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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

96、魔法陣を止めろ

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 結界を顕現した瞬間、俺の体から今まで感じたことのない程の魔力が抜けていった。
 そのせいで、俺は耐えられずに机に突っ伏してしまう。
 しかもせっかく顕現させたのに魔力不足によって結界が薄れており、上手く効果を発揮できていなかった。
 きっとこのままだと、魔法が発動してしまう。

「く、くそ……あと少しなのに……」

 今にも途切れそうな意識の中で、俺は結界に神経を集中させる。
 結界は町全体を覆ってるため、いつもなら見る事のできない魔力の流れまで今の俺には伝わっていた。
 これなら、魔法陣の深部が何処にあるのかハッキリとわかる。
 魔法陣がある場所は……この真下だ。
 真下という事はこのギルドの更に下という事になる。ここの地下には地下水道が通ってるから、きっとそこに間違い無いだろう。

 そしてどうにか俺が感知できた魔法陣は、町全体を攻撃出来るとは思えないほど小さくてわかりづらかった。
 しかもその魔法陣は、もうすでに発動してしまっている。だけど巨大な魔法は起動までに時間がかかる為、今このタイミングを逃すわけにはいかなかった。
 だから俺は最後の力をふり絞り、その魔法陣へと小結界を展開しようとした。
 町全体が無理なら、魔法陣自体の魔力を吸ってしまえばいいんだ。
 そう思い小結界を顕現させる。

「こ、これでどうだ……?」

 確かにその魔法陣の起動は止まった。
 そう、確かに止まった筈だった。
 それなのに次の瞬間、小さな魔法陣は突然増殖したのだ。

「……な、なんで!」

 苦しみながらも、俺はもう一度町全体に意識を向ける。
 どうやらその魔法陣は起動スイッチにしか過ぎず、町全体に散らばる小さな魔法陣から魔法陣へと魔力が飛び火していくのがわかってしまったのだ。
 その速度は早すぎて、一気に町中を覆っていく。
 このまま魔法が完全に起動したら、この町は本当に終わりだ。

「もう、間に合わないのか……?」

 いや、まだだ! まだ間に合う、間に合わせてみせる!!
 俺は最後の気力を振り絞って溢れ出す魔法に向けて、小結界を大量に展開させた。

「間に合え、間に合え!!」

 俺の叫び声と共に、結界が魔法陣から足りない魔力を即座に吸い上げ、さらに結界の個数を倍のスピードで増やしていく。
 そして、魔法陣からどんどん溢れ出す魔力を小結界たちが食い潰し弾けて、新しい小結界へと生まれ変わっていくのだ。
 その展開スピードは限界を超え、俺は脳が焼き切れそうだった。

 でもここで耐えれば、俺の魔力は復活する!

「そうだ、この結界は最強なんだ……例え俺が出来損ないだとしても、この結界となら出来ない事なんてないんだ!! プロテクト・ゾーンを町全体に最大出力! 頼む、全ての魔法を消し去ってくれぇぇぇ!!!」

 魔力の回復を確認した俺は、今度こそ完全なるプロテクト・ゾーンの顕現を行使しするために指をクロスさせた。
 その瞬間、町の至る所から聞こえていた爆発音や怒号、全ての音が消えたのだ。
 もしかしたら皆何が起きたか理解できず、唖然としているのかもしれない。
 そう思いつつ、俺はポロリと言葉を溢していた。

「……これは、間に合ったのか?」

 それと同時に、人々の驚愕した声が遠くから聞こえてきた。
 その声を聞きながら、俺は結界の何処にも強い魔力反応が見当たらない事にため息をついていた。

「ふぅ……今度こそダメかと思ったけど、どうにかなったな……」

 俺は重たい体をゆっくり机から引き剥がすと、屋上の柵から町全体を見回した。

「今のところ、魔法が起動した感じもないな」

 俺の結界はちゃんと働いてくれてるし魔力を吸収している為、すでに体は軽くなっていた。
 もう頭も痛くないし大丈夫そうだと、俺は伸びをしながら何かを忘れているなと首を傾げる。

「げ……」

 そういえばアンナの事を忘れていた俺は急いで振り返る。アンナは机に突っ伏したまま俺をじーっと見ていた。
 その事に俺は内心焦ってしまう。しかしよく見るとアンナの顔はとても辛そうだった。

「アンナ……大丈夫か?」
「あ、アンタ……本当に凄いのね。このまま見ていたかったのだけど、悪いわね……ちょっとダメみたいだから……後は、任せたわ……」
「え、ちょ、ちょっと!?」

 慌てて駆け寄ったのに、机に倒れていたアンナは既に意識を失っていた。
 もしかして、俺の魔法陣発動阻止が遅れたせいか……?

「まあ、アンナだし……とりあえず放っておいてもいいよな?」

 そう思いつつも気になってしまった俺はアンナに上着をかけようとして、既に一度貸しているせいで上着が無かった事を思い出す。

「あー、全く。こんな奴に優しさを見せようとした俺が馬鹿なのか?」

 そうため息をついた俺は、他のメンバーが今どうしているか気になってしまう。でも通信アイテムはもう使えないし、後は信じて待つしかないようだ。
 だけど俺は確信していた。このギルドには確実にお面派の幹部がいるという事を……。

 魔法陣があったギルドの地下通路は確かに外部からも入れるが、あそこはギルドが直接管理している為にギルド職員しか入れない。
 何故俺がそれを知ってるかといえば、昔サバンが内緒で俺を地下水路に入れてくれた事があるからだ。
 だからこそあんな場所へ、バレないよう細工された小さな魔法陣を設置できるのは、ギルド職員しかいない筈なのだ。

「頼むから、少しでもボロを出してくれよ……」

 それでもし見つかったら、俺の小結界たちの餌食にしてやるからな。
 そう思いながら俺は今すぐに作れる罠を考える事にした。
 でもその前にギルド近辺から誰も逃げられないように、俺はギルドを中心とした多重結果を展開しておく。

「完全に封鎖しても幹部が見つからないと意味がないんだよな……。どうにか幹部がギルド職員だという事だけでも、周りに伝える方法はないのか?」

 俺はもう一度周りを見回す為に柵から下を見た。

「……あ」

 丁度良いところにセシノの姿が見えた俺は、セシノに気付いてもらうために大きく手を振った。
 そして俺の存在に気がついてくれたのは、セシノの横にいたシェイラだった。
 しかもシェイラは俺に向けて指を差し、セシノに俺の存在を教えていた。
 だから俺は、一生懸命身振り手振りで幹部はここにいる事を全力で伝えようとしたのだった。
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