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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

93、結界の使い方

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 正直、俺は油断していた。
 俺にはもうできる事はないと、後はイアさんの手伝いを頑張るだけだと思っていたのだ。
 だからイアさんが俺を指差している事が信じられなくて、実は俺以外を差しているのではないかとキョロキョロしてしまう。

「え、ええ? 本当に、俺ですか?」
「そうですわよ、だからキョロキョロしないで欲しいですわ」
「す、すみません」
「いや二人とも何言ってんのよ、魔法を消すって本気の話じゃないでしょうね!?」

 確かに、アンナがそう言いたくなるのもわかる。だって俺もそれはどう言う事なのか気になっていたところなのだ。

「本気も本気の話ですわよ。だから、ここからは貴方の結界に本気で頼らせて貰いますわ」
「俺の結界に……?」
「ええ、そうですわ。それにもう忘れましたの? 貴方は先程あの男たちでスキルを試した結果、一つの知見を得ましたわよね」
「スキルを……」

 俺はさっき、自分のスキルを色々調べていた。
 その結果、俺のスキルは魔力を吸収する事がわかったばかりだ。
 つまり……。

「大規模魔法の魔法陣が発動した瞬間に魔力ごと吸収してしまえばいいと?」
「その通りですわ!」
「でもそれって、町全体を結界で覆うって事じゃ……」

 流石にそれは無理と言おうとしたのに、アンナに俺の言葉を遮られてしまった。

「魔法を吸収って一体どう言う事よ!? この人そんなに凄いの?」
「いや、だから……」

 できませんっと言いたいのに、今度はイアさんに言葉を遮られてしまう。

「ええ、彼ならそれぐらいの事はやってくれる筈ですわ!」
「嘘、本当にそんな事出来るの!?」

 そしてアンナから期待の眼差しで見られてしまった俺は、今更無理ですとは言えなくなってしまったのだ。
 もしかしたらイアさんの目算では、俺がぶっ倒れれても結界が展開できれば大丈夫と思っているのかもしれない。
 正直、成功確率は高くないと思う。だけど俺の力でこの争いを早く終わらせる事ができるなら、少しは頑張ってみてもいいかな……なんて、俺らしく無い事を思ってしまったのだ。
 だって仕方がないだろう。今の俺は、もうダンジョンが恋しくてすぐにでも帰りたい気分だったのだから。

「わかりました。上手くいくか不安ですが、やってみます」
「あんた……実は凄い結界師だったのね。私が知ってる奴とは大違いだわ」

 ……残念だけどアンナよ、多分その大違いな奴も多分俺の事だと思うぞ?
 褒められながら貶された俺は、少しイラっとする気持ちを抑えてアンナから目を逸らした。

「そうと決まりましたら、急いでこの町の真ん中にある冒険者ギルドに向かいますわよ。丁度そこで、確認したいことがありますの」
「確かにギルドはこの町のど真ん中にありますから、結界を展開するのに効率がいいのはわかりますけど、確認したい事って……?」
「もしかすると、ギルドにはお面派の幹部がいる可能性がありますわ」
「え?」

 疑問に思ってしまった俺に向けて、イアさんは向こうで伸びている男たちを指差して言った。

「あちらで伸びている方々の話を信じるなら、ギルドは大規模魔法の攻撃を受けない場所ですわよね? つまり街全体が攻撃対象なら、幹部たちだって魔法を避けられる場所で待機したいと思う筈ですわ」
「成る程……でも安全地帯は他にもありますし、確実にギルドにいるのかはわからない、という事ですよね?」
「ですから、それを確認しに行くのですわ」

 確かに運良くお面派の幹部を見つける事ができれば、この争いをすぐに終わらせる事ができるかもしれないからな。
 成る程と納得していると、話に入れなくムスッとしていたアンナがまた癇癪をおこし始めたのだ。

「何よ、また二人が何の話してるか全くわかんないんだけど! いい加減私にもちゃんと説明しなさいよ!!」
「そうですわよね。でも時間はありませんし、走りながら話しますわ」
「ちょ、ちょっといきなり走らないでくれる!? もうイアってば、待ちなさいよ~!!」

 すでに走り出していたイアさんに文句を言いながらアンナもその後ろをついていく。そんな二人に置き去りにされないように、俺たちは二人を追いかける事にした。
 正直、もうこの体力で着いていけるのか凄く不安だけどな……。
 そう思っている間に、イアさんはアンナとセシノに先程あった事を掻い摘んで話しているようだった。
 そして俺の体力が限界になってきた頃、ようやくギルドが見えてきたのだ。
 しかし、どうやらギルドには思ったよりも一般人が詰めかけてるようで、このままだと入れる気がしない。

「これでは直接ギルドに入るのは無理ですわね」

 流石にイアさんも、その人だかりを掻き分けてギルドに入るつもりはないようだ。
 ここからどうしようかと悩み始めた俺たちに、イアさんの話を黙って聞いていたアンナが突然文句を言い始めたのだ。

「ねぇ、ちょっと……イアが話してた派閥争いの話はわかったけど、それって私たちがわざわざ止める必要があるのかしら……?」
「もちろん、ありますわ。一応冒険者の決まりとして、エリアにいる冒険者はそのエリアで暴動が起きた場合、それを止める事が義務付けられていますわ」
「え!? そうなんですか……?」

 俺がファミリーに入っていたのは5年ぐらいだけど、そんな話聞いたことがない。

「実際その連絡が来るのは上位10に入るファミリーぐらいですから、知らなくても仕方がありませんわね」
「それじゃあ、私が手伝ってもあんたのファミリーしか得しないじゃないのよ!」
「いえそんな事はありませんわ。それに先程私は、アンナさんが断る事はないと言いましたわよね?」
「確かに言ってたけど、先にその理由をいいなさいよ!」
「実は今回のような暴動を止める事に貢献した人は、ブラックバッジの数を減らす事ができますのよ?」

 その言葉に、アンナの動きがピタリと止まったのだ。
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