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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
84、上手く言えない(アンナ視点)
しおりを挟むお面の男は私の前で立ち塞がるように言った。
「まだ戦うつもりならやめた方がいいと思うんだけど……。それにここは俺がなんとかするからさ、君は逃げたほうがいいんじゃないかな?」
「は? 何言ってるのよ、あいつらは私の獲物なのよ!?」
「だけどその格好の君に勝ち目なんてないと思うんだよね。それから、その……凄く言いづらいんだけど、本気で視線に困って戦いに集中できないからさ、着替えて来てくれると助かるなぁ~、なんて……」
「……へ?」
ちょっと待って。まさかこの人、本気で私の事が心配でこんな事を言ってくれてるの……?
それによく考えると、お面の男はまるで私を助けに来たヒーローみたいで、こういうシチュエーションに子供の頃から少し憧れていた私はドキドキしてしまう。
いやいや、そんな事にときめいてる場合じゃないからと、私は落ち着くために深呼吸する。
「でもこんな事言った所で、君はやっぱりここに残るって言うよな?」
「ふ、ふん。私を何だと思ってるのよ!? し、仕方がないから今回だけは逃げてあげるんだから、私に感謝しなさいよ!」
深呼吸したおかげなのか少し冷静になった私は、たまには助けられるのも悪くないわねと、今は逃げる事に決めたのだ。
「それはよかった。イアさんもその方が助かりますよね?」
「私としてはそうですけど……でも貴方も彼女を助けるという事でいいんですわね?」
「この状況じゃ仕方ないじゃないですか。それに俺は他のやつに先越されるのは嫌いなんですよね」
「はぁ、なんというか貴方も面倒な性格ですわね。私としてはこの状況を放っておけませんし、手伝いますわ」
黙って聞いてたけど、先越されるのが嫌ってのは私の事よね?
よくわからないけど話の内容が何の事か気になるし、変に意識してるせいで顔は赤くなるし困ったわ。
とりあえず私はその赤い顔を隠すように男たちの方を向くと、現状を確認することにした。
「くそ、全く歯がたたねぇ!」
「スキルも使えないし、どうなってるんだ!?」
「これ、前だけじゃねぇ。俺たち完全に囲われてるぜ!!」
どうやら男たちは見えない壁を必死に攻撃しているのに、そこから全く抜け出せていないようだ。
多分このスキルは防御バリアとか結界の類いなのだと思う。だけど私よりもランクが高い男たちの攻撃を受けても、全くびくともしないとか一体どうなっているのだろうか。
もしかするとお面の彼はランクがコイツらよりも高くて本当に強いのかもしれない。
だけどこのスキルをどこかで見た事がある気がするのに、思い出そうにもこんなにも役立つ防御スキルなんて私は知らない。
そう思いながら少しの既視感を振り払っていると、いつの間にかあの薄茶色の髪をした少女が目の前に立っていた。
「お姉さん、私と一緒にここを離れましょう。もしかして怪我とかしてますか?」
「え? だ、大丈夫よ怪我はかすり傷よ。それに体力は有り余ってるし、すぐに走れるわ!」
「それなら私たちは元々行く予定だったお姉さんの部屋に急いで向かいましょう!」
「ええ、それなら私についてきなさい!」
「はい!」
そして私は去り際にお面の彼に助けてくれたお礼を言おうとして、失敗した。
「そのスキルは強そうだけど、負けたら絶対に承知しないわよ!」
「え、えっと……なるべく頑張るよ」
何故かしら、この男を見てるとどうしてかこんな態度を取ってしまうわ。
その事に少し落ち込みながら、私は少女とこの場を立ち去ったのだ。
そして走りながら先程の事を思い出した私は、少し震えそうになる体をさすっていた。
悔しいけどあのままいけば私は確実に負けていたわ。その場合どうなっていたかなんて考えたくもない……。
だから私はお面の彼が来てくれた瞬間、本当に助かったと安堵したのだ。
だけどこうして少し彼の事を考えるだけで、私の鼓動が高鳴る事が信じられなくて……助けてくれたから少し気になるだけよ! と、首を振ったのだった。
ようやく宿屋に着くと、女将さんが私の姿を見て驚きのあまりテーブルクロスを私の体に巻きつけた事に、二人して笑ってしまった。
そのせいで部屋に着いた頃には、私は少し変な格好になっていた。
「ここの女将さんは、とてもいい人でしたね」
「本当そうよ。でもいい人過ぎて少しお節介なのが、有難いけど困ったところでもあるのよね。悪いけどすぐに着替えるから、部屋にある物を見て待っててくれるわよね?」
「えっと、確かにベッド付近の可愛い人形とか見たいんですけど、その前にご希望の布を出しておきますね」
「布!? そういえばすっかり忘れてたわ……本当、アンタには助けられてばっかりね」
「ふふ……お互い様ですよ」
私は着替えをしながら、何故かお面の彼とセシノの関係が気になってしまい、率直に聞いてみる事にした。
「着替えながらで悪いけど、質問してもいいかしら?」
「何でしょうか?」
「アンタと、あのお面の人ってどんな関係なの?」
「え!? ど、どんなと言われても……同じ宿屋を経営する仲間、ですかね……?」
「なんで、アンタが自信なさそうに言うのよ。確か宿屋ってダンジョンにあるとかいうやつよね?」
「そうです!!」
あのお面の人とこの子が経営してるなら少し行ってみたい気がするけど、あそこはトラウマのあるダンジョンボックスなのよ。
入ったら私はどうなるかもわからないのに、そんなリスクをおかしてまでいくわけには……。
「今は露天風呂も庭園温泉もありますし、それに今度『可愛い動物のトピアリー』に『上から見ると絵柄に見えるお花畑』が増える予定なんです。更にお土産に可愛い服や置物も売りたいと考えてるので、お姉さんは可愛い物好きみたいですし是非来て欲しいです!」
「凄い可愛い物だらけじゃない! そんなの行くに決まってるわ!!」
「本当ですか?」
可愛いに釣られて反射で返しちゃったけど、私ったら何言ってるのよ!?
でもこんなキラキラした目で見られたら今更やっぱやめるなんて言えない。
「え、ええ。行くから、出来たときにまた教えて貰えるかしら……?」
「絶対に伝えに行きますから、楽しみに待っていて下さいね!」
ニコニコ嬉しそうに言うセシノを見てしまったら、私は腹を括るしかなかった。
だけど今すぐにって訳じゃないんだから、それまでに心の準備をしないといけないわよね……。
そんな事を思っていたら、セシノが思い出したように言ったのだ。
「そうだ、まだ私の名前も言ってなかったですよね」
「た、確かにそうね……」
「私はセシノです。お姉さんの名前を伺ってもいいですか?」
やっぱりそうくるわよね。でもどうしよう……この子に私の名前を言っていいのかしら?
正直、今でもこのエリアに私の悪名がまだ轟いてるとは思えないし、流石にこんな若い子にまで名前は知られてはいないだろうと、私は恐る恐る名前を伝える。
「私はアンナよ」
でもセシノの反応が怖くて私はすぐに話題を逸らしていた。
「丁度着替えも済んだし、すぐにさっきの所に戻りましょう?」
「……え? は、はい!」
「ちょっと、何ボーッとしてんのよ早く行かないとお面の人に倒されちゃうじゃない。アイツらを最後に叩きのめすのは絶対に私なんだから!」
そう意気込んで、私たちは宿屋を後にした。
このとき私はセシノが少し困った顔をしていた事に気がついていたのに、今はそれを確認する時間はないと走りだしたのだった。
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