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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
104、変わりたい(アンナ視点)
しおりを挟むサバンとイアには特に仲が良くなる要素はないし、互いに好きな相手もいる。
だけどその信頼関係はどこから来るのか不思議に思った私は、つい本心をポロッと溢していた。
「二人って、変に仲が良いわよね?」
その言葉に、二人は同時にこちらを向いた。
しかもサバンは笑顔なのに対して、イアは凄く嫌そうな顔だった。
「まぁ、それは当たり前の事だな」
「あまり知られたくないのですが、私たち……実は幼馴染みなのですわ」
「お、幼馴染……!?」
「ああ、そうだ。それも家が隣で、この町に来るまでは一緒に冒険者もしてたな」
気になる所が多いし、私には冒険者をしてるサバンとか想像できないんだけど……。
「それも一緒に冒険者になろうと誘ってきたのはこの男なのに、この町でコルトに出会った途端ギルド職員になると言いだしたのですわよ!? ああ、思い出したら腹が立ってきましたのでこの話はやめますわ……」
イアはそう言うとすぐに話題を切り変えようと、事前に準備していた報告書を鞄から取り出したのだ。
「とにかく、今日の報告書を提出しますわね。これには全て書きましたが、色々誤魔化して下さると助かりますわ」
「ああ、それは俺に任せておけ。それから今回の事件はS級扱いになる事が決まった。だから貢献度が高い奴から順に、勲章、メダル、賞状が贈られる予定だ。それで今回の勲章候補にイアとアンナを押すつもりだが、どうする?」
「それですが、アンナさんは辞退するそうですわ」
「……アンナ、本当にそれでいいんだな? こんな機会はもう二度とないと思うぞ」
二人にじっと見つめられても、私の意見は変わらない。
「ええ、それでいいわ。だって今回は私の実力じゃないし、そんなの私が許せないわ……」
「お前、変にプライドだけは高いよな。それならアンナはメダル贈呈と罰則バッジを一つ回収か……それなら回収は今やった方が早いな。アンナ、冒険者タグを貸してくれるか?」
「ええ、いいわよ」
私は服に手を突っ込んでタグを取り出す。
そしてサバンに渡すと少し残念そうな目で見られたのだ。
「アンナ……女性らしくなったなら、もう少し恥じらいをだな」
「何よ? これでも気をつけてるわ!」
そう言うと何故かイアがため息をついたのだ。
「はぁ、気をつけているのならもう少し服が捲れないように、タグを出さないといけませんわ」
「そ、そんなに捲れてたかしら……?」
そう思って服を見る私に、イアさんは耳元で教えてくれた。
「ええ、それはもう。胸が見えそうでしたわよ?」
「っ!?」
私はその事に驚きながら自分の行動を思い返していた。そして一つの事に気がついたのだ。
確かに今まで服装には気を遣っていたけど、自分の行動には無頓着だった気がする。
もしかして私がよく男に絡まれたのってそれが原因じゃない……!?
「アンナさん、今度女性らしさについて私と語り合いますわよ?」
「わ、わかったわよ!」
このままだと、お面の彼にまで痴女と思われてしまう可能性がある。
それだは避けないと……そう思っている間にサバンはタグの編集を終わらせたようだった。
「よし、終わったからタグは返すぞ。それにしても、お前よくこんなにもバッジ持ってんな」
「バッジはあと何個ありましたの?」
「……4個だな」
「アンナさん! 本当に勲章もらわなくてよかったのですの!?」
「私が良いって言ってるんだから、その話しはもういいでしょ! それに話が終わったなら私は帰るけど、他に何か言いたい事でもあるわけ!?」
そう言うと二人は顔を見合わせて頷いていた。
どうやらまだ何かあるらしい。
「そうですわね。今からはアンナさんをここに連れてきた理由を話しますわ」
「何よ、二人して真剣な顔して……凄く怖いんだけど?」
私はバンの事を今更糾弾されるんじゃないかと、息を飲んでしまう。
「先程アンナさんには、お面派の幹部を逃したと説明しましたわよね?」
「……え?」
全く関係ない事に、私は少し動揺しながら返事をした。
「え、ええ。確かに聞いた気がするわ」
「実はその二人を連れ戻しに来たフードの男ですが、もしかすると8年前にアンナさんを陥れた人物かもしれませんの」
「私を陥れた……?」
そう言われた私は、とある人物の事を思い出して首を傾げていた。
「アンナさん、何か思い当たる事がありますの?」
「いや、それが……この前ホージュに会った時にそんな感じの事を言ってた気がするのよ」
「ホージュ? ですが今回ホージュらしき人物はいませんでしたわよね?」
「ああ、俺が確認したお面の二人は全くの別人だ」
「でもホージュは近々町が騒がしくなる事も知っていたわ! きっとホージュとそのお面派の後ろにいるのは同じ奴なんじゃないの?」
そう言ってもそれがファミリーやギルド、それとも派閥なのかは全くわからないけど……。
「それなら、私はこの後ホージュに直接話を聞に行きますわ」
「いや待て……ホージュは今、ダンジョン『ロックロックホットランド』で大規模討伐に参加してるから、二週間は帰って来ない筈だ」
「……貴方、もしかして殆どの冒険者が何してるか知っていますの?」
「いや、そのダンジョンの視察に言ったのが俺だったから、たまたま気になって参加者を確認していた。ただそれだけだ……」
そう言って目を逸らすサバンを、私たちはついジト目で見てしまった。
だってサバンの態度から、大規模討伐には絶対コルトが関わっているとすぐにわかってしまったのだから、そう言う目になるのも仕方がない。
それにしてもこの男、相変わらずコルトの事になるとただの変態よね。
でもそんな一途な所が少し羨ましいなんて思ってしまった私は、ありえないと首を振る。
何故かしら、お面の彼を見てから私の頭は恋愛脳過ぎるわ……別に気になるだけで好きなわけじゃないんだから!
それに私は、恋愛よりもやる事があるのよ!
だからまずは今までダメだった所を見つめ直して、トラウマも乗り越えるわ。
それで、あのお面の彼に釣り合うように……って私何考えてるのよ!?
「まあ、アンナさんが恋をして変わろうとしていますわ!」
「な、なんで心の声が……!?」
「あらあら、普通に口に出てましたわよ?」
「なっ!?」
どうやら混乱していた私は、気がつけば心の声が口から溢れていたらしい。
「いや、今のは……」
「う、嘘だろ……あのアンナが恋を!? 一体相手は誰だ?」
「それが実は……」
「もう、それは言わなくていのよ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ私を見て、顔を見合わせた二人はとりあえず静かになった。
その事にホッとした私は、そのまま誤魔化す為に話を続けたのだ。
「とにかく、私はこれから出来る事はなんでもするわ。だから二人には少しだけサポートして貰うかもしれないけど……ダメかしら?」
「駄目ではありませんわ! そのかわり私はその恋を応援してもいいですわよね?」
「俺は口はだせねぇが、バッジ回収の裏技とかなら教えてやる。だからその相手をだな……」
そう茶化してくる二人に感謝しながら、私はこれから少しずつ変わっていく事を決意したのだ。
もし私が変わる事ができたら、いつかバンにも素直に謝れる日が来るのかしら……?
だけど今更謝ったとしてもバンはもう死んでいるのだから、きっと許してくれないわよね。
でもこれからは私に出来る償いはしていきたい。
だって私は、少しでもお面の彼に近づきたいから……。
そう思いながら胸をドキドキさせている私は、もうこの恋心を認めるしかなかった。
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