上 下
120 / 168
第五章 襲来に備える俺

120、一歩前へ(マヨ視点)

しおりを挟む

クラウを追いかけて行った少し前から、マヨ視点で一話。

ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー






















 廊下で会話が終わるのを待っていたワタクシは、二人が何の話をしているのか気になっていた。
 だからサバン班長に仕掛けておいた盗聴魔法を発動させて、コッソリ話を聞く事にしたのだ。
 しかもこの盗聴魔法が使える事は、誰にも言っていない。その為、ワタクシは以前から情報収集や色んな事にこの魔法をバレないように活用していた。
 そして今、二人の話を聞いていたワタクシは呆然としてしまったのだ。

「先輩がお面派のリーダー……?」

 そんな事ありえないと思うのに、今まで先輩が何か怪しい行動をしていたのをワタクシは気がついていた。
 だけど先輩の掴み所のない性格から、特に意味なんてないと思い込んでしまったのだ。
 もっと前から調べていたら、止める事が出来たのではないか……そう後悔しても既に遅かった。
 そして呆然としてる間に、いつのまにか扉から出てきたクラウ先輩がワタクシの目の前に立っていた。

「マヨ、頼む! クラウを捕まえてくれ!!」

 その声にハッとしたワタクシは、クラウ先輩の前に両腕を開いて立ちはだかる。
 一瞬バランスを崩した先輩は、すぐに体勢を戻し反対側へと走り出していた。
 だからその姿を見失わないようにと追いかけたのに、先輩は何故か階段を上り始めたのだ。
 ワタクシがその事を不思議に思っている間に、気がつけば屋上へと辿り着いていた。

「クラウ先輩、もう逃げられませんわよ!」
「うーん、そうみたいだね?」

 追い詰められているはずなのに、先輩は全く焦っていなかった。
 きっと何か策があるに違いありませんの……ここは、慎重に行動するべきですわね。
 警戒しながら周りを見回しているワタクシに、先輩は呑気に話始めたのだ。

「ところでさ、何でマヨちゃんは僕を追いかけて来たのかな?」

 いつも通り怠そうに言う先輩の姿に、これが時間稼ぎなのはすぐにわかった。
 ですがこれは、ワタクシが先輩を説得するチャンスにもなりますわよね……。

「班長に追いかけろと言われたからではありませんわ、先輩にギルドを辞めて欲しくなくて追いかけてきたのですわ」
「……何で、僕が辞めるって知ってるのかな。もしかして、僕と班長の話をマヨちゃんは聞いてた?」
「ええ、ワタクシは先輩がお面派のリーダーだと言う事を聞いていましたわ」

 頷くワタクシの姿に、先輩は残念そうに眉を寄せた。

「ああ、やっぱりそうなんだ……。でもバレたならさ、僕がマヨちゃんの前で良い人ぶる必要もないよね」
「どういう事ですの?」
「実はマヨちゃんって使えるスキルや魔法が多いでしょ? だから変に怪しまれないように行動に気をつけてたんだけど……もしかして、僕がマヨちゃんにだけ優しい人の演技をしてたのに気がつかなかった?」
「……え?」

 それはつまり……ワタクシの知る先輩は演技で作られた先輩像であって、ワタクシの好きなったクラウ先輩なんて本当は存在しないという事───?
 そう思った瞬間、私の顔は真っ青になっていた。

「それにマヨちゃんって何でもできて便利だったからさ、僕に好意が向くように印象操作してたんだけど……簡単に僕の事を好きになってくれたから、凄く助かってたんだよねー」
「印象操作……? 一体、何を言ってますの? でしたら、ワタクシのこの気持ちは……」
「全部僕が作った嘘だよ? ごめんね、騙しちゃって……でも本当の僕って性格悪いから、好かれる所が何一つないんだよね」

 ……ワタクシの気持ちが、全部作られたモノ?
 それならクラウ先輩の事を思って悩んだワタクシは、一体何だったというのかしら?
 あのドキドキした気持ちは? バンテットさんと一緒に選んだプレゼントは……?
 そう思いながら、ポケットに入っているプレゼントを無意識に触って、私は首を振る。

「いいえ、ワタクシのこの気持ちは作られたモノではありませんわ!」
「……はい? いやいやマヨちゃん、その作られた気持ちのどこが本物だって言えるのかなー?」
「何を言ってますの? ワタクシはまだ先輩と2年しか一緒にいないので、もとより先輩の事はそんなに詳しくありませんわ! それに今まで一緒に仕事をしてきましたが、クラウ先輩の全てが演技だったとは思えませんし……何より、ワタクシの心をこんなにも揺さぶった癖に、それが全て嘘だなんてワタクシは絶対に認めませんわ!!」

 今までワタクシは先輩を思って苦しくなったり、先輩が喜んでくれる姿を思い浮かべて嬉しくなったり……知らない感情を沢山経験したのだ。
 それなのにこの気持ちが偽物だなんてありえないですし、それに先輩でもワタクシのこんな気持までコントロールできる訳がありませんわ……!

「いいですこと? ワタクシはワタクシの意思で、クラウ先輩の事を好きになったのですわ!!」
「……え? いや、そんな訳がないでしょ。俺を好きになるとか、ありえないし……」

 私の告白に目を見開いた先輩は、本気で動揺しているようだった。
 でもそのおかげで先輩の動きは完全に止まった。
 今なら私の手で捕まえられるかもしれないですわね……。
 そう思った私はクラウ先輩近づきながら手を伸ばした。

「クラウ先輩が罪を犯したというのでしたら、ワタクシが一緒にそれを背負いますわ! ですからどうか、まだワタクシの側にいてくださいまし!!」
「な、何を言ってるんだよ? もうここには、この場所にはもういられないのに……」

 あと一歩。
 それだけでクラウ先輩に手が届く。
 そう思って、ワタクシは手を伸ばした筈だった───。

「お嬢さん、コイツは優しいからさ……そうやって心を揺さぶるのはやめてもらえるかな?」

 しかしそれは、目の前に降り立ったフードを被った男によって遮られてしまったのだ。
 突然現れた男に、ワタクシは動揺して手を引っ込めてしまう。

「なっ、貴方は誰ですの! 一体何処から現れたというのでして!?」
「まあ、それは君には関係ないしどこでもいいよね。俺の目的はコイツを迎えにきただけなんだ。だからお嬢さんが何もしなければ、俺も手は出さないよ?」

 フードの隙間から、口元がニタリと笑ったのが見えた。
 その瞬間、男から放たれた殺気にワタクシは怯んで動けなくなってしまったのだ。

「キング、ちょっと待ってよ……僕はすぐにここを離れるから、マヨちゃんには手を出さないで欲しいんだけど?」

 クラウ先輩は男の肩を掴みながら、何故か少し怒っているように見えた。

「おいおい、力を込め過ぎだぞ? まぁ、お前の気持ちもわかるけどそれは許可できないからな。それにお前の気持ちが変わる前にすぐにここを離れるから」
「ああ、そうしてくれ。……そういう訳だから、マヨちゃん。こんな僕の事を好きって言ってくれたのは嬉しかったけど、その気持ちに答える権利は僕にはないんだよー、ごめんね」
「ま、待ってくださいまし! ワタクシの話はまだ終わっていませんわ!!」

 フードの男が先輩を担ぎ上げたのを見て、それを止めなくてはと一歩前に出ようと思った。

「マヨちゃん、それ以上前にでたらダメだよ?」
「えっ?」

 いつも先輩の注意をちゃんと聞いていた私は、つい反射で立ち止まってしまう。
 そんな私を見ていたフードの男は、頷きながら言った。

「うんうん。お嬢さん、いい判断だ。もし、もう一歩俺に近づいてたらつい手が出てしまう所だったからね」
「説明はいいから、早くここを出ろってー」
「それじゃあ、クラウ。俺たちのファミリーに帰るぞ!」
「……ああ。でも最後に、一言だけ言わせてくれ」

 ワタクシをしっかりと見た先輩は、少し寂しそうな顔をしながら言った。

「これで本当にサヨナラなんだ。だから元気でね、マヨちゃん」

 その言葉が聞こえた瞬間、フード男の跳躍で二人はあっという間にワタクシの前からいなくなった。
 そしてもう誰もいない空を見つめながら、どうしてあと一歩前に出る事ができなかったのかと、ワタクシは深く後悔していた。

「ですが、あの顔は……」

 最後に見た先輩の顔は少し寂しそうだった。
 きっと先輩だってここを離れるのは本意ではないに違いない。それなのに先輩は、きっと訳があって近々この街を出るのだろう。
 ですがその前に、もう一度でも先輩と話す事が出来れば……ワタクシの説得で絶対に先輩を連れ戻してみせますわ!
 そう決意したワタクシはすぐに情報収集をする為、サバン班長の所へと戻る事にしたのだ。

 どうやら暫くはバンテットさんの所へ向かうのも、後回しになりそうですわね……。
 その事を申し訳ないと思いながら、ワタクシは一歩前へと進む事を決めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

勇者パーティーの仲間に裏切られたので、信頼できる仲間達と共に復讐したいと思います〜相反する2つの固有スキル【借用】と【奪取】が最凶だった件〜

赤星怜
ファンタジー
【精霊術師】であるライムは勇者パーティーの一員として魔王討伐を目指していた。  ところがある日、異質な力を持つライムに嫉妬をした勇者によってライムは仲間から裏切られ、森の奥深くで心臓を突き刺される。  手足は拘束されていて、魔力を使うこともできない。  その上、ライムの周りには血の匂いを嗅ぎつけたのか狼型の魔物が集まっていた。  絶望的な状況の中、ライムの前にある一人の女性が現れる。  その女性はライムに告げた。 「ねぇ、君は勇者君に復讐したい?」  勇者パーティーの仲間に裏切られ、殺されかけたライムの心はすでに決まっていた。  あいつらに復讐をする……と。  信頼している仲間からは力を借り、敵からは力を容赦なく奪う。  勇者への復讐を目論むライムの周りには次第に同じ野望を抱く仲間が集まっていた。  これは、ある一人の青年が仲間と共に勇者に復讐を果たす物語。 二章完結しました! R15は念のためです。 コンテストに応募予定の作品です。 より良い小説に仕上げたいので些細な改善点や感想をお待ちしています! お気に入り登録も是非よろしくお願いします! 増えれば作者のモチベが上がります!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...