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11、婚約者として侵入する僕①
しおりを挟む王子とリノーの婚約が決まって5日が経っていた。
僕は相変わらず、スキル女装が解除出来ないままリノーとして生活を続けていた。
当のリノーといえば、最近は何故か部屋の片付けをしているため更に部屋から出てこなくなっていた。このままでは、リノーを連れて国を出るのは難しいかもしれない……。
そんな事を考えながら、僕はお城に向かうための馬車を待っていた。
今日はついにガーデンパーティーの日なのだ。
僕はショコラ様にお借りした、真っ黒なファンシードレスを身につけていた。
シュクル殿下は20人もの婚約者がいるため、流石に僕だけを迎えに来ることはできないはずなので、ショコラ様とはお城に着いたら一度合流する手筈になっている。
しかしどのタイミングで糞王子の邪魔が入るかわからないため、僕は少しドキドキしながら到着した馬車へと乗り込もうとした。
「リノー様、お迎えに上がりました。本日貴方の護衛をさせて頂きます。ヨコラです」
「……え?」
そう言って王宮の騎士服を纏って現れたのは、どう見てもショコラ様の男装姿で。腰には聖剣がギラリと光っているのが見えた。
「さあ、早く馬車へ」
「は、はい」
エスコートするために差し出されたショコラ様の手を取って、僕は馬車の中に入ったのだった。
動き出した馬車の中、ガタゴトと音が大きくなり御者まで声が届かなくなったところで、僕は横に座るショコラ様へと声をかけていた。
「まさか、その姿で迎えに来るとは思っていませんでしたよ」
「ふふ、驚いただろう? 実はこの姿を兄上には見せた事がないんだ。だから勿論兄上は聖剣も見た事ないはずなんだよ。そのおかげで騎士団へと簡単に潜り込めているわけさ」
「と、言うことは普段から騎士団に?」
「いや、たまにだよ。私の気晴らしがしたいときに演習に参加するだけ……っと話がそれてしまったね」
そう言うと、ショコラ様はポケットから少量の液体が入ったカプセルを取り出した。
「時間はあまりないから簡潔に伝えるよ。このカプセルに入っているのは毒だよ」
「これが、毒……」
「飲んでも一度では死なないだろうが、銀にしっかり反応してくれるちゃんとした毒だ」
「つまり、シュクル殿下が間違えてそのまま飲んだとしても簡単には死なないという事ですね?」
「ああ、だが今回は兄上が倒れてしまうと犯人として怪しまれるのは貴方の方になる。だから必ず飲んでしまう前に、ガレットを犯人へと仕立て上げなくてはならないよ?」
僕はそのカプセルを受け取ると、ドレスの袖に入れておく。
これは絶対に落とさないようにだけ気をつけないといけない。
「わかりました」
「それと、念のために銀のスプーンも用意させてもらった。事前の情報でガーデンパーティーには銀食器は使われない事は確認している。だからスプーンも違う可能性はあるからね」
「誰にも気付かれないように銀スプーンを、殿下のスプーンと入れ替えればいいのですね?」
「ああ、十分気をつけてくれ。これが銀スプーンだ。ついでにこれも出しておこうかな」
ショコラ様は銀スプーンを僕に渡し、そしてもう一つ紙を取り出すと僕に見えるように広げてくれた。
「この紙にあるように、今回のガーデンパーティーは座る席が決まっているようなんだ」
「それは覚えておかないと笑われてしまいますね」
「ああ、そうだね。それで兄上の席だが、長机の端のようだ。そこに座って婚約者たち一度に見渡すようだね」
端ということは、誕生日席ってことか……。
そう思いながら僕の席を探すと、すぐに見つけてしまった。
「フラムの席は兄上の右隣だね。まあ、貴方のお披露目だからというのもあるだろうけど……とても気に入られているね」
「いえそれは魅了の効果ですし、糞王子に好かれても全然嬉しくないですけど?」
「はは、それはそうだろうね。それはともかく問題は兄上の逆隣だよ」
そう言ってショコラ様は人差し指で反対の席を示す。
そこにはガレットの名前が書かれていた。
「あの令嬢はああ見えて、本当に兄上の一番のお気に入りだったようだね」
「それが本当なら、ガレットの事だからきっと汚いことをして好かれたのでしょうね。正直その事には嫌悪感しか感じませんけど……」
「しかしだよ。これは私たちにとってはとても都合が良い。何故ならガレットは何が何でも兄上に好かれるため、離れようとはしないだろうからね」
「確かにそうですが、僕が上手く毒を入れるタイミングはあるでしょうか……?」
ガレットがどれだけベタベタしたとしても、糞王子の飲み物やカップに触れる事がない限りこの作戦は成功できない。
僕はショコラ様の赤い瞳を見て首を傾げながらそう思っていた。
「それなら、ガレットを煽るのはどうだい? 私から見ても彼女は負けず嫌いに見える」
「確かにそうですが……煽ると言うことは僕が先に紅茶を注げばいいと言うことですか?」
「別にお茶を注がなくてもいい。例えばお砂糖を入れたり、ミルクを入れたりそれだけでもきっと彼女は対抗心を燃やす筈だよ」
「成る程……ガレットが何かを入れたあとに、僕が銀のスプーンで紅茶をかき混ぜながら毒を入れれば……」
「……間違いなく、彼女を犯人とする事ができるだろうね」
その一言に僕はゴクリと息を飲み込んだのだった。
そしてこのあとも、僕たちはお城に着いてからの行動についてを話し合い、気づけばもうお城に着いたのか馬車がゆっくりと止まったのだ。
そして、馬車の扉は開かれた。
ここから僕たちの完全犯罪に向けた作戦は、開始される事になる。
その一歩を踏みしめた瞬間ーーー。
「会いたかったよ、僕のフィアンセ!」
糞うざい声で、僕は一歩を踏み外しそうになったのだった。
いや、まじでこの糞王子の魅了を早く解いてしまいたい僕がそこにはいた。
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