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29、方針を決める僕③
しおりを挟む死因に固まっていた僕はすぐ我に帰ると、その事実を確認する為にクロテッド様を見た。
「それってつまり、僕は心臓を貫かれて即死したって事ですか?」
「いえ、そのあと何度も刺されていたので……」
何それ完全にスプラッタじゃん……。
自分の死因なのに、全く覚えてないというより、思い出したくないのかもしれない。
「それで、なんで僕はクロテッド様の代わりに殺されたの?」
「その話には続きがありまして、犯人は貴方を刺した後少し落ち着いたのかふと横を見て、私に気がつくと言ったのです。クララちゃんだと思ったら間違えたと、そして僕を弄んだクララちゃんが悪いから罪はしっかり償ってもらうと、そして恐怖で動けない私も貴方と同じように刺されました。それも私の場合は、すぐに死ねないようにと嫌がる私に無理矢理……」
「いや、それ以上は思い出さなくていいですよ!」
想像以上に酷い死に方だったのだろう、クロテッド様はとても顔を真っ青にして震えていた。
僕はクロテッド様の冷たくなった手を温めるように握りながら言う。
「僕が間違えて刺されたのだとしても、悪いのはその男であってクロテッド様ではありませんよ。しかも特に面識のある男ではなかったのですよね?」
「ええ、多分私のSNSをフォローしていた人だと思います。顔はしっかり見ましたが全く見た事も、会ったこともない方でした」
きっと勝手に惚れ込んだくせに、勝手に絶望して衝動で行動したヤンデレ糞野郎だったのだろう。
「死に方はあれですが、僕はずっと不思議だった自分の死因がようやくわかってよかったです」
しかし、女装した男に恨みを持ち殺害。とかいうニュースで僕の名前を上げられてしまった可能性があるのだろうか……そう考えると恐ろしい。
犯人にはちゃんとした罰が降り注いでますようにと、祈っておこう。
「そしてもう一つあるのです」
「もう一つ?」
「あのとき私は死に際に祈ったのです。来世こそ女の子になりたいと、もしくは女装しても許される世界に行きたいと……そしてそれは沢山の光によって叶えられました。女性にはなれませんでしたが、生まれた瞬間に女性として生きる事を強要される王子として、女装を肯定される世界へと来る事ができたのです」
「クロテッドさまが祈ったから、この世界に来た……という事は僕は……?」
「フラムは私に巻き込まれてこの世界に来たのだと思います。死んだ原因も、この世界に転生した原因も全て私のせいなのかもしれません……」
確かにそう考えれば、このスキル自体もクロテッド様に影響されて僕へと宿った可能性がある。
だけどおとこの娘として悟りを開いた今の僕には、それで僕が不幸だなんて思えなかった。
「そんなに気にしないで下さい。僕はクロテッド様のおかげでこの世界を満喫していますから」
「本当ですか……? でもそう言ってもらえると少しは救われた気分です、ありがとうございます」
「いえいえ、それでクロテッド様の気が楽になるのでしたら、いくらでも言ってさしあげますよ?」
ニコリと言う僕を見て、クロテッド様はチラリと少し言いづらそうに話し始めたのだ。
「それでしたら……こんな私の話ですが後一つだけ聞いてもらえますか?」
「もちろんです!」
「私には、その男のせいなのか男嫌いという副作用が今もついたままなのです。男性に触ると蕁麻疹がでてしまって……」
「……じゃあ、僕は大丈夫なのですか?」
「『おとこの娘』は男じゃありませんから!」
「そ、そうですよね……」
おとこの娘は、おとこの娘という性別なのだ。
そこはタブーという事にしておこう。
「それでお願いがあるのです」
「お願い?」
「私のために『おとこの娘』を増やしてくださいませんか?」
「あの『おとこの娘コレクション』の事を言ってるのですか?」
「そうです! 流石に女性しかいない世界なんてありませんから、少しでも私が過ごしやすい世界を作るのを手伝って欲しいのです……」
そう言われても、おとこの娘を増やすには沢山の男性が必要なわけで……沢山の男性?
そういえば近々集団でやってくるような……。
そして僕は、恐ろしい方法を閃いたのだった。
「そうだ、これですよ! 戦争を早く終わらせて、しかもその願いを叶える方法があるじゃないですか!」
「えっと、何か閃いたのですか?」
「ええ、そうですね。でもそれは今後のお楽しみという事にしておいてください」
「そんな事言われたら、私は楽しみで眠れなくなりそうです」
ずっと、どうやって戦争を簡単に終わらせるかを考えていた。
ある程度方針は決まっていたのだけど、後一歩決め手に欠けていたのだ。
それがクロテッド様のおかげで、アッサリと解決してしまった。
「クロテッド様のおかげで、良い案が浮かびましたよ。本当にありがとうございます」
「いえいえ、少しでも役に立ったのなら今日の話をしてよかったです……」
「そんな暗い顔しないでください、僕はクロテッド様のおかげでこの世界に来る事ができて、ショコラ様やリノーとも会えたのですから。だから前世のことよりも今世を目一杯楽しんで今度こそ幸せになりましょう!」
「ええ、そうですね……!」
「明日からの幸せのために僕の力を強化しないといけまさんから、今日もしっかりショッピングを楽しみましょう!」
そして喫茶店を出てすぐに、クロテッド様は何故かモジモジしながら言ったのだ。
「あの……憧れのルンきゅんさんと手を繋いで歩いてもいいですか?」
「手を繋いでもいいから、そのニックネームで呼ぶのやめてくれる!?」
その後、僕たちは仲良く手を繋ぎながら楽しく買い物をしたのだった。
そして宿屋に帰って来た僕は、リノーとショコラ様の体調を確認してから、ベットでマッタリしていた。そのときにふと思ったのだ。
そういえば出会った当初からお二人は『おとこの娘』という単語を知っていた。その理由が、クロテッド様が転生者だったからなんじゃないか?……なんでこの事にもっと早く気が付かなかったのだろうかと、僕は頭を抱えたのだった。
そしてついに、決戦の日は明後日と迫っていた。
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