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5、女装してお茶会に出る僕②
しおりを挟む毒の入ったティーカップを持っている事を知らない王女殿下は、令嬢たちに言った。
「さあ、皆。こうして集まったのも何かの縁だ。一緒に美味しいお茶を頂こう」
そのカップが王女様の口元に運ばれて行くのがゆっくりと見える。しかし彼女のもとに行くには僕の席から遠すぎる。
だけど黙って見ていられない僕は立ち上がると、なりふり構わず机の上に乗り上げ走りだしていた。
ウィンドウが、僕のスピードに追いつけずに流れて行くのが見える。その字をなんとか目線で読むとこう書いてあった。
【シックなヒールの効果により、スピードを10倍UPします】
女装の効果のおかげなのか王女殿下が紅茶を飲む前に、僕はなんとかそのティーカップを弾き飛ばしていた。
「キャァーーー!!」
「一体何?」
「リノー様どうしたのですか!?」
僕の行動にもちろん彼女たちはパニックになっていた。
突然机の上を走り、王女のティーカップをはたき落したのだ。どう考えても異常な人間の行動だろう。
しかし僕は動じず、王女様の横に降り立つと令嬢たちを牽制するように一度見回し、改めて王女殿下に頭を下げながら言った。
「ショコラ王女殿下、大変失礼いたしました。しかし私は、殿下の紅茶に毒が入っていると気がつきまして……」
「成る程、私の紅茶に毒が……」
凄くすんなり納得してくれたけど、これは一体どう言う事だろうか……?
「そんなまさか……ショコラ様に毒を盛る人がいるなんて思えませんわ!」
「そうですわ。それにそのこぼれてしまった紅茶に毒がはいっていたなんて、リノー様はどうやって確認したのですの?」
「そ、それは……」
鑑定で確認しましたなんて言ったところで、誰も信じてはくれないだろう。
それなのに王女殿下はこぼれた紅茶のところまで行くと、髪留めを外した。
「それではこれで確認してみようじゃないか」
「あの、それは?」
「これは銀で出来た髪留めなのだが、毒は銀に反応するし折角なので試してみる価値はあると思うよ」
王女殿下は、ティーカップに僅かに残る紅茶をその銀の髪留めに触れさせた。
すると触れたところからすぐに黒ずんでいく。
その事に、令嬢達はザワザワとし始めたのだ。
「本当に、毒が!?」
「一体誰がそんな事を……」
「貴女ではなくて? 貴女王女様の事を!」
「何を言ってるの、貴女だって!!」
僕の目の前では、罪をなすりつけ合う醜い令嬢たちしかいなくて……こんな姿を見てしまったら婚約者とか当分いらないかも、なんて思ってしまった。
そんな傍観している僕を見て、一人の令嬢が言い放ったのだ。
「毒が入ってるなんて誰も気が付かなかったのに、最初から知っていたリノー様が一番怪しいんじゃなくて?」
「確かにそうですわ! 王女殿下でさえも気がつかなかったのに、変ですわ!」
「もしかしてリノー様が毒を入れたのではなくて?」
「そうですわ!」
「きっとそうに違いありませんわ!!」
何故かその攻撃対象は、僕一人になっていた。正直彼女たちの罵倒を受けても僕は全く痛くもなかった。
「貴女たち、私を助けてくれたのはリノーなのだよ。それなのに……」
しかし、そんな僕を王女様だけは庇ってくれようとしたのだ。
この人はきっと他の令嬢とは違う。
そう思った僕は、王女様の為にこの醜令嬢たちと真っ向から戦う事を決めたのだ。
「王女殿下、確かに怪しいのは自分でも分かっています。しかし私は大丈夫ですから少し下がっていてもらえますか?」
「……わかった。リノーがそう言うのなら仕方がない、ここは貴方に任せるよ」
そう言った王女殿下はリノーに対してではなく、僕に対して言ってくれたような気がした。
「一体なんですの! ショコラ様に少し気に入られてるからって!!」
「貴女が犯人だという意見は私たち皆一致しているのですからね!」
だけど僕は全く慌てる必要なんてなかった。
だって、僕の目には沢山のウィンドウが見えているのだから。
令嬢の頭の上のウィンドウは皆同じ事が書いてあった。
【犯人は私です】【犯人は私です】【犯人は私です】【犯人は私です】【犯人は私です】
そう鑑定結果さんが僕に教えてくれていた。
その言葉だらけで僕はちょっと笑いそうになる。
そして極め付けに、ウィンドウさんが大きくアピールしてくるのだ。
【犯人はここにいるすべての令嬢です】
どうやら彼女たちは、全員で協力する事でアリバイを作り上げているようだった。
だから先程のも演技だったのかもしれないし、きっと論破するのは大変だろう。
でもそれなら、実力行使で証言してもらえばいいだけの話だ。
「残念ですが、私は犯人ではありません。そして私には犯人が誰なのかわかっています」
「なっ!?」
「何を言っているの?」
「貴方以外に犯人がいる訳がないわ!」
集団だからこそ強気でいられる令嬢たちと目線を合わせて僕は言った。
「では、ご自身で自白して頂くまでですね……」
【プルプルリップの効果により音声認証確認、自白魔法を発動します】
ん? ウィンドウさん、僕は別にそんな魔法唱えてませんよ?
混乱する僕とは関係なく自白魔法を受けた令嬢たちは、皆一斉に崩れ落ちて行くのが見えた。
しかし僕よりも驚いていたのは王女様の方だった。
「リノー、これは一体?」
「えっとこれは、私の自白魔法が上手く効いたようです。あとは彼女たちの言い分を聞きましょう」
「じ、自白魔法を使えるのか……?」
今、初めて使いましたけどね。
でも自分より動揺している人を見たせいか、僕はだいぶ落ち着きをとりもどしていた。
そして暫くして令嬢たちはフラリと立ち上がると、それぞれブツブツと自白し始めたのだ。
「私たちがやりました」
「王女殿下を毒殺しようとしたのは事実ですわ」
「ですが口裏を合わせただけで、誰が毒を入れたのか誰も知りません」
綺麗に自白をしてくれてはいるが、もしかすると王女様に毒を入れた人物はここにいないのかもしれない。
とにかく動機がわかれば真犯人もわかるはずだと、僕は令嬢たちに向けて聞いていた。
「どうしてこんな事をしたの?」
「それは……殿下が……」
殿下?
「シュクル殿下が王女を毒殺すれば婚約者候補に入れてくれると言って下さったから……」
「私たちは、あのお方のためならと喜んでこの計画にのりましたの」
あの糞王子が犯人かよ!?
一体実の妹に何の恨みがあってこんな事したんだ?
僕は実の兄に狙われてショックを受けていないかと王女様を見た。
しかし、その顔は全く無表情のままだった。
「やはり、兄上でしたか……」
「いやいや、何故そんなに冷静なのですか?」
「何故と言われても、私はよく兄上に殺されかけているので……」
「は?」
「しかし兄上絡みの暗殺は、例え犯人を捕らえたとしても事件を揉み消されてしまい無罪釈放になるので、彼女たちはこのまま放置で良いでしょう」
相手が王太子というだけでそんな無茶が押し通る世界なのかよ。
そんなの国としてもうおかしいよ。
だから、僕は王女様に詰め寄って言った
「そんなの良くないですよ……ちゃんと罪を償わせるべきです!」
「ふふ、貴方はリノーの手紙に書いてある通りの人物みたいだ」
そう言うと、王女様は僕の手を取る。その事に焦ったのは僕だ。
「あの、て、手てて!?」
「貴女に話したい事があるので、私の部屋に一緒に行きましょうか」
そして僕たちは動かない令嬢達を放置して、手を繋いだまま王女様の部屋へと向かった。
でも最後に彼女たちをチラリと見つめる王女様の顔は、少し寂しそうに見えた。
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