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第一章 宿屋をやると決意する俺
15、ダンジョン案内
しおりを挟むフォグに乗って森を駆け抜ける俺たちは、とある建物が見える場所まで来ていた。
「えっと、確かセシノのファミリーは本当はこの森エリアにある塔の攻略に来ていたんだっけ?」
ここ森エリアには『大樹の塔』という、木の根が巻き付いたような形をしている塔がある。
その周りは霧で覆われており、まず塔にたどり着くのが困難だ。
そしてこの塔は上の階に上がるほど敵が強くなりドロップするものが良くなると言う、オーソドックスなタワーマップだ。
因みに『カルテットリバーサイド』では魔物討伐依頼で一番訪れる人が多い場所でもある。
「ええ、そうなんですけど……私は入る前に逃げ出したから中までは見てないんです」
「そうだったのか。それにしても、よく霧が出てる中で湖エリアまで行けたな」
「いや、それがよくわからなくて……あの瞬間、霧は私を逃すように出ていた気がするのですけど……」
「霧がねぇ~」
俺はその一言でピンときた。
だからニヤニヤしながら、フォグの背を撫でてやる。
そしてセシノも同じ事を思ったようだった。
「もしかして、あれはフォグさんが?」
「お、俺は、し、知らないぜ!?」
「え、でも……」
エリアで問題が起きないように見張っていただろうフォグが、セシノを逃すのは当然だ。
それなのに何故か誤魔化そうとするフォグに、俺は笑うのが堪えられなくなってしまう。
「く、くくく……。せ、セシノ。今はそう言う事にしといてやってくれ」
「え……?」
「マスター! その言い方だと俺がやったみたいじゃねぇか!?」
「そんな事言ってないよな、セシノ」
「ふふっ……そうですね」
よしよし、フォグは少し不貞腐れてしまったけど、セシノを笑わせる事もできたしこの調子で行くぞ!
でもフォグの機嫌をなおすために、モフモフな背中を撫でるのは忘れないようにしないとな。
「あ、すみません。私ったら笑っちゃって……」
「いやいや、セシノはもっと笑わないとダメだって。だから楽しめるときにいっぱい楽しんでおくんだぞ?」
「バンさん……ありがとうございます」
セシノは笑顔で俺にお礼を言ってくれた。
それだけで、俺は泣きそうになる。
だってセシノの苦労を考えたら、この笑顔だけで泣けるんだぞ。
もう歳だから涙腺が緩々なのかもしれない……。
そんな俺が感激している事なんて知らないセシノは、恥ずかしそうに顔を逸らすと塔の方を見ながら言った。
「えっと、今から塔の中に入るんですか?」
「ここまで来たけどさ、中に入る事はオススメできないんだよなー」
「え?」
「実は裏技なんだけど、塔は外から一番上まで登るのがオススメなんだ」
「あの、それって人間じゃ無理なやつですよね?」
「でも上からみた『カルテットリバーサイド』は綺麗なんだって。だからまた機会があれば連れてってやるよ」
「は、はい……」
まあ、多分そんな機会は来ないと思うけど言うだけならタダだからな。
「そうだ、このダンジョンが何でカルテットって言われてるか知ってるか?」
「それは4つのエリアに別れてるからですよね?」
「それもあるけど、ほらあの塔の上を見てろ。丁度時間がくるぞ」
「え?」
俺が指をさすと、塔の天辺から何かが飛び出して来た。
それはピエロの形をしたからくり人形のようで、カタカタと動いたと思ったら横笛を手にして曲を奏で始めたのだった。
「カルテットリバーサイドには大体の時間がわかるように朝と昼、夕方に夜って感じでそれぞれのエリアからあんな風に曲が聞こえてくるんだ。今は昼を知らせる曲だな」
「すごく綺麗な音色ですね……私、今回初めて来たので知りませんでした」
「でもこれだけじゃないんだ。カルテットと言うからにはその4エリアが同時に音を奏でるときがある。それは年に二回しか鳴らないし、そのタイミングが俺にもよくわかってないんだよな~」
それは毎年曜日も時間帯もバラバラで、一体何を教えようとしてくれているのか全くわからない。
もしかしたら本当のダンジョンマスターなら、知ってるのかもしれないけど……。
「よし! このエリアの説明も終わったし、次のエリアに行くか?」
「次は山ですか?」
「ここから近いしそうなるかなぁ。あそこにはデカイのがいるからビビるんじゃないぞ?」
「……で、デカイの……?」
「じゃあフォグ、山エリアに出発!」
そして俺たちは次に山エリアへと来ていた。
山エリアといえば俺が倒れた場所なんだけど、この山エリアは奥に行くと鉱山になっていて、採掘に来る冒険者も多いのだがそこはモンスターも強くなっている。
「ここの目玉は、あの火山にいる赤竜だな」
「せ、赤竜!? 本当にいるんですか……?」
「ああ、いるぞ。マイペースなせいで俺は会ったことないけどな」
そのせいで幻の赤竜とか言われてるのは笑っちゃうけどな。
そんな事を考えていたら、鉱山方面から一際大きな巨体が見えてきていた。
ズシンズシンと聞こえてきたことで、セシノが不安そうに俺の服を掴んだ。
「ば、バンさん……あ、あれ、あれは……?」
「さっきも言っただろ、デカイのがいるって」
「おい、アーゴ!! お前またデカイまま移動してんじゃねぇぜ!」
現れた巨大に真っ先に怒ったのはフォグだった。
するとアーゴと呼ばれたアーマーゴーレムは、頭をさするとそのサイズを縮ませた。
そんなわけでアーゴはサイズ変更が可能である。
しかし何故フォグが怒ったかといえば、フォグはアーゴのせいで俺がここに置いてかれたことに腹を立ててくれた一体なのだ。
そして同じような事がおこらないように、サイズには気をつけろといつも文句を言っている。
俺は気にしていないのに、フォグは本当にいいやつだよな。
「気を抜くと、すぐ元のサイズに戻るんだから困ったやつだぜ」
「まあまあ、今は誰もいないんだからいいよ。アーゴ、今日はこの子を紹介しにきたんだ」
「ショウカイ……? マスターノ、カノジョ??」
「そんなわけないだろ!! 俺が手を出したら犯罪だよ!?」
少し首を傾げるアーゴは、よくわかっていなさそうに無機質な瞳でセシノを見つめた。
当のセシノはアーゴに驚いたままなせいで、何を言われたのか気がついていないようだった。
「おいアーゴ、今のはナイスボケだったぜ!!」
「フォグ、オレ、ボケ、キマッタ?」
「ああ、バッチリだったぜ!」
そんなフォグとアーゴのやり取りに俺はため息をついてしまう。
「はぁ、全くお前らは俺をからかって遊ぶなよ。それにアーゴは絶対よくわかってないだろ。とにかくこいつはセシノ、多分数日間はここにいる予定だから、こいつがモンスターに襲われないように見ててくれよ」
「せ、セシノです! よろしくお願いします」
「オレ、アーマーゴーレム。アーゴ、ヨロシク」
アーゴが手を出すと、その手を恐る恐るセシノは掴んだ。
その姿に俺はセシノ頑張った! と、泣きそうになり完全に気分は親である。
「アーゴは山エリアのリーダーなんだ。何かあったら名前を呼べば来てくれるからな」
「わ、わかりました」
「よし、この調子で他のエリアも……と、思ったけど湖エリアは飛ばそう」
またディーネに会うわけにはいかないからな。
「湖エリアを担当してるのは誰なんですか? マリーさんとか……?」
「あそこは、フラフだよ」
「え、フラフちゃん!?」
「驚くのはわかるけど、あいつはアレでもちゃんと管理はしてるから文句は言えないんだ」
それにモフモフで可愛いから全部許しちゃうんだよなぁ……。
いや、モフモフに罪はないから!
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