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第五章 襲来に備える俺
117、誘いに(セシノ視点)
しおりを挟む町に出てからのセシノ視点を一話
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
バンさんと別れた私は、早速アンナさんのいる宿屋に向かっていた。
突然の訪問になってしまうから、会えるといいのだけど……。
そう思っていると、私の少し前にフードを被った女性がトボトボと歩いているのが見えたのだ。
もしかしてアンナさんかもしれないと、少し小走りで追いつくと私に気が付いた女性はチラリとこちらを見た。
「あれ? あんた……」
フードの隙間から赤い髪が溢れたのを見て、これはアンナさんだと確信する。
「アンナさん。お久しぶりです!」
「えっと……セシノだったわよね、確かあの事件以来かしら?」
「ええ、少し訳があって宿屋の方から出られなかったので……」
「あら、そうだったのね。それじゃあ、これは偶然会ったわけじゃないって事かしら?」
「そうですね、私はアンナさんに会いに来たんです」
「私に会いに……?」
この感じだと、アンナさんは私との約束をちゃんと覚えていないのだろう。
それならいきなり宿屋に誘うよりは、もう少し気を許してもらってからにしようと私は考えていた。
「ええ、今日はアンナさんにこの前渡した布がどんなふうになったのか見に来たんです」
「ああ、あれね! ふふ……すっごく可愛い服になったから、よかったら見に来ないかしら!?」
「本当ですか? 見に行ってもいいのでしたら、是非!」
可愛い物の話でテンションが上がったアンナさんを見ながら、私はこの調子で距離を縮める事にする。
「そういえば、アンナさんは何処に行ってたんですか?」
「……ギルドよ。さっきまでサバンのパシリをしていたわ」
「ぱ、パシリですか……?」
「……私はバッジ持ちだから出来るクエストが少ないの。だからサバンを手伝う事で少し融通を聞かせて貰ってるんだけど……アイツ私の事が嫌いなのかダンジョンのゴミ拾いとか、ギルドの地下清掃とかそんなのばっかさせるのよ!?」
文句を言いながらも、アンナさんは前に会った時よりもだいぶ明るくなっていた。
「そんなクエストあるのですか?」
「あるわけないじゃない。あれは、あの男が私限定でクエストを作っただけよ。まあ、そのおかげでようやく普通に生活できるようになったんだから、一応サバンには感謝もしてるんだけど……」
アンナさんは少し恥ずかしかったのか、横を向いて言う。
「こんな話より、早く私のコレクションを見て欲しいから宿屋まで少し走りましょうよ!」
「は、はい!」
突然走り出したアンナさんについていきながら、私は思っていた。
せっかく前向きになったアンナさんをこれから騙す事になるのかと、私は少しだけ気が重くなったのだった。
ようやく宿屋に着いた私達はアンナさんが泊まってる部屋にいた。
そこは前回来たよりも人形が増えてるように見えた。
「わぁ、やっぱり凄く可愛いです~。これ全部アンナさんの手作りなんですか?」
「流石に全部じゃないわ、ここにある半分ぐらいが私の作った作品よ?」
「半分でも凄いです。これならお店が開けちゃいそうですよ~!」
私の言葉に、何故かアンナさんは少し俯いてしまったのだ。
「お店か……」
「あ、アンナさん……私何か良くない事いいましたか?」
「いえ、そんな事ないわ。ただこのまま冒険者を続けるよりも、可愛いファンシーショップを始めるのもいいかなと思ってしまっただけよ……ただ、私にファンシーショップなんて、どう見ても向いてないわよね?」
「そんな事ないです! こんな可愛い物が大好きなアンナさんなら、最高の可愛いを作れると思いますよ!!」
そう言ってから、私はあまりにも熱く語っていた事が恥ずかしくなってしまう。
何よりアンナさんを応援すればするほど、陥れたあとにダメージを受けるのは私の方なのだ。
あまり踏み込んだ事を言うのはやめないと……。
「お世辞だとしても嬉しいわ、ありがとう。それとセシノに貰った布だけど、ちゃんとこの子の服になったのよ」
「あ、凄い可愛い。あの布、結構派手な柄だったのに……」
私があげた布は可愛いウサギさんのワンピースになっていた。
シンプルな服装だからこそ、派手な柄がいいアクセントになっているようだ。
「凄く上手くできてると思わない? 私ね、こうして可愛い物に触れてる時が一番癒されるのよ……」
どうやらアンナさんは、この町にきてからずっと精神的に張り詰めた生活を送っているのかもしれない。
その表情は、どこか疲れきっていた。
「それなら、もっと癒されに行きませんか?」
「癒されに……?」
「はい、前も言いましたよね。ダンジョンにある温泉宿の話」
「え、ええ。その温泉宿、最近噂になってるそうじゃない。凄いわね!」
噂になっているのは主にバンさんの事だと知っている私は、少し複雑な気持ちになってしまう。
でも今はアンナさんに温泉宿をアピールする方が大事だと、私は気合をいれて話し始めたのだ。
「実はその温泉宿なんですが前にアンナさんに話した通り、可愛いオブジェクトが増えたのです。だから是非アンナさんにも見て欲しいと思ってたんです!」
「そ、そういえば前にそんな約束をしてたような……」
「ええ、そうです。だからアンナさんは私たちの温泉宿に来てくれますよね?」
「…………」
無言になったアンナさんは、何か凄く葛藤しているのか目を泳がせながら百面相をしていた。
そしてようやく答えが出たのか、少し言いづらそうに口を開いたのだ。
「あ、あの……」
その姿に、これは断られるのではないかと思った私はどうにかアンナさんを誘う方法を考えようとした。
だけど、アンナさんの口から出てきたのは思っていた物とは違った。
「ねぇ……前にあった、あのお面の彼もそこで働いてるのよね……?」
「え、ええ。そうですけど……その人が何かありました?」
まさか、バンさんはNGという事なのだろうか。
「ち、違うのよ……別に、彼に会いたいとかそういうのじゃなくて! 前のお礼をしたいな……って思ってるだけで、気になってるとかそういうのじゃ全然ないんだから!!」
顔を真っ赤にして言うアンナさんを見て、私は気がついてしまった。
アンナさんは、バンさんに惚れてるんだ。
多分、好きなのはお面を被ってるバンテットの方だというのはわかる。
わかるけど、そんな事ありえるの……?
私は恋のライバル出現よりも、二人の運命を呪ってしまったのだ。
だけどショックを受けてるのを悟られるわけにはいかない。
そう思った私は笑顔でアンナさんに言った。
「……その人は宿屋の店主なので、勿論いますよ」
「そ、そうなのね。それならまた会えるのね……」
凄く嬉しそうに頬を染めるアンナさんに、胸が痛くなる。
そして私の視線に気づいたアンナさんは、慌てて言い訳を始めたのだ。
「わ、私はセシノが誘ってくれたから行くだけで、別にその人目当てで行くわけじゃないんだから!」
「ええ、わかっています。宿屋の方はアンナさんの為に一部屋空けておきますから、いつでも気軽に来て下さいね」
「ふ、ふん。仕方がないから……今週中には行ってあげるわよ!」
「あ、ありがとうございます」
こうして私は、アンナさんを宿屋に呼ぶ事に成功した。
だけど頭の中はアンナさんとバンさんの事ばかり考えていた。
そのせいでアンナさんと何かを話した筈なのに、私はその内容を全く覚えていなかったのだ。
ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー
お知らせ
年末に向けて時間がなく更新を週一に変更致します。
ラストまではゆっくり書いていきますので、どうかお時間ある時に少しずつ読んで頂けたら幸いです。
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