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第一章 宿屋をやると決意する俺

12、湖の主

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 水の跳ねる音が聞こえた俺は、そっと後ろを振り返っていた。
 間違いなく俺の目には、青い鱗が光を浴びてキラキラと反射しているのが見える。

「あー、やべぇぞフォグ。女帝が起きた……」
「マスター、とりあえず距離を取るぜ!!」
「え? あの、え??」
「セシノ、心配するな。俺の防御結界は例えどんな魔法だろうが壊せないから」

 そう言いながら俺はプロテクト・ゾーンを自分周辺に展開、そしてついでに冒険者達にはお帰り頂けるように出口までの道を広めに確保して結界を張ってやった。
 そして湖の上空にはディーネの姿が完全に見えており、冒険者に向けてまだ何か叫んでいる。

『貴様ら、妾から逃げられると思うでないぞ!!』 

 声とともにディーネの近くを浮遊する水が、放射線状に弾け宙を飛び交う。
 その威力は一発一発が殺人級なのだけど、今は俺のプロテクト・ゾーンに阻まれて、その弾丸はただの水飛沫のように木々に降り注ぐだけになっていた。
 きっとこの恐怖は、クソな冒険者達にはいいお灸になってくれるだろうし、まあいいか……。
 後はあのズーロウがファミリーに帰った後、どういう結末を辿るのかは俺が知る必要もないしな。
 そう思っている間に、冒険者たちは全員転移ゲートへと逃げ帰ったようだった。
 因みに、ダンジョンにある転移ゲートは全て冒険者ギルドに繋がっている。
 きっとそこから慌てふためいて飛び出してくるアイツらは滑稽なんだろうな……。


 よし、こうして俺のダンジョン『カルテットリバーサイド』の平和は保たれたのだった。


『あぁあ、もう!!! 妾が破れないなんて、なんだというのこの防御結界は!?』

 いや、まだ平和は保たれてなんていなかった。
 そう思いながら、俺はだいぶ距離を離したはずの湖の方を見て驚いた。
 何故だろう、今の俺たちはフォグのせいで姿を隠している。そのはずなのに、先程からどう見てもディーネはこちらを見ている気がする。

『妾はわかっているのだぞ、この結界はマスターのものであろう?? だから早く姿を現すのであるぞ!! さすれば寛容な妾も許してやらん事もないわ』
「そう言ってるけど、どうするマスター?」
「あー、わかった。仕方がないから姿を晒していいぞ」
『やはりそこか!!!』

 その叫び声とともに、俺の目前に飛んできた水が結界で弾け飛んだのが見えた。

「ひぃぃぃ!! めっちゃ殺意ある攻撃してきてるじゃん!?」

 驚きのあまり珍しく俺の結界が解けてしまった。
 その事に焦った俺はすぐに新しい結界を張ろうとしたのに、ビチャっと服が濡れた感覚があってそっちを見てしまう。

「マスターはどうせこんな攻撃ではくたばらぬからな!! それにこれでも妾はマスターに会いたかったのであるぞ!」
「うわっ! めっちゃ近い!!?」

 さっきまでまだ湖に居たはずなのに、気がつけばディーネは俺の前……いや俺に抱きついていた。
 しかも普通に喋ってるし……。
 そんな俺たちを見たせいか、セシノが困惑した声を上げた。

「えっと、これは一体……?」
「マスターは、昔ディーネの攻撃を全部防いじまった事があってな、それからディーネにしつこいぐらい好かれてるんだぜ」
「そうであるのに、何故妾に会いに来てくれないのだ? 今回の事も事前に言ってくれれば、妾もあの冒険者達をゴミのように懲らしめられたというのに」
「いや、ディーネにお願いしたら皆死ぬから!? って、ディーネ! 俺を湖の方に連れて行こうとしないでくれ~~!!?」

 喋ってる最中なのに、ディーネは俺の服を掴むと湖へと一瞬で移動した。転移じゃなくて高速移動なので、下手したら俺は死ぬのだけど……?
 しかもフォグとセシノを置いてきてしまった。
 多分フォグがセシノごとこっちまで連れて来てくれるとは思うけど、少し心配だ。

「マスター、今日から妾と一緒に暮らすのであるぞ?」
「まてまて、俺が溺れ死ぬから!」

 そう叫んでいるのに、話を聞いてくれないディーネは俺を湖へと引き摺り込もうとしてくる。
 このままだと本当に死ぬ! と死を覚悟したとき、ディーネを止める声がかかった。

「いやディーネ、それはダメなのじゃ」
「って、マリー!?」

 湖に戻ってきた俺とディーネの前には、マリーが立っていた。
 マリーの周りには沢山のアイテムが落ちてるので、どうやら湖に放置されたアイテムを回収していたようだ。

「ま、マリー何故邪魔をする……妾はマスターと一緒にいたいだけなのであるぞ?」
「ディーネ、前にも言ったのじゃがマスターは水の中では生活できぬのじゃ、だから今は諦めるしかないのじゃよ」
「た、確かにそうかもしれぬのだ……妾とした事が、会えた喜びで忘れておったのであるぞ!」

 そう言って、ディーネは俺の服から手を離してくれた。
 その事にホッとしつつ、ここにマリーがいてくれて良かったと俺は本気でマリーに感謝した。
 ディーネはマリーに育てられたというか、このダンジョン全てのモンスターは殆どマリーによって育成されているため、マリーの言う事は逆らえないモンスターが多い。

「マリー、ありがとう」
「ふん、別にマスターのためではないのじゃ、だから勘違いはやめるのじゃよ!」
「はいはい、わかったよ」

 やはり、俺のモンスター達は皆可愛いな!
 そう思いながらマリーの頭を撫でる。
 ああ、流石スライム最高のプニプニだ……。
 そんな幸せを噛み締めてる俺を無視して、マリーは少し機嫌が悪くなってしまったディーネを慰めるように話始めた。

「デイーネや、マスターの件は一旦置いといて……とにかく今回はこのアホマスターのせいで迷惑をかけたのじゃ」
「いや、あのアホって……」
「マスターは黙っておれ。お詫びといってなんじゃが、ここにあるアイテム好きなのを好きなだけ持っていってもいいのじゃぞ??」

 まてまて、ここにあるアイテムは全部あの冒険者たちの物だぞ!?
 我が物のように言うのはおかしくないか……。
 そう思ってたら、マリーが小声で俺に話しかけてきた。

「落とした物を拾ったのじゃから、ワシの物であっておる」
「また、俺の心を読んだだろ!?」
「別に減る物でもないし、いいじゃろ?」

 そうかもしれないけど!?
 なんて思っている間にディーネは選び終えたのか、幾つかアイテムを手に取ってこちらを見た。

「妾はこの五つを貰っていくのであるぞ!」

 嬉しそうにアイテムを手に持ったまま、ディーネは湖へと戻っていった。
 最後に、

「次会うときまでに、水中で暮らせるように準備しておくのであるぞ!」

 と、言っていたのが怖かったので当分会わないように湖は避ける事にしよう。
 ようやく一息ついた俺は、湖をまだ見つめつづけるマリーに声をかけた。

「マリー、どうした?」
「あやつめ、五つも持っていくとは欲張りじゃな」
「え? そこ気にするところなのか??」
「いや、それは別によいのじゃ。それよりも拾ったアイテムの中に、セシノが盗んだとされていたマジックアイテムがないのじゃ」
「……ってことは、逃げながらもそれだけは持って行ったってこと?」
「みたいじゃな、しかしあれは……」

 マリーはあのアイテムに思い当たる所があるのか、また考察を初めてしまった。
 それにしてもさっきの冒険者、自分よりもそのアイテムの方が大事ってぐらいキレてたからな……。
 そう呆れていると、ようやくフォグたちが追いついてきたのが遠くから見えてきたのだった。
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