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第三章 温泉を作る俺
71、部屋数を増やそう
しおりを挟むここが温泉宿にリニューアルしてから、もう1週間が経っていた。
初日に『暁の宴』の面々が訪れてからいうもの、その噂は一気に拡散された。
流石大規模ファミリー、まずは全員が来るだけでも1週間近くかかってしまい、泊まる人の部屋数が全然足りなくなってしまったのだ。
それでも温泉だけとか、ご飯だけでも、という客もチラホラいるようで、常に何処も賑わっていた。
そして今の俺は大忙しの中、時間をどうにか作って四階を改築中だったりする。
「バンテットさん、3階の改装終わりましてよ?」
声をかけられて振り向くと、そこにはマヨの姿があった。
今日はようやく休みが取れたとかで、新しくなった温泉宿を飾り立てに来てくれたのだ。
俺は、そのついでにと部屋の改装までお願いしていた。
「マヨ、ありがとう助かったよ。俺のこれが終わったら続けて四階もお願いするから、それまでは少し休憩していてくれ」
「わかりましたわ!」
俺はマヨにあまり見えないように、指をスイスイ動かして部屋を改築していく。資材は知らない間にモンスターたちが集めてくれているので、最近は資材不足に悩む事もなくて安心だ。
そしてようやく改築の終わりが見えてきたので、俺は休憩しているマヨに気になっていた事を聞いてみた。
「そういえば、今日クラウは一緒じゃないのか?」
「な、何故ここで先輩の名前が出てくるんですの!? べ、べつに私は先輩とずっと一緒にいるわけではありませんわ!」
少し顔を赤くしながら言う姿に、これはもしや……? と思ってしまった俺は、気がつけばつい口からぽろっと言葉が漏れていた。
「もしかして、クラウの事が好きなのか?」
「な、ななな! そ、そんなんじゃありませんわ! ただの先輩と後輩ですのよ!?」
顔を真っ赤にして髪のドリルを振り回しながら首を振る姿に、これは絶対好きなやつだなと。少し微笑ましくてニヤニヤと見ていたら、後ろから突然声をかけられて驚いでしまう。
「えっと、なんか僕の名前呼びましたかー?」
「せ、先輩!!?」
そこには相変わらずやる気の無さそうな顔をしたクラウが立っていた。
本人が突然現れたせいで驚いたマヨは固まってしまったので、俺がフォローして置く事にしよう。
「クラウ、来てたんだな」
「はい、まあ……無理矢理連れて来られた的な? それで先程の話は?」
「いや、二人とも大体一緒にいるだろ? だから今日は一緒じゃないんだなって話をしてたんだよ」
「あー、成る程。実際はギルドだと一緒じゃない事の方が多いんですけどねー。でもバラバラで来たのにこんな偶然あるんだと、驚きましたよ」
確かにそうかもしれないと、思っていたら。
後ろに見覚えのある二人組が歩いてきたのだ。
「よー、久しぶりだな。えーっと、バンテット? だよな?」
「何故、仲が良さそうに話かけておいて疑問系になるんだ。名前を忘れるなど友としてどうなのか……全く意味がわからん」
そこにいたのはサバンだった。そして他にもう一人、凍えるような瞳を持つ女性が腰まである青髪を靡かせていた。
久しく会ってなかったせいでだいぶイメージが変わってしまったが、この女性は冒険者ギルド東エリアのギルド長であるコルト・キワレイ。ようはサバンの想い人だ。
俺は久しぶりと言いたいのをグッと堪えて、二人の会話を聞き続けていた。
「えっと……ほら、たまにあるだろ? ど忘れとかそんな感じのやつだ」
「何を言っている? そんな事まで話せと私は言っていない。それよりも早く温泉へ案内しろと、さっきから言っているだろう? 私はここの温泉がとても肌にいいからと言われてここまでついて来てやったのだ、本来なら私は凄く忙しいのだから感謝するんだな」
コルトの強気な態度はどうやら昔から変わってないようだ。
しかしなんでサバンもこんな奴が今でも好きなのかよくわからん。もしかするとただドMなのかもしれない……なんて失礼な事を考えてしまう。
「ギルド長、それなら僕が案内しますよー。どうせ班長はバンテットさんと話があるようですし、先に行きましょう」
「うむ、とりあえず案内してくれるのであれば誰でもいいからな」
「ああ、俺もすぐ向かうから二人は先に行ってろ」
クラウは頷くと、コルトを案内し始めた。
どうやらクラウはサバンに無理矢理連れて来られているようだ。相変わらず苦労の絶えない男で可哀想である。
そんな俺たちを静かに見ていたマヨは、休憩をやめるのかゆっくりと立ち上がると言った。
「バンテットさんはお話があるようですし、私は一人で四階へ行こと思っているのですわ」
「それは悪いな。でもさっき四階の改築が終わったところだから丁度よかった」
「そうなんですの? でしたら素早く美しく、後は私には任せて下さいまし!」
グッと拳を握ったマヨは、そのまま四階へと駆け上がって行く。
そして三階には俺たちだけが残ったのだった。
「それで、俺に話ってなんだ?」
「そうだな……バン、お前が温泉宿を作ってくれたおかげで俺はコルトを誘う事ができた。だからお礼を言いたくてだな」
「いやいや、それはこっちの台詞だからな。サバンの意見があったからこそこんなに繁盛するようになったんだ。でも何でクラウも一緒に?」
「いや、それが……コルトが二人は死んでも嫌だというからもう一人いたら良いのかと思ってだな」
「ああ、成る程……」
それで、クラウを誘ったら本当にオッケーが出てしまったと言うわけだ。クラウからしたら、ただ迷惑でしかない話だな。
「そんなわけで、今回は二人で来るのは失敗したがこの機会に距離を縮めてみせるつもりだ!」
「まあ、頑張れ」
「そういうお前は、宿屋頑張れよ?」
そう言って俺たちはしっかりと手を握り合った。
これは、これからも協力関係でいようという意味だろう。
しかしタイミング悪く、三階に泊まっている客がサバンの知り合いだったのか、こちらに気がついて声をかけてきたのだ。
「おや、そこにいるのはサバンではないか?」
「あら本当ですわね? 貴方もこの温泉宿にきたのかしら」
その聞いた事のある声に、俺の心臓はドクンっと跳ねる。
そしてゆっくりとそちらを見た俺は、驚きに目を見開いてしまった。
そこには俺がトロッコから落とされたとき、一緒にそのトロッコに乗っていた女性、『暁の宴』に所属しているイアさんの姿があったのだ。
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