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18、糞王子と決闘する僕②

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 女装姿でニヤリと笑う僕を見て、シュクル殿下の顔が青ざめるのがわかった。

「そ、その姿はリノー? でも、リノーはあそこに……」

 シュクル殿下は動揺しながら観客を見回していた。僕からもショコラ様の横にリノーがチョコンと座っているのがよく見える。
 そして殿下は何度も僕とリノーを見返していた。

「そ、そんな……何故リノーが二人!?」
「そんなの僕がリノーじゃなくてフラムだからですよ、シュクル殿下? ほら、よーく見て下さいね」

 僕は少し糞王子に近づくと、可愛い女子しか許されないポーズを取っていた。
 両手はグーにして口元に、そして極め付けの上目遣いを決めてやるさ。
 見ているやつら全員、僕の可愛さにひれ伏せ!
 完全に黒歴史を吹っ切った僕は、可愛さの新境地へと至ろうとしていた。

【新境地達成により、新しい機能が追加されました】

 新しい機能? 凄く気になるけど今試している時間は無さそうだ。
 そう思っていたら、僕の可愛い姿に今も混乱していたシュクル殿下が、突然乾いた笑いをし始めたのだ。

「……は、ははは? お前がフラムだと……そんな馬鹿な。いや、こんなのは夢に決まってる……それなのに何故だ! 二人を見比べるとお前の方が俺の求めていた相手だと、心がそう言っている。……もしかして、だからあのときリノーに会っても全くときめかなかったのか?」

 どうやら決闘を申し込んだとき、僕の横にいた本物のリノーへの違和感を思い出したのか、混乱しながらも自分の何かを正当化させようと必死のようだった。
 一度女装を解除しているから、魅了はすでに解けている。それでも記憶には、どうやら僕の女装姿が好きだったとしっかり心に刻まれているみたいだ。

「それはそうでしょうね。確かにシュクル殿下の婚約者のフリをしていたのは僕ですからね?」
「な、なんだと……」

 そして僕は女装してから殿下にずっと言ってやりたかった事を、ついに口にした。

「ふふ、男である僕に惚れてた気分はどうですか?? シュクル殿下は馬鹿みたいで惨めでとても滑稽でしたよ?」
「なっ……」

 その顔は真っ白になり、僕を見つめながら「嘘だ嘘だ嘘だ」と呟いていた。
 かなり精神的ダメージを与えられたので僕としては面白くて仕方がない。

「さあ、シュクル殿下。僕と真剣で戦いましょう。僕は聖剣を使いますけどシュクル殿下は何で戦うのですか?」
「せ、聖剣だと!?」
「ええ、ショコラ様に貸して頂いたので……、何か問題がありましたか?」

 僕はニコリと微笑みかける。

「せ、聖剣は俺の物だ!! だからお前みたいなのが使っていいわけが……」
「この聖剣は、可愛い人にしか力を貸して下さりませんよ? 殿下が僕みたいに女装すればもしかすると少しはチャンスがあるかもしれませんけど……ふふふ」

 糞王子の似合わない女装姿を想像して、僕はクスクスと笑ってしまう。
 そして聖剣を持ち不気味に笑いながら歩いてくる僕に恐怖しているのか、シュクル殿下の顔はひどく歪んでいた。
 この綺麗な顔が歪み崩れるところを僕は見たかったので、満面の笑顔になってしまう。
 
「さあ、早く始まりの合図をお願いしますよ殿下……?」
「くるな……」
「はい?」
「俺に近づくな!!」

 そう叫んだシュクル殿下はまだ開始の合図もされていないのに、僕に向けて魔法を放ったのだ。
 動揺のため、狙いの定まらない閃光が僕の横を通過していく。
 糞王子の属性は光だったかと、それを呑気に見ていた。これは互いに相性が悪い……。
 でもよく考えたら僕にはカウンター付きのドレスがあるのでなんの意味もないなと思い、そのまま直進する事にした。

「先にシュクル殿下が仕掛けたのですから、開始という事でいいのですよね?」

 僕は糞王子目掛けて走り出すと、聖剣にお願いした。
 聖剣さん、今だけチカラを貸してください!!

『よきよき、思った倍以上の可愛さでワシは満足じゃ!! 可愛い子には聖剣パワーを分けてあげるのじゃよ~』

 その瞬間、聖剣がキラリと光りそのサイズは元の2倍になっていた。多分見た目も変わった気がするけど、今の僕にそれを見ている暇はない。
 そして僕はドレスを翻して飛び上がり、その聖剣を糞王子の真横に振るった。

「よいしょっと!!」

 その威力は50倍プラス聖剣パワーで風圧だけで人が死ぬ可能性があった。
 だからあえて狙いを外したのだ。
 しかし軽く振るったそれは、次の瞬間爆発するように地面を抉った。

「た、助けっ! うびぁあぁぁあぁ!!! 」

 糞王子が情けない叫び声を上げようだけど、爆発音でかき消されてよく聞こえない。
 しかもその一撃によって砂埃が舞い上がり視界が悪くなってしまう。
 しかしシュクル殿下の心は完全に折れていないのか、僕に向けて光弾を打ってきたのだ。しかし当たったところで、カウンターが発動しシュクル殿下へと返っていくだけだった。

「くっ、何故魔法が跳ね返って……!?」

 混乱しているシュクル殿下の攻撃を何度か跳ね返した頃、ようやく煙が晴れてきた。

「な、なんだこれは!!?」

 シュクル殿下の叫び声とともに、観衆もザワザワと騒ぎ出す。
 僕が放った一撃は地面を深く抉り、出入り口付近までその線は伸びていた。
 その大きく空いた穴を見て、誰もが驚きに声をあげていたのだ。
 だけど僕はそんな事気にせず、もう一度聖剣を振り上げた。

「軽く一振りでこれなら、シュクル殿下に当たったら死んじゃいますよね?」
「ひぃっ!?」
「じゃあ、もう数振り行きますから頑張って避けて下さいね?」
「ま、まてまて、降参、降参するから……」
「僕、耳が悪くなったのかよく聞こえませんでした。それじゃあ、いきますね。そーれっ!」

 今度は、先程と反対隣に穴を開ける。
 そして次にその後ろを……。
 そんな事をしている間に、気づけば殿下は途中からもう逃げる気力も無くなってしまったのか、座り込んでしまった。圧倒的な実力差に、もう抵抗する気力さえないのだろう。
 これなら、もう終わらせてもいいか。

「シュクル殿下、攻撃してこなくていいのですか?」
「……ああ。もう、降参だ」

 そう言うシュクル殿下の周りは全て穴が空いてしまい、まるで孤島のようだった。
 僕はそんな身動きの出来ない糞王子の前に軽くジャンプして降り立つと、ニッコリと笑い服から例の書類を取り出した。

「殿下、これは一体なんでしょうね?」

 その見出しには『シュクル殿下による予算横領についての件』と、よく見える大きな文字で書かれていた。
 それを見て顔を真っ青にさせた糞王子に、僕は内心笑いが止まらないのだった。
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