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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

110、報告(サバン視点)

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バンが観光地化を頑張ってる頃、ギルドでサバンとイアは話をしていた……。
それを2話、サバン視点で。

ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー





















 俺は派閥争いについて改めて互いの意見を交換する為、イアを秘密裏に班長用の部屋に呼び出していた。
 そして今、目の前にいるイアは俺の書いた報告書をじっくりと読みながら、ボソッと呟いたのだ。

「……やはり勇者派は暫くの間、活動を休止するのですわね」

 どうやらイアは被害者である勇者派にまで同情しているのか、眉をしかめながらその報告書を読んでいた。
 だけどそこには書かれていない情報も知っている俺は、少し落ち込んでいるイアを見てそれを伝える事にしたのだ。

「イア、その勇者派の事なんだが……実は活動休止と言ってもせいぜい1、2週間の話らしい」
「そうでしたのね……ですがそれでは早過ぎるのではありませんの?」
「いや、勇者派はあれでも一応被害者だからな。その認識が一般人に広まれば大丈夫だろう。それよりも俺が問題だと思ってるのは、勇者派よりもお面派の奴らだ」
「確かに、そうですわね。正直な話、私はお面派なんて数日もすれば解体されると思っていましたのよ……?」
「俺とてリーダーがいなくなれば自然に解体されるものだとそう思っていた。だが実際はそうならなかった」

 俺たちは顔を見合わせると、同時にため息をついていた。
 何故なら、お面派はあと少しで解体される所まで来ていたのに、そのタイミングである噂が流れ始めたのだ。
 それはお面派に、真のリーダーが誕生するかもしれないという噂だった。
 まさかそのせいで、少数に分散したお面派がしぶとく生き残るとは思わなかったのだ。

「ここにきて、バンが本物の『お面の英雄』として新聞に載る事になるとはな……」
「あまりにも予想外で、私も驚きましたのよ?」

 俺たちはあの日、仲間への情報統制をおこなっていた。それにも関わらず、何故か翌日には町を救ったのがバンだと町中に知れ渡っていたのだ。
 しかも同日、狙ったようにバンの『お面の英雄』説が新聞へと掲載された。
 その結果、新しい英雄であるバンを新リーダーとして担ぎ上げ、お面派を継続させようとしている輩が何人も現れてしまったのだ。
 まあ今回新聞に乗った名前はバンテットの方なのだが、今の名前が載せられてしまっているのはどちらにせよ不味い。

「それで、何処から漏れたかわかっているのか?」
「ええ、勿論ですわ。あの時いたメンバーでバンの事を知っている人間は限られていますの。そしてその中で噂を流す可能性があるとしたら、偶然あそこに居合わせたシェイラさんだけですわ」
「シェイラ……って確かキングが逮捕された『黒翼の誓い』にいた子だよな。何故あの場所にいたんだ?」

 俺はシェイラが冒険者だった頃、何度か話した事がある。そしてファミリーが解体されてから配達屋として、町を走り回っている事も俺は噂で知っていた。
 だからこそ全く関係のないシェイラが、あの事件に関わっていた理由が俺にはよくわからなかった。

「どうやらシェイラさんとセシノさんは、以前所属していたファミリーでは仲が良かったようですの。そしてあの日は、本当に偶然出会っただけのようでしたわ」
「成る程……シェイラは元冒険者だから、その癖であの日ギルドへと来たのかもしれないな」

 冒険者の中には、何かあればすぐにギルドへと情報確認をしに行くようにと、教えているファミリーもある。
 きっとシェイラはそれを覚えており、町の異変について何か情報を得る為にギルドまで来ていたのだろう。

「ええ、多分そうですわね。それとサバンにはもう一つ知っておいて欲しい事がありますの。……実は私が聞いた話ですと、シェイラさんは『お面の英雄』の噂を広めた張本人らしいのですわ」
「……シェイラが?」

 確かに初めて噂が広まったのは、『黒翼の誓い』のキングであるズーロウが逮捕された頃と同じ時期だった。
 と言う事は、最初にその話題を新聞会社に話したのもシェイラであり、きっとシェイラ自身もお面の英雄に助けられた事があるのだろう。

「どうもシェイラさんは以前から、お面の英雄に凄く執着していたようですの」
「だけどそれなら、今まではバンがお面の英雄だと全く気づいていなかったという事になるが……」
「あら、サバンの反応からしてお面の英雄がバンだと気がついてましたの?」
「……ああ、再会した時にはな」

 実は最初に新聞を読んだ時、記載されていたスキルの特徴から俺はバンを思い出してしまったのだ。
 しかしその時の俺は死んだ人が甦る事はありえないと、どうせこれは別人だろうと決めつけていた。
 しかしバンに再会した俺はお面を被ったアイツを見た瞬間、噂の『お面の英雄』がバンの事だとすぐに気がついてしまったのだ。
 だがアイツは何故か『お面の英雄』は自分じゃないと思い込んでる。だから俺もその事について何も言わなかった。
 だが、放置した結果がまさかこんな事になるとは俺は予想もしていなかったのだ。

「それにしても、イアもよく気がついたな?」
「私が気づいたのは割と最近ですの。お面派を調べるついでに『お面の英雄』が何者なのか気になりまして、でも調べていくうちにその特徴がバンに似ている事に気がつきましたの……それで色々噂を聞いてあのダンジョンの宿屋にたどり着いたのですわ」
「成る程、それがお前らとあった日の事か。あんな所にお前のとこのクイーンが来るなんて変だと思っていたら、そういう理由だったんだな」

 俺の知る『暁の宴』のクイーンは滅多に羽目を外さない。
 そんな男がわざわざ宿屋に止まるなんて変だと思っていたのだが……相変わらずイアにだけは甘い男のようだ。

「ええ、それでバンから色々話をきいた私は『お面の英雄』がバンだと確信したのですわ。ですがその時は詳しく話を聞く事は出来ませんでしたから、バン自身が『お面の英雄』だと認識しているのかわかりませんでしたわ」
「その事なら俺が確認している。アイツは何故か、自分がお面の英雄だなんて微塵も気がついてなかった」
「そうでしたの……ですがその事をバンが信じられないのは仕方のない事かもしれませんわ。今まであれ程、無能だと蔑まれていたのですもの……」

 少し悔しそうに眉を寄せるイアは、きっと昔の事を思い出して色々と後悔しているのだろう。

「アイツはどんなに無能だと言われてもヘラヘラしてる、そんな奴だったからな」
「ええ、それは今も変わっていませんでしたわ。ですからバンがお面の英雄だなんて、きっとシェイラさんも思わなかったのですわね」
「確かにあの緩い姿を見ていたら、大層な人物とは思わないだろうな」

 なによりバンは凄く弱そうに見えるのだ。
 だからそれも一つの原因だと思うのだが、流石にそれは言えなかった。

「ですが、そのおかげで今までは誤魔化せていましたのに……。きっとこの間の事件でバンの活躍を見たシェイラさんは、何かに気がついたのだと思いますわ」
「まあ、あの規模の結界を見たらバンが只人とは到底思えないからな」
「そうですわね。ですがシェイラさんの行動自体は、ずっと探していた相手を見つけてしまった事による暴走が原因ですの。だからバンに迷惑をかけたくてした事ではありませんわ」
「それは俺もわかってる。だからこそ厄介なんだ」

 ーー憧れの人を周りに知って欲しい。
 シェイラのその気持ちはわからなくもないが、これは困った事になったと俺はため息をついたのだ。
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