抜いたフォグは、安心させようとしたのか俺の頭に手を置いた。
 肉球がフニッと当たる感触で、俺は少しだけ気持ちが落ち着く。
 寧ろ俺の後ろでショックを受けてるセシノの方が、今すぐに気絶するんじゃないかと思えるぐらい顔が青くなっていた。

「それで、この宿屋に何があったんだ?」
「……それがだな、宿屋に『お面の英雄を出せ』と言ってくる奴らが突然大人数で現れたんだぜ!」
「なんだって……?」

 どうやら、早速マヨが言っていた事が事実になってしまったようだ。
 つまりは、俺がここを離れたせいで宿屋がこんな事になってしまったと言う事になる。

「もしかして、お前らは俺の言いつけを守って暴れなかったって事なのか……?」
「そうだけどよ、でも約束を守らなかったら宿屋は半壊どころか全壊してたぜ? それに話はそれだけじゃねぇ。とりあえず最初から説明する……だからマスターは最後まで話を聞いてくれ」

 そしてフォグは、話始めた。
 俺たちが町に出ている間に、一体何がおきたのかを───。
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