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第一章 宿屋をやると決意する俺
16、モンスター牧場
しおりを挟む「じゃあ、最後は川エリアだな」
後は川エリアの向こう側に行けば、このダンジョン観光は終了する。
セシノの良い気分転換になっていればいいんだけどな……。
「あの、川エリアは本当に川しか流れてないから何も無いって聞いたんですけど……」
「それはわざとなんだ」
「わざと?」
「あの川を越えた向こうには、モンスター牧場がある。そこに誰も辿り着けないようにするため、あの川には何もないんだ」
「そ、そんな理由が……」
この『カルテットリバーサイド』を最初に作ったのが誰なのかは知らないが、ちゃんと考えて作られているところに職人らしさを感じてしまう。
本物のダンジョンマスターってどんな人なんだろうと、何度も考えたし調べたけど俺にはよくわからなかったからな。
「というわけで、マリーとすぐに連絡を取るから少し待ってろ」
俺は意識を集中させて、マリーとの回線を繋ぐ。
『マリー、聞こえるか?』
『ん、マスターか。なんじゃ?』
『今からセシノを連れて牧場に向かおうと思うんだけど、大丈夫そうか?』
『そうじゃな。今は皆、食後でおねむタイムじゃから多分大丈夫じゃ。それとワシが直接迎えに行くから、いつもと同じ川の向こうで待っているんじゃぞ!』
『わかった。それならすぐ向かう!』
通信を切った俺は、フォグとセシノの顔を見て頷いた。
「向こうは大丈夫だそうだ。すぐに川の前に向かうぞ。アーゴはどうする?」
「オレ、ヤルコトアル。アサッテ、マスター、トコロ、イク」
「わかった。明後日は家に来るんだな、じゃあそのときはセシノの事頼むぜ」
アーゴは頭を縦に動かすと、後ろを向いて来た道を戻っていく。それを見送って俺たちもすぐに移動することにした。
そして今、マリーとの待ち合わせ場所である川の前にようやく辿り着いたのだが……。
「遅いのじゃ!!」
何故か第一声からマリーに怒られていた。
「いや、無茶を言うなよ。山エリアからここまで結構距離が離れてるんだぞ?」
「ならもう少し後に連絡をするのじゃ! ワシは一瞬でここまでこれるのじゃからな」
「それは悪かったけど……」
「まあ、よい。今からワシらは牧場に入るわけじゃが、セシノは普通に行けば襲われかねんのじゃ」
「え?」
「じゃから、これを首からぶら下げておくのじゃぞ」
そう言ってマリーは、セシノの首に不細工な狼型の木彫りがついた首飾りをぶら下げた。
その木彫りを見たフォグが、微妙な顔をしながら言う。
「なんだかその狼に悪意をかんじるんだぜ?」
「もとからこういうアイテムじゃから、気にしたらいかんのじゃ」
「そんなもんか……?」
「そんなもんじゃ。セシノよ、それは認識阻害のついたアイテムでモンスターにのみ効果があるのじゃ。だから絶対に落とすでないのじゃぞ?」
セシノは最初ポカンと二人のやりとりを見ていたけど、マリーにその首飾りの効果を聞くと嬉しそうに笑ったのだ。
「マリーさん、ありがとうございます!」
「べ、別に小娘のためではない。このまま行ってセシノに何かあればマスターが悲しむから、ただそれだけじゃ!」
少し照れながら言うマリーを見て、皆良い子だなぁと俺は癒されてしまう。
「マスター、その変な顔はやめるのじゃ!」
「変な顔って、酷い!?」
確かにニヤニヤしてたけど、これは仕方がない事なんだ。だから俺が変な顔しててもおかしくない!
「とにかく、今はそんな事よりも早く牧場に向かいたいんだけど?」
「全く仕方がないマスターじゃ、それと連れて行くのはいいが二人はフォグの上から結して降りてはいかんのじゃぞ?」
俺たちが了承するのを確認したマリーは、川を飛び越えてその先へと歩き出す。
それに付き従うように、フォグもその後を歩き始めたのだった。
そして着いたその先は……。
「あれ? 今日はモンスター少ない?」
普通の牧場よりも高い柵で覆われているここは、普段なら見渡す限り沢山のモンスターで溢れかえっているはずなのに、今は目視でも五体のフラァーフがコロコロと動いているのしか確認できなかった。
「先程も言ったじゃろ、おねむタイムじゃと」
「モンスターがおねむタイム……?」
セシノがその単語に首を傾げている。
俺もそのタイミングで来た事は無いから全く想像がつかない。
「見ると結構面白いもんじゃぞ? 見せても良いが、絶対に騒いではいかんのじゃ……」
「わ、わかりました」
「特にマスター! 絶対に騒いではいかんのじゃぞ……?」
「いや、何で俺の方が心配されてるんだよ!? 別に騒がないって!」
「ワシは心配なだけじゃ……とにかく、あっちの芝生広場に向かうのじゃ」
そう言ってフォグの背に乗ったままの俺たちは、そのままマリーの後ろをついていく。
道すがらには至る所に看板と矢印があって、なんだかどこかの観光施設のようだった。
前のダンジョンマスターが、施設の位置を忘れないように建てたのかもしれない。
ここはとても広いから、道に迷ると大変そうだ。
そして次の看板には、たしかに【芝生広場は次を右】と書かれているのが読める。
「ここを曲がったら、絶景が見えるから口を閉じるのじゃぞ!」
俺たちは口を手で押さえてその角を曲がった。
「「!?」」
そこには色とりどりの様々なモンスターがまるで絨毯のように、寝ていたわけで感想は一言でいえば……。
き、気持ち悪い!!!
数が多過ぎて恐怖なんだけど、なんで皆固まって寝てるんだよ!?
確かにまだ幼生体もいて、小さくて可愛かったりするはずなのに数が多過ぎてダメだこれ!
はっ、せ、セシノ! セシノはこんなの見て大丈夫なのか!?
そう思ってセシノを見るとーーー。
白目をむいて完全に気絶していた。
「せ、セシノ!!?」
そして、俺は大声でその名前を呼んでしまったのだ。
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