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第一章 宿屋をやると決意する俺
6、女の子の話
しおりを挟むしかしこれ以上、この子にその話をする訳にはいかない。なにより俺の恨みの感情を見せる事はできないから……。
「詳しくは教えられないけど、成り行きみたいなもんだ」
「そ、そうなんですか……」
でもセシノに信用してもらうには俺の事情を話すのが一番なのはわかっていた。
きっとセシノは周りに言いふらすような子では無いだろう。それならアンナの事は伏せて、経緯ぐらい話して当たって砕けてみるのもありかもしれない。
そう思いながら俺は気持ちを落ち着かせると、その話をセシノにすることに決めたのだ。
「そうだな信じてもらえるかわからないけどさ……セシノみたいに俺はここに捨てられた事があるんだよ。」
「え、捨てられ……?」
「まあ、セシノとは少し違うかもしれないけど……でもセシノが倒れてるのをみたらさ、昔の俺を思い出した。ただそれだけなんだ……って、なんでセシノが深刻そうになるんだ? 俺は今こうして過ごしてるからあまり気にするなよ」
セシノは聞いてはいけない事を聞いたのではないかと、何かを言いたげに口をパクパクと動かす。
そして突然頭を下げたのだ。
「……バンさん。変なこと聞いてすみませんでした」
「いや、俺は気にしてないから謝らなくていいよ」
「でも、私……」
セシノは少し考えた後に、意を決したように俺を見る。
「あの……バンさんさえよければ私の話、聞いて貰えますか?」
「え? 話を聞くのが俺でいいのか?」
「他に誰がここに居るんですか……」
「まぁ、確かにそうだな」
「……ふふっ」
そう笑うセシノを見て、どうやら少しは心を開いてくれたようでよかったと安堵してしまう。
正直信じて貰えないかと思ったけど、俺の過去話をした事に意味はあったみたいだ。
そしてセシノは、何があったのかゆっくりと話始めた。
問題がおきたのは、やはりファミリー内のいざこざのようだった。
「あの、私は『黒翼の誓い』のキングであるズーロウと言う男に騙されたんです」
「キングに!?」
確かキングとは、ファミリーのトップの事だったはずだ。
ファミリーには、キング、クイーン、エースとそれぞれあって、キングがリーダー。その次のクイーンが副リーダー。
そしてエースは期待の新人につけられる名前で、あのアンナもエースの一人だったのを覚えている。
「そ、そうなんです。私は最初から騙されてファミリーに入りました。だからキングは私をいつ切っても大丈夫な人材として仲間に入れたみたいで……」
「えっと、騙されてたっていうのは?」
「私の実家は宿屋なんですけど……親が借金をして困っているときに、丁度宿に止まっていたキングに助けて頂いたのです。だけど実はその借金自体がキングが仕組んだものだったんです! どうやら私のもつ特殊スキル『収納魔法』が欲しかっただけで、借金の代わりに私を冒険者として連れて行くと……」
「収納魔法だって!? 凄いレアスキルじゃないか!!」
収納魔法といえば、どんなものでも収納出来る箱や鞄を生み出す事が出来るスキルだ。
その為そのスキルが有れば一生楽に暮らしていけるはずなのに何故……?
「それなんですが、実は私のスキルには少し欠陥がありまして……」
「欠点?」
「作った収納ボックスは、私以外使えないんです。それにあまり容量も入らないみたいで……それがすぐにバレて役立たずと認定されてしまいました」
「それで追い出されたと? でも、それにしては追いかけられていたような?」
セシノを探していた冒険者はあのとき10人ぐらいはいた。だからこのダンジョンに来ている全員で探しているように思えたのだ。
それはつまり、セシノは逃げ出して来たということに違いない。
「はい、ここからが今の話なんですが……キングは仲間の大事にしている高価なマジックアイテムを、私が盗んだ事にして罪を擦りつけようとしてきたのです。それで私は仲間達から追われてしまって……」
「そのズーロウとかいうキングの野郎、滅茶苦茶ドクズじゃないか!!」
「あの、バンさんは私の話信じてくれるんですか……?」
「それはそうだろう? 俺はセシノしか知らないんだし……って、何で泣くの!?」
突然セシノの瞳から、大粒の涙が溢れ始めた。
なんだろう、今まで緊張状態だったのが解けたのだろうか?
「す、すみません……仲間に言っても、だれも私のこと……信じてくれなくて……ぐずっ……」
「ああ、成る程な……。でも、それなら安心してくれ。こんな真面目そうなセシノが、嘘を言っているなんて俺は1ミリも思わないからさ」
「うぅっ、ありがとうございます……!」
きっと今までの苦労を思い出して、いっぺんに何かが出てしまったのだろう。
俺だって、置き去りにされた半年ぐらいは半べそだったんだ。
それに、こんな若い女の子がずっと苦しみ続けないといけないなんて、やっぱおかしいよな。
「よし、ここは俺にまかせとけ!」
「へ?」
「いや、俺達にな!」
その声と共に扉がバタンと開く。
そこには既に準備万端な、2足歩行型のフォグと、マリーそしてフラフが立っていた。
その姿に驚いたセシノは、ベッドの上でピョンっと軽く飛び跳ねる。
「ひっ! モンスター!?」
「大丈夫だ、こいつらは俺の仲間だからな……まあ紹介は今度してやるさ」
「は、はぁ……」
「それじゃあ、これからセシノを今まで苦しめていた男を俺達でギャフンっと言わせてやるからな!」
俺には今まであの女に復讐するために考えた、百近い作戦がこの頭には入っている。
俺の復讐ではないが試すにはいい機会かもしれないと、拳をギュッと握りしめたのだった。
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