59 / 168
第三章 温泉を作る俺
59、宿屋へ戻る
しおりを挟む俺はレッドから飛び降りた後、今まで傍観してました風を装って急いで3人のところへと走り寄っていた。
「3人とも大丈夫だったか!?」
「あ、あれ? 赤竜の上に乗ってたお面のお兄さんは……」
俺がこちらにいるのに、ミラは困惑しているようだった。
「バンテットさんが、先程のお面の方では無かったのですね……?」
「ああ、俺はあそこにずっと隠れていたからな。きっとあれが噂のお面の男なのかもしれないな」
どうせお面の男が誰かなんてわからないんだから、押し付けておこう。
そんな事を考えていたら、男たちの様子を確認していたシガンがこちらに振り返り言った。
「それよりも、この5人組どうしますか?」
「あー、そうだな。ここに放置はできないから、縛ってトロッコに乗せて連れて行くか……」
「あの、この方々ですが……私たちがお預かりしてもよろしいですか? 私たちのファミリーを馬鹿にされたままでは困りますので、話し合いをさせて頂きます」
「確かにファミリー同士の問題になると不味いからな、その方がいいだろう」
そう頷いた俺はミラにトロッコを持ってきてもらい、男たちも一緒に乗せていったん宿まで帰ることにした。
そして気がついたらレッドは俺の服の中に戻ってきていたのだった。
帰りながら、俺はずっと気になってた事をミラたちに聞いていた。
「そういえばせっかく鉱山までいったのに、クエストはよかったのか?」
「実はですね……ふっふっふ~、じゃーんなのです!」
ミラが手を離せないためか、セーラーとシガンが沢山の鉱物を手にしていた。
「おお、こんなにどうしたんだ?」
「あの男たちから拝借させて頂きました」
「僕たちが本来採掘できるはずの時間分は貰ったのですけど……本当によかったのでしょうか」
「それはあいつらの自業自得だから、そのぐらいならいいんじゃないのか?」
人の物を盗むのは良くないが、もとはこの男たちが蒔いた種なんだ。それぐらい自分たちで回収してもらうのは当たり前だろう。
「それより、お前らはこのままダンジョンから帰るのか?」
「私たちは一度宿屋に寄らせて頂いてから、戻ろうかと思っています」
「もしかして私たちお客さんじゃないのに、迷惑です?」
「いや、迷惑じゃないさ」
でも、せっかく宿屋に戻るなら温泉をアピールしておくのもいいかもしれない。
「それから今日、温泉ができる予定なんだけど……よかったら見ていかないか?」
「「「温泉?」」」
「ああ。ちょっと変わった温泉だから、少しでも気になるなら見に来てくれるだけでもいいんだが……どうする?」
「私、すっごく見たいです!」
最初に俺の意見に乗ったのはミラだった。
それに続くように他の二人も顔を見合わせると、こちらを向いた。
「私も見たいですね」
「僕も……」
「それなら皆んなで見に行こう!」
そうは言ったけど、まだ庭園温泉が温かくなってない事を思い出した俺は、レッドに先に戻って温めておいて貰えるようにお願いしておく。
そしてようやく宿屋に着き、俺はトロッコを降りていた。
「やっと宿屋に到着したな。ところで、コイツらはどうするんだ?」
「そうですね、とりあえず起きるまで何処かに隔離しておくのがいいのではないでしょうか?」
セーラさんに言われて、俺は考た。
それなら逃げだせないようにするため、レッドにでも見張っててもらうか。
「じゃあ、あっちに連れて行きたいからミラだけ借りてもいいか?」
「トロッコ動かすのは任せて下さいです!」
「では、私たちは先に宿屋で待っていますね」
そして俺とミラは男たちをトロッコに載せたまま庭園温泉の端へと置いてきたのだった。
その帰り道ミラは興奮した様子で楽しそうに話しかけてきた。
「バンテットさん、あれが本当に温泉になるのです?」
「ああ、その予定だよ」
「もしかして今日、入れたりしますですか?」
「多分入れると思うけど、服はどうするつもりなんだ?」
「あ……忘れてましたです。どうしようです?」
本気でショックを受けてそうなミラに、それならと代わりを提案してやる。
「それなら今日は足湯ぐらいにしてさ、また今度改めて泊まりに来てくれよ?」
「うぅ……絶対に泊まりに行くでしゅっ!! あ、また噛んじゃいましたです~」
そんなミラを見て笑いながら、俺は宿屋の扉を開けたのだった。
そこにはセシノとセーラにシガンの3人が立ち話をしているようだった。
「あ、バンさんおかえりなさい。なんだか大変だったみたいですね?」
「まあ、それなりに……。それにしてもマリーは……?」
俺は玄関ホールを見回したけど、そこにはマリーの姿は見当たらなかった。
「マリーさんなら用事があるからと、出かけましたよ?」
「そうか、もう夕方近いからかな……?」
多分、マリーは牧場に向かったのだろう。
あいつはああ見えて一番忙しいからな。
「それで3人はなんでこんな場所で話し合いをしているんだ?」
「えっと、お二方から事情を聞いていただけです」
「まあ、それだけではないですけど……」
「せ、セーラさん。その話はしないで下さい」
「え? バンテットさんとの関係は聞いてはいけないことだったんですか? って、すみません。僕は言ってはいけない事を……死んで詫びます!」
そう言って、シガンはすぐに剣の鞘を抜こうとした。
それに焦ったセシノはシガンの剣を押さえようと手を伸ばす。
「いえ、死なないで下さい! 私が誤魔化そうとしたのが悪かったので……!?」
「セシノさん、シガンのそれは本気じゃないですから無視していいのですよ」
「そ、そんなの簡単に慣れませんから……」
少し半泣きのセシノを見て、そんな焦るような関係だっただろうかと、俺は話の意味を聞いてしまう。
「セシノにとって、俺との関係って?」
「そ、それは……」
目をキョロキョロさせて顔を赤くし始めたセシノに、そんなに言いづらい事だろうかと首を傾げながら言う。
「俺がセシノの保護者って話だよな?」
「そ、そうです。そういう話をしてました! だからもうこの話はやめにしましょう」
そんなセシノの様子にセーラとシガンはクスクスと悪い、俺とミラは首を傾げたのだった。
0
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
異世界物語 ~転生チート王子と愉快なスローライフ?~
星鹿カナン
ファンタジー
目が覚めるとそこは、ファンタジーのような異世界で、僕はよくあるように、赤ちゃんだった。前世の記憶は、朧気であるものの神様との話は、よく覚えていた・・・・・・
転生王子の異世界チートスローライフ?
スローライフ要素は3章~4章まで殆ど無いかもしれません。
人名のスペルは、英検4級すら受からない作者が、それっぽい音になりそうな綴りを書いているだけなので、鵜呑みにして、参考にする様なことはしないでください。特に深い意味がある訳でもありません。
地図等、自作していますが、絵はかなり苦手なので、大まかなイメージを掴むための参考程度にしてください。
その他、物語の解説などには、地球上の仕組みの中に、実在するものと実在しないものが、混ざっています。これらは、異世界感を演出するためのものなので、ご注意ください。
R指定は特に出していませんが、怪しい部分が多いので、気になる方は、自主規制をお願いします。
現在最新話まで、本編のための前日譚のような外伝ストーリーです。
本編の時間軸に辿り着くまでの長い前日譚もお付き合いいただけると幸いです。
最終更新日:4月15日
更新話:3-027
次回更新予定日: 4月20日
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる