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第二章 開業準備をする俺

43、タグ

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 サバンは先程得た俺の血から新たな情報を入力していたようなんだけど、それにしても俺の職業がテイマー??
 どういうことだ……?

「何で、冒険者からテイマーに? ダンジョンマスターでもないし……この装置壊れてるんじゃないか?」
「そんな訳あるはずがない! コレは最新式の装置を俺が改造したんだぞ!!」
「いや、改造してる時点で壊れてる可能性は……」
「あり得ない!!」

 何故だと、サバンは装置を何度も弄ると頭を抱えて最終的には、無言になり椅子に座った。

「もう面倒だからそのままテイマーにしておこうな。そのままよりはバレなくていいだろう?」
「いや、雑だなおい! まあ、俺はそれでいいよ。テイムしているのはスライムって事にしておいてくれ」

 実際にここにいるのはスライムのマリーだし。
 そう思ってマリーを見たら、手をちょいちょい招いていた。俺にテイムされてるというのが嫌という事だろうか?

「マスターよ、良いものをくれてやろう」

 マリーはそう小声で言うと、俺の肩に何かを乗せた。

「あ、可愛い! 小型スライムですね?」
「おい、バン。お前今何処から出したんだ??」

 驚く二人の反応から、俺の肩にはどうやら手乗りスライムがのっているのだろう。
 これではたから見れば完全にテイマーに違いない。

「実はずっと連れていたんだ」

 うん、そう言う事にしておこう。
 俺はマリーに感謝するために頭を下げておくと、マリーはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
 あれは後で何か俺に強請るという合図だろうか……今考えるのはやめておこう。

「そうだったのか、でもテイマーとわかれば連れ歩いてても問題ない! それからこれがお前の新しいタグだ」

 そう言って渡されたタグを見ると、名前は【バンテット・リダーサイン】職業は【テイマー】にしっかりと書き変わっていた。
 それもランクは4のままなので、とても有難い。

「おお、助かった。じゃあ後はイベント申請書ってやつを書くだけだな」
「それは、この紙だな」

 そう言ってサバンが出してきた紙を見ると、イベント名や詳細を書くための空欄があった。

「えっと、期間はどうしたらいいんだ?」
「終了日不明だから、開始日だけでいい」
「か、開始日!?」

 それを決めてしまったら、確実にその日から開業しないといけないと言う事だ。
 俺はどうしたらいいかわからず、セシノを見る。

「今の調子なら後1週間もあれば、開業できると思います。それに開業日がわかればシェイラさんにも連絡しやすいので、来週の頭を開業日にしましょう!」
「そ、そうか……セシノが言うなら間違いないな。それで今は何日なんだっけ?」

 俺はずっとダンジョンに閉じこもっていたせいで季節感も曜日感覚も全く皆無なのだ。
 ここはセシノに聞くしかない。

「そうですね。今は冬の週最終週なので、春の初週になると思います」
「じゃあ、春の1日目ってことだな」

 そして俺はセシノに言われた通りに、どんどん文字を書いていく。
 そして最後まで書き切ると、新しい名前をサインしてサバンに紙を返した。

「ふむ、これで大丈夫だ。これは俺が直にギルド長から許可を貰っておくから、安心しろ」
「サバン、何から何までありがとな」
「何言ってるんだ、これは俺の恋のために決まってるだろう!」

 そう言えばそうだった。
 温泉もどうにかしないといけないけど、その前に宿屋を開業する準備でそれどころじゃないな。

「と言う訳だから、俺はもう行くけど気をつけて帰れよ! とは言っても帰りも近いか、ははははは!!!!」

 豪快に笑いながら去っていく男を見て、相変わらず熱いし雑な奴だったと俺はため息をついた。
 正直アイツがいなかったら、こんな簡単に宿屋なんてダンジョンに出来なかっただろうからな。

「これで、無事に開業できますね!」
「ああ、そうだな」
「そうだ、せっかくだから少し依頼見ていきませんか?」

 何か思い出したようにソワソワし始めたセシノに、俺は首を傾げる。

「何か気になる事でもあるのか?」
「いえ、あの……前の仲間が誰かいないかと思って」

 そういえばセシノの元仲間だった奴らは、殆ど精神がおかしくなってしまったらしいから、セシノは詳しい情報が知りたいのかもしれない。

「そうか……それなら一緒に見にいくか」
「あ、有難うございます」

 俺はタグを握りしめたまま、とりあえずその部屋を後にした。
 多分手に持ったままだったのが良くなかったのだろう、扉を出てすぐに偶然前を歩いていた冒険者とぶつかってしまったのだ。

「いってぇ!!! おい、よそ見してんじゃねえぞ!!」
「そうだぞ! 俺たちにぶつかるなんて何考えてんだ!」
「それは、すみません」

 俺はとりあえずこういうときは適当に謝って流すのが一番だろうと、頭を下げる。
 そして俺は先程まで握っていたはずのタグがない事に今気がついた。

「ん? なんだぁ、コイツのタグか……?」

 そう言って拾い上げたのは俺とぶつかってきた、スキンヘッドのやつで……。

「おい見てみやがれ、この野郎テイマーだってよぉ!!」
「まじか、確か冒険者として最弱とかだろ? うわ、本当だ。よく見たら肩にスライム乗せてるよ!!」
「うっそだろぉ! スライムごときで冒険者としてやってきてんのかよ?」

 そう言って笑い出した二人の冒険者たちは、さらに俺の後ろにセシノとマリーがいる事に気がついた。

「おいおい、にいちゃん。ここは子供連れでくるところじゃねぇんだけど?」
「まさかお面被ってるから、俺は強いと勘違いしてるとか?」
「話はそれだけか? それなら早くタグを返して貰えないだろうか……」
「ああ、これか? 返すも何も、こんなタグあっても仕方がねぇよな!!」

 そう言って、男は後ろにある階段に向けてタグを放り投げた。
 俺は急いでそのタグを取り戻すために、走り出す。
 後ろでセシノが俺の名前を叫んだ気がしたけど、今の俺はそれどころじゃなかった。
 どうにか手を伸ばした俺が、それに触れるのと同時に、俺は階段を落ちていた。
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