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第三章 温泉を作る俺

74、激怒(アンナ視点)

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ここでついに8年前バンを置き去りにした女剣士、アンナ視点を2話。

ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー





















 ありえない、ありえない、ありえない!!
 どうして私がこんな目に遭わないといけないのよ!?

「アンナ、君はまたダンジョンから逃げ出してしまったんだって?」

 だから、何なのよ! 逃げないとこっちがやられてたのよ……だから私は悪くないわ。

「全く……君を『白百合騎士団』に招き入れてから今回でもう五回目だ。流石にそろそろ他の団員からも苦情が増えてきていてね。これ以上、君をここに置いて置く事が出来なくなってしまったんだよ」

 そんなのってないわよ!? だってこのファミリーにはそんな約束事なんてないじゃない!

「だが、私たちはファミリーだ。場を乱す事はファミリー存続に関わる事もあるのだよ。それと悪いけど君の除名届けはすでに出してあるからね、今日中に荷物をまとめてこのアジトから出て行ってもらうよ」

 そんな……そんな事って……。

「最後に、君のトラウマについて一言いわせてもらうけど……アンナはトラウマを克服すべきだと思うんだ。そのために一度、元いたエリアに戻ってしっかりとトラウマに向き合うべきだと、私は思うんだよね。それでもしトラウマが克服出来たのなら、また君を団員に迎え入れてもいいと思っている。だから君の健闘を祈っているよ、アンナ……」

 待ってよ、なんで皆私が悪いみたいに言うのよ!
 私は何も悪くないのに、そうよ悪いのは私にトラウマを植え付けたあの男のせいなんだから!
 だから私は悪くないのに!!?


「ハッ!?」

 ガバッと飛び起きた私は、ベッドの上にいた。
 まだ外は薄暗いから、早く起き過ぎたのだろう。
 それにしてもーー。

「はぁ、はぁ…。さっきは、夢……?」

 いや、あれは私が実際に『白百合騎士団』から追放されたときの夢だった。
 その事に、どうもイライラしてしまう。

「どうして、死んだ男の事をずっと思い出さないといけないのよ……」

 その存在は、まるで亡霊のようにいつまで経っても私の周りから消えはしない。
 だから悪いのはその亡霊に違いないんだと、ずっと言い訳にしてきた。
 だけどもう8年も経ったのだ。キングの言った通り、私もそろそろトラウマと決着をつけないといけないのかもしれない。

「そう思ってこのエリアに帰ってきたけど……私の事を知ってる人が多すぎて、まともに活動する事も出来ないなんてね……」

 しかも今はソロで活動しているために、選べる依頼も大幅に減っている。だからお金が尽きるのも時間の問題だろう……。

「これも全部、アイツのせい……って、もう考えるのやめよ! 私はトラウマを克服しにきたんだから……」

 まだあのダンジョンに行く気にはなれないけど、町を少し歩くだけなら大丈夫よね……。
 そう思って、私はフードのついたローブを羽織い外へと飛び出したのだった。
 町の景色は8年前とだいぶ変わってしまって、前よりもファミリーのアジトが増えている気がした。
 そして私は気がつけば、『暁の宴』が昔使っていたアジトまで来ていた。

「なんだ、ここはそのままじゃない……」

 そう思って見上げた家は、三階建てで少し汚れの目立つ安物物件だった。
 元はアジトもこんな小さかったのに、今や『暁の宴』はこのエリアの第四位だときくから驚いてしまう。
 そして暫く見ていた私に、突然フラッシュバックがおきたのだ。
 そのせいでその場に座り込んでしまう。

「くっ、なんで……」

 どうやらこのアジトを追い出されたとき、最後に見上げた景色と今の景色が重なって見えてしまったのだ。もしかすると、私はこの町そのものがトラウマなのかもしれない。
 そして私は思い出したくないのに、思い出してしまう。
 バンを置いてきた後にファミリーで起きた事を……。




 バンを置き去りにした日、私は急いでダンジョンから戻ってきていた。
 そしてパニックになっていた私は、気がつけばファミリーメンバーに囲まれていた。
 私の横にはイアとホージュがいて、ダンジョンで起きた事の説明をイアがしていたのだ。

「と、言うわけで私たちはバンを囮にしたままダンジョンを抜け出してきたのですわ。だからすぐに助けに向かうためのメンバーを集めさせてください」
「そうか、確かにアイツの結界なら少しは持ちそうだからな。おい、お前らイアと一緒に10人ぐらいでバンを探しに行ってやれ!」
「はい!!」

 そう言うと、イアとその10人はすぐに準備をして部屋を出ていった。
 イアは私を庇う為にあんな言い方をしてくれたのだと、放心状態の私は気づいてホッとしてしまう。
 それなのに、ホージュはイアがいなくなった途端に思いも寄らない話をし始めたのだ。

「キング、イアさんはああ言っていましたが実はここにいるアンナさんがバンさんを置き去りにしたのです」
「なっ!?」

 私はつい、ホージュを見て開いた口が塞がらなくなってしまった。
 しかもこちらをチラリと見たホージュは少し笑って見えたのだ。
 それに対して何か言い訳を言う前に、キングが激怒したのだ。

「なんだと、それは本当か!?」
「はい、そうです。トロッコで移動中、モンスターに追いつかれそうになった所でアンナさんが、バンさんを蹴落としたのを間違いなく見ましたから」
「それは、あんたが一人下ろせば助かるって言うから!?」
「私は例えを提示しただけですから、まさか本当に降ろすなんて思うわけないじゃないですか」
「そ、そんな!?」

 もしかして、私はコイツに嵌められたわけじゃないわよね……?
 そう思っている間にも、メンバー全員が私を責めるような瞳で見てきたのだ。
 その事に恐怖した私はもう何も話すことができず、その瞳から逃れるように俯いてしまった。

「今の話でアンナがした事はよくわかった……アンナ、このファミリーで誰かを置き去りにする事は禁止されているのは知っているな?」

 怒っているキングの圧によって私は頷くことしかできない。

「それならわかってると思うが、もしバンが戻って来なければお前をこのファミリーから追放しなくてはならない、その事をよく覚えておけ」
「そ、そんな……」

 そして一週間後、ファミリーにバンが帰ってくる事はなかった。
 そして調査は打ち切りとなり、私はこのファミリーを追放される事が決まったのだった。




 そして現在の私はその光景を、あの蔑むような沢山の瞳を何度も思い出してしまい、まだ動けないでいた。
 く……少し収まってきたけど、立ち上がれないじゃない……。

「あの、そこの方……大丈夫ですか?」

 誰かに話しかけられて私はどうにか顔をあげる。

「あれ、アンナさん?」

 しまった知り合いだったかと、その顔をよく見て私は驚いてしまった。

「ほ、ホージュ?」

 そこには、あの日私がファミリーから追い出された原因の一人でもあるホージュが立っていたのだ。
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