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28、方針を決める僕②
しおりを挟むついに国境の町までやってきた僕たちは、相変わらずショッピングをしていた。
近々戦争が始まると言うのに、町は全くその姿を変える事は無さそうだった。
それは僕の事を信用しているからではない。きっとタルト王国ではこの要塞を超える事は出来ないと思っているのだろう。
だってこの町はタルト王国で見た国境の町に比べて明らかに防御力が違う。きっと本当に今の腐ったタルト王国ではこの要塞を超えられないと思えてしまうのだ。
そして今の僕といえばここに来るまでの間に、スキルの上昇率は100倍を超えていた。
だけどそんな事を気にせず、ただショッピングを楽しんでいる僕の横には今、何故かクロテッド様しかいなかった。
一緒に来ているはずのショコラ様とリノーは、国を出てからというもの今まで休みなしでここまでついてきてくれたからなのか、流石に体力がもたなかったようだ。王都から国境まで蜻蛉返りは流石に大変だから仕方がないだろう。
でもそこは男女の差というよりは、スキルの差と言った方がいいかもしれない。
どうやらクロテッド様のスキルもステータスUPがついているらしいからね。
そう思いつつ、僕はこの町の地図を見て次に行きたいお店を指差してクロテッド様に言った。
「次はあそこを見に行きませんか?」
「あの、フラム……楽しんでいる所すみませんが、このあと行きたい喫茶店があるので、一緒にお茶でもしませんか?」
「もしかして、歩きっぱなしで少し疲れました?」
「いえ、そういう訳ではないのです。ただ単にその喫茶店に私が行きたいということもありますが、貴方に戦争が始まる前に少し確認しておきたい事がありまして……」
深刻そうに言うその姿が気になってしまった僕は、お茶をするのを承諾したのだった。
そしてクロテッド様につれられ、喫茶店に入った僕は何処か既視感を感じながらクロテッド様の前に座っていた。
なんだ……この喫茶店。前世の有名な某コーヒーショップみたいなレイアウトに見える、というかまんまじゃないか?
少し不思議そうに周りを見回す僕を見て、クロテッド様がニコリと言った。
「実はここ、私が経営している喫茶店なんです」
「え、クロテッド様が……ここを?」
「はい、ここは私が前世で愛用していたお店を真似て作ったんです」
今、クロテッド様はサラッと前世って言わなかっただろうか……?
「私、その店がないと生きていけない程好きで好きで仕方がなくて、この世界に生まれてからずっとそこのコーヒーを生み出すのに全てを捧げていたんです」
「いや、待ってください。コーヒーの話も大事ですけど、その前に前世って……」
「ええ、私は異世界から転生してこの地に生まれてきたのです。貴方と同じように……」
その言葉に、僕は驚きのあまり目を見開いていた。
「な、なんで僕が転生者だって……」
「この前、私にある衣装を着せてくださりましたよね? あれは私が前世で見ていたアニメ、魔女っ子ルンルンの相方であるランランの衣装でした。あの衣装が何故この世界にあるのかわかりませんが、その衣装を持っている事こそ貴方が転生者だという事を決定付けていると、私は思ったのです」
「という事は、クロテッド様は同じ世界からの転生者……?」
クロテッド様を見つめると、その顔が少し歪んだのだ。
僕は何か変な事を言ったのだろうか?
「いえ、同じ世界どころではありません。私の予想が当たっているのなら、貴方は私に巻き込まれて一緒に死んでしまった可能性があるのです」
「嘘でしょ、僕が巻き込まれて死んだ? 一体何に……でも僕の記憶では、運悪く何かが僕に当たったせいで打ちどころが悪くて即死した、事故死だと思っていたのだけど……?」
前世の最後を思い出しても誰かが「危ない!」と叫んだ声とともに突然記憶が途絶えていたから、何かが頭にでもぶつかったのだと思っていたけど、違ったのだろうか……。
「残念ながら、貴方の死因はそうではありません。覚えていませんか? あの日、私と貴方はイベントに出ていたのです。それもルンルンとランランで衣装合わせをしていたのですけど……私の事、分かりますか?」
確かに僕が亡くなったあの日、僕はイベント来てていた。そしてその横には僕と同じおとこの娘レイヤーさんが可愛いらしく立っていたのは覚えている。
「って、ことはクロテッドさんがあのとき僕の横にいたクララさんです?」
「そうです。そして貴方はルンきゅんさんですね」
「ちょ、ちょっと待って! そのニックネームで呼ばないで……」
名前が黒歴史過ぎて忘れてたのに、僕はその名前を呼ばれた瞬間に思い出してしまい死にそうになっていた。
自分でルンきゅんです! とか名乗ってた自分よ滅せよ!!
「何故ですか? 当時もとても可愛いくて、名前とあっていると思ってたんですけど……」
「自分にきゅんっとかつけるのはありえないですから、それにそのニックネームの事はどうでもいいので話を戻して下さい」
「でもルンきゅんさんは、おとこの娘仲間の間では憧れにする人は多かったのですよ? 私もその一人でした。そしてイベントは憧れの人と一緒に、それもおとこの娘代表としてメインステージに上がれると言う栄誉まで頂いて、その日の私はとても浮かれていました」
その大規模イベントに僕は手伝って欲しいと知人に呼ばれて行ったけど、でもメインステージに上がった記憶はないような……?
「そして事件が起きたのはメインステージに向かうための裏口を歩いていたときでした。そこはとても人通りが少なくて、わざわざそこを狙ったのだと今なら思ってしまうのです」
「何が、起きたのですか?」
「それは….…私たちめがけて、突然後ろから男の人が走ってきたのです。私はこのままだと貴方にぶつかると思って「危ない!」っと叫びました。しかし横を見た時には、貴方の胸からすでに刃物が飛び出ていたのです」
「……え?」
もしかして僕、刺されて死んだの?
その衝撃的な事実を受け止めるのに、僕は数秒固まってしまったのだった。
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