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第一章 宿屋をやると決意する俺

21、ファミリー解散(???視点)

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 マジックアイテム『パワーアップマジックボックス』を使用し始めてから暫く経っていた。
 その対象にはズーロウやバーレも勿論入っていて、皆もう立つ事も出来ないのか床に座り込み、目は虚ろになってしまっている。

「うーん、これぐらいかしら? これ以上は本当に死んじゃうわよね。それから最後の仕上げをしないと……」

 私はズーロウに近付くとスキル『マウス to チャーム』を再び使用した。
 このスキルは一度発動させれば何度か連続で使えるため、私はズーロウへとさらに魅了をかける。

「ズーロウ、今までご苦労様。貴方にお願いがあるの」
「…………」

 完全にどこを見ているかわからないその瞳が、一瞬ピクリとコチラを見た気がした。

「窃盗も、人身売買の事も全て俺が一人でやりました。って言うのよ、わかったかしら?」
「…………俺が……やりました……俺が、俺が……」

 どうやら上手く魅了にかかってくれたようね。
 意識は虚だけど、ズーロウは俺がやったと呟き続けていた。
 あとは正常な子たちを勧誘して早くここを出ましょう。
 私は、ズーロウ以外の魅了を解くために声を張り上げた。

「リセット!!」

 このとき、ズーロウの魅了が解けないように私の手でその耳を塞いでいた。念のため魅了の確認を終えると、怪しまれないようズーロウからすぐに離れる。
 そして魅了が解けたのに、まだぼーっと立っている仲間に私は声をかけたのだ。

「さあ、皆目を覚まして! ズーロウは自白したわよ」
「あ……俺たち?」
「えっと、何して……!?」
「な、仲間が皆倒れてるぞ!?」
「大丈夫よ。彼らも貴方たちみたいに時期に起き上がるわ」

 これは嘘、本当は二度と起き上がらないかもしれないけどね……。

「く、クイーン!!?」
「そ、それならいいのですけど……」
「って、キングが本当に自白してる!!」
「流石クイーンだ!」

 皆が凄いと私を褒めてくれる。
 それだけで私は面白くてニヤケそうになる顔を我慢しながら、いつも通りの優しい笑顔で大事な話を伝える。

「いいえ、今日から私はクイーンじゃなくなるわよ?」
「「「え?」」」
「今日をもって、ファミリー『黒翼の誓い』は解散する事になったのよ」
「「「「!?」」」」
「でも安心して、私には他のファミリーへのツテがあるの。今立ち上がってる貴方たちぐらいなら受け入れて貰えるはずよ。だから一緒に行かないかしら?」

 これを断る人はそうそう居ないはずよ。
 だって『黒翼の誓い』の悪評は広まりに広まってしまっているもの。きっと他のファミリーに入るのは難しくなっているはずだわ。
 だから私は優しい目をしたまま、必死に考える仲間を待ってあげる。
 そして、一人がおずおずと手をあげた。

「俺、ついていきます!」

 一人言い出したのを境に、次から次へと手があがる。皆答えは一緒だった。

「そう、皆一緒に着いてきてくれるのね嬉しいわ。それなら自分の荷物を持ったら裏出口に集まってもらえるかしら?」
「わかりました!!」
「すぐ、支度しますね」

 そう言って、仲間たちが自分の部屋へと走って行く。そして、とうとうここには虚な仲間だけが残った。
 私がここに残ったのは、この魔力を使った痕跡を消さなくてはならないから……。
 きっと乗り込んできた兵がこの状態を見れば、解析魔法を使うのはわかりきっているもの。
 だから簡単なダミー魔法を床に張り巡らせて置く。それだけのことで、無能な魔法監査はこの症状はこの魔法陣が原因と判断を下すだろう。

「適当に仕事してるやつらを出し抜くのは簡単よ。だって、本当にこの国は無能ばかりだもの……」

 その怒りのこもった呟きは、誰にも聞かれていないと思っていたのに……。

「く、クイーン……あの、これはどう言う状況なのです?」

 まさか人がいると思っていなくて少し驚いてしまった私は、入り口の方を見る。そこにはこの状況に目を丸くしているシェイラの姿があった。
 先程まで出かけていたのか買い物袋を持っていたので、もしかすると晩御飯の当番だったのかもしれない。

「……シェイラ。もしかして今の話、聞こえていたかしら?」
「いえ、それよりもこの光景に驚いてしまって……皆さんは一体どうして?」

 動揺する姿からシェイラには聞こえて無かったようだと、私は少しホッとしていた。
 どうも私は、彼女の前で優しい自分を見せたいと思ってしまうのよね……。

「シェイラ、大丈夫よ。暫くしたら皆目を覚ますわ。それと先程決まった事だけど、このファミリーは今日で解散よ」
「…………へ?」
「貴女もキングに脅されてこのギルドに入ったそうじゃない。そうね、よければ貴女も一緒に私の知り合いのファミリーに行かないかしら?」

 シェイラには、特殊スキル『スター・スピード』がある。その俊足には利用価値があるかもしれないわ。
 そう思っていると、暫く混乱しながらも考えていたシェイラはゆっくりと首を振った。

「ご、ごめんなさい。せっかく誘って頂いたのに、私は親の手伝いをしたいので実家に帰ることにします!」
「そ、そう。まあ貴女はもとより冒険者を望んでしいていた訳じゃないものね。無理強いは出来ないわ、それならここに兵が来る前に自分の荷物を持って出て行った方がいいわよ?」
「あ、ありがとうございます!! 最後まで何から何まで優しくして頂いて……今までお世話になりました!」

 お辞儀した後、シェイラはすぐにここから駆け出して行った。
 その姿を見つめながら、私は首を振る。
 例えあの子が妹に似ていたとしても、シェイラはシェイラよ。だから情けをかけてはいけないわ。
 だって私にはやる事があるのだから、その為には心を殺してでもあの人に仕えるとそう決めたのよ。
 だから早く帰らなくては……私の本当に仕えているファミリー。

 『ユグドラシルの丘』にーーー。



 ◆ ◆ ◆



 この日、冒険者ファミリー『黒翼の誓い』は解散した。
 そしてこの事件は、大きく新聞の一面を飾った。
 それは冒険者に衝撃を与え、奇怪な事件として記録を残す事になる。

 その新聞の内容には、首謀者である『黒翼の誓い』元キングであるズーロウという男がファミリー内での盗難、恐喝、詐欺、人身売買など沢山の事に手を染めた事が書いてあった。
 何より捕まっているズーロウは、身体におかしなところはないが、精神は完全に崩壊しており何を聞いても「俺がやった」としか呟かない、ただの抜け殻のようであると書かれていた。
 そして奇怪なのはそれだけではなく、元『黒翼の誓い』のメンバーの半数が、ズーロウと同じように精神崩壊をおこしている事だろう。
 その事をズーロウが引き起こしたのかはわからないが、精神崩壊をしている男からそれ以外の情報は得られず、その事件の調査は打ち切られた。

 そう書いてある記事を読み、私はニヤリと笑みを浮かべた。
 しかしそこにはもう一つ『ズーロウに天罰を与えたお面の男』という話が載っていて、それを読んだ私は今度はその笑みを消す事になったのだった。
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