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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

100、帰ろう

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 その後、俺たちは現状を把握するために暫くギルドの屋上で待機していた。
 そして今、ようやくイアさんの仲間から報告が回って来たところだった。

「……腑に落ちませんが、あの男の言った通りお面派は一斉に引いたらしいですわ。一部残ってた人もいたそうですけど、多分ただのゴロツキですわね」
「それなら、結界はもう解除してもいいですか?」

 大丈夫と頷くイアさんを見て、俺は町全体に張り巡らせた結界を解除する。
 そしてひとつ、気がついた事があった。
 あの男が何故この結界を破壊しなかったのか、という事だ。
 うーん、もしかして破壊しても意味がなかったとか?
 そう悩みながらふとイアさんの方を見ると、何故か優しい顔をしてこちらを見ていた。

「バン、今回の貴方は大活躍でしたわね!」
「え、俺ですか……?」

 突然そんな事言われて俺は戸惑ってしまう。

「いや、俺はそんな褒められるような事はしてませんよ。それにあいつらを取り逃がしたのも俺ですし……」
「あれは仕方がありませんわ。あんな規格外な人間が出てくるなんて思いませんでしたもの」
「だとしても、今回の事は俺一人じゃ絶対に出来ませんでした」
「確かに周りの方々が手伝って下さらなかったら、こんなに上手くいかなかったとは思いますわ。ですが、この町を救ったのは貴方ですのよ? それだけは覚えていて下さると嬉しいですわ」

 もしかするとイアさんの言う通り、町を救ったのは俺かもしれない。
 だけど今の俺は、ずっと最強だと思っていたプロテクト・ゾーンが簡単に壊されてしまった事で、どうしても素直に喜べなかったのだ。
 それにあの男の言っていた事や、色んな事が同時におきて流石に俺は疲れていた。

「わかりました……だけど俺はあんまり目立つと困るので、今日は帰ってもいいですか?」
「まあ、そうですわね。このままだと貴方も表彰される可能性がありますし、サバン以外のギルド職員につかまるのも厄介ですわ。ですから後の事は私に任せて、数日間はダンジョンから出てこない方がいいと思いますわよ」
「なんだか気を遣わせてしまってすみません。あと魔力酔いで倒れてるアンナをできたら介抱してやって下さい」

 そう言う俺に、何故かイアさんは凄く嬉しそうに微笑んだ。

「あらあら、アンナさんの心配をするなんて……復讐はやめる事にしましたの?」
「いえ、やめないですけど?」
「はぁ、貴方たちは本当にどうしようもないですわね」

 なんだかイアさんは、俺とアンナを同列に扱ってる気がする。だから俺はすぐに反論しようとした。
 だけどイアさんが突然真剣な顔をしたせいで、俺は何も言えなくなってしまったのだ。

「……ひとつ、貴方が帰る前に伝えておきたい事がありますわ」
「な、なんですか?」

 イアさんは俺に近づいて来ると、机に突っ伏しているシガンに聞こえないよう、耳元で喋り始めたのだ。

「実は貴方のステータスを見て、伝えたかった事があったのを忘れてましたの」
「もしかして何か変なところが?」
「いえ体の異常とかではありませんわ。ただ……」
「……ただ?」
「何故か貴方の職業は3つありましたわ」

 ……え、職が3つ?

「その職は【ディフェンダー】【テイマー】【ダンジョンマスター】ですわ」
「待って下さい! 以前サバンに確認してもらったときは【テイマー】だって……それに昔地元で見てもらったときは【冒険者】って結果でしたけど?」
「職業は鑑定レベルが高い人ほど詳細に見る事ができますわ」
「ええ!? そうなんですか?」

 確かにスキルにもレベルがある。
 でもそれだけでこんなにも内容に差が出てくるとは思わなかった。

「安心して下さい、複数職を持っている方は稀にいますわ。ただ変な輩に目をつけられやすくなりますの。だから鑑定が使える高ランク相手には気をつけるのですわよ?」
「わ、わかりました……」

 そう頷いたのに俺がここから立ち去るまで、イアさんは何度も俺に念を押してきたのだった。


 ◆ ◆ ◆


 イアさんと別れた俺はセシノと合流していた。
 俺たちはダンジョン塔の階段を登り、『カルテットリバーサイド』へのゲートに向かいながら、今日の事を話しているところだった。

「はぁ、凄く濃い一日だった……」
「本当ですね……でもこれで派閥争いは終わったんでしょうか?」
「……わからないけど、後はイアさんたちに任せれば大丈夫だろ」

 全てを放り投げてしまったのは気が引けるけど、イアさんに暫くはダンジョンに引きこもれと言われたのだから仕方がない。

「本当、イアさんには感謝しかないです……。そのおかげで、ようやくダンジョンに帰れるんですから」
「ああ、そうだな」

 俺はダンジョンへ帰れる事にとてもホッとしていた。
 早く帰って、アイツらに会いたいな……。
 そんな事を考えていたら、セシノが言いづらそうに話しかけてきたのだ。

「あの、バンさん……。ギルドの屋上にいる時、何かありました?」
「……え、今の俺ってそんなにおかしい?」
「えっと、そうですね。凄くカクカクしてます」
「カクカク?」

 どうも皆に心配されると思ったら、動揺が体から出ていたらしい。
 せっかくお面で顔が見えないのに、どれほど俺はわかりやすいんだよ。

「もしかして聞いたらダメな事でした?」
「いや、セシノには話すつもりだったからいいよ。そのかわり聞いてもガッカリしないでくれよ?」
「ガッカリなんて絶対しませんよ。ですから私でよければ話して下さい」

 セシノは真剣な目で俺をじっと見つめていた。
 俺はその瞳が耐えられなくて、すぐに理由を話す事にしたのだ。

「……実は今日、俺の結界を破壊した奴がいたんだよ」
「え、バンさんの結界を!?」
「それも触るだけで簡単に割ったんだ……それが俺には凄くショックだった。わかると思うけど俺ってこのスキル以外何も良いところないからさ、だからプライドごとへし折られた気分なんだよな」
「何言ってるんですか、バンさんの良いところはそこだけじゃないですよ!!」

 突然声を荒げたセシノに驚いた俺は、ただ口を開けてセシノを見ていた。

「まだ日は浅いですけど、私はバンさんの良いところいっぱい知っています。だからそれ以外何もないなんて言わないでください!」

「……セシノ」
「それにバンさんのスキルがどれほど最強でも、弱点はある筈です。だから今回たまたま苦手な相手と当たっただけで、バンさんの結界は最強ですよ!」

 そう言われて俺は頭を殴られた気分だった。
 確かに弱点がない完璧な魔法やスキルなんて無い。それなのに俺はいつの間にか、このスキルを過信しすぎていたようだ。

「……弱点か。確かにそう考えたら俺の中で凄く納得できたよ。ありがとな、セシノ」
「バンさんのお役に立てたなら良かったです」

 セシノはまるで自分の事のようにフワッと微笑んだ。
 それだけなのに、俺は今日の疲れが吹き飛んだ気がしたのだ。

「今の俺にセシノがいてくれて本当によかったよ」
「……え?」
「それから今日の件で話し合いたい事が沢山あるんだけど、帰ったら聞いてくれるか?」
「ええ、もちろんです! それなら早く私たちの家に帰りましょう」

 そして俺たちは急いで階段を駆けあがり、ダンジョンゲートを抜けた。
 そこには見慣れた森、そしてずっと待っていてくれたのか何故かマリーの姿があったのだ。

「マスター、おかえりなのじゃ。遅いから心配しておったのじゃぞ?」

 そう言って俺に抱きつくマリーに、やっぱり自分の居場所はここなんだと、俺はとても強く実感したのだ。
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