上 下
5 / 33

5、女装してお茶会に出る僕②

しおりを挟む

 毒の入ったティーカップを持っている事を知らない王女殿下は、令嬢たちに言った。

「さあ、皆。こうして集まったのも何かの縁だ。一緒に美味しいお茶を頂こう」
 
 そのカップが王女様の口元に運ばれて行くのがゆっくりと見える。しかし彼女のもとに行くには僕の席から遠すぎる。
 だけど黙って見ていられない僕は立ち上がると、なりふり構わず机の上に乗り上げ走りだしていた。
 ウィンドウが、僕のスピードに追いつけずに流れて行くのが見える。その字をなんとか目線で読むとこう書いてあった。

【シックなヒールの効果により、スピードを10倍UPします】

 女装の効果のおかげなのか王女殿下が紅茶を飲む前に、僕はなんとかそのティーカップを弾き飛ばしていた。

「キャァーーー!!」
「一体何?」
「リノー様どうしたのですか!?」

 僕の行動にもちろん彼女たちはパニックになっていた。
 突然机の上を走り、王女のティーカップをはたき落したのだ。どう考えても異常な人間の行動だろう。
 しかし僕は動じず、王女様の横に降り立つと令嬢たちを牽制するように一度見回し、改めて王女殿下に頭を下げながら言った。

「ショコラ王女殿下、大変失礼いたしました。しかし私は、殿下の紅茶に毒が入っていると気がつきまして……」
「成る程、私の紅茶に毒が……」

 凄くすんなり納得してくれたけど、これは一体どう言う事だろうか……?

「そんなまさか……ショコラ様に毒を盛る人がいるなんて思えませんわ!」
「そうですわ。それにそのこぼれてしまった紅茶に毒がはいっていたなんて、リノー様はどうやって確認したのですの?」
「そ、それは……」

 鑑定で確認しましたなんて言ったところで、誰も信じてはくれないだろう。
 それなのに王女殿下はこぼれた紅茶のところまで行くと、髪留めを外した。

「それではこれで確認してみようじゃないか」
「あの、それは?」
「これは銀で出来た髪留めなのだが、毒は銀に反応するし折角なので試してみる価値はあると思うよ」

 王女殿下は、ティーカップに僅かに残る紅茶をその銀の髪留めに触れさせた。
 すると触れたところからすぐに黒ずんでいく。
 その事に、令嬢達はザワザワとし始めたのだ。

「本当に、毒が!?」
「一体誰がそんな事を……」
「貴女ではなくて? 貴女王女様の事を!」
「何を言ってるの、貴女だって!!」

 僕の目の前では、罪をなすりつけ合う醜い令嬢たちしかいなくて……こんな姿を見てしまったら婚約者とか当分いらないかも、なんて思ってしまった。
 そんな傍観している僕を見て、一人の令嬢が言い放ったのだ。

「毒が入ってるなんて誰も気が付かなかったのに、最初から知っていたリノー様が一番怪しいんじゃなくて?」
「確かにそうですわ! 王女殿下でさえも気がつかなかったのに、変ですわ!」
「もしかしてリノー様が毒を入れたのではなくて?」
「そうですわ!」
「きっとそうに違いありませんわ!!」

 何故かその攻撃対象は、僕一人になっていた。正直彼女たちの罵倒を受けても僕は全く痛くもなかった。

「貴女たち、私を助けてくれたのはリノーなのだよ。それなのに……」

 しかし、そんな僕を王女様だけは庇ってくれようとしたのだ。
 この人はきっと他の令嬢とは違う。
 そう思った僕は、王女様の為にこの醜令嬢たちと真っ向から戦う事を決めたのだ。

「王女殿下、確かに怪しいのは自分でも分かっています。しかし私は大丈夫ですから少し下がっていてもらえますか?」
「……わかった。リノーがそう言うのなら仕方がない、ここは貴方に任せるよ」
 
 そう言った王女殿下はリノーに対してではなく、僕に対して言ってくれたような気がした。

「一体なんですの! ショコラ様に少し気に入られてるからって!!」
「貴女が犯人だという意見は私たち皆一致しているのですからね!」

 だけど僕は全く慌てる必要なんてなかった。
 だって、僕の目には沢山のウィンドウが見えているのだから。

 令嬢の頭の上のウィンドウは皆同じ事が書いてあった。

【犯人は私です】【犯人は私です】【犯人は私です】【犯人は私です】【犯人は私です】

 そう鑑定結果さんが僕に教えてくれていた。
 その言葉だらけで僕はちょっと笑いそうになる。
 そして極め付けに、ウィンドウさんが大きくアピールしてくるのだ。

【犯人はここにいるすべての令嬢です】

 どうやら彼女たちは、全員で協力する事でアリバイを作り上げているようだった。
 だから先程のも演技だったのかもしれないし、きっと論破するのは大変だろう。
 でもそれなら、実力行使で証言してもらえばいいだけの話だ。

「残念ですが、私は犯人ではありません。そして私には犯人が誰なのかわかっています」
「なっ!?」
「何を言っているの?」
「貴方以外に犯人がいる訳がないわ!」

 集団だからこそ強気でいられる令嬢たちと目線を合わせて僕は言った。

「では、ご自身で自白して頂くまでですね……」

【プルプルリップの効果により音声認証確認、自白魔法を発動します】

 ん? ウィンドウさん、僕は別にそんな魔法唱えてませんよ?
 混乱する僕とは関係なく自白魔法を受けた令嬢たちは、皆一斉に崩れ落ちて行くのが見えた。
 しかし僕よりも驚いていたのは王女様の方だった。

「リノー、これは一体?」
「えっとこれは、私の自白魔法が上手く効いたようです。あとは彼女たちの言い分を聞きましょう」
「じ、自白魔法を使えるのか……?」

 今、初めて使いましたけどね。
 でも自分より動揺している人を見たせいか、僕はだいぶ落ち着きをとりもどしていた。
 そして暫くして令嬢たちはフラリと立ち上がると、それぞれブツブツと自白し始めたのだ。

「私たちがやりました」
「王女殿下を毒殺しようとしたのは事実ですわ」
「ですが口裏を合わせただけで、誰が毒を入れたのか誰も知りません」

 綺麗に自白をしてくれてはいるが、もしかすると王女様に毒を入れた人物はここにいないのかもしれない。
 とにかく動機がわかれば真犯人もわかるはずだと、僕は令嬢たちに向けて聞いていた。

「どうしてこんな事をしたの?」
「それは……殿下が……」

 殿下?

「シュクル殿下が王女を毒殺すれば婚約者候補に入れてくれると言って下さったから……」
「私たちは、あのお方のためならと喜んでこの計画にのりましたの」

 あの糞王子が犯人かよ!?
 一体実の妹に何の恨みがあってこんな事したんだ?
 僕は実の兄に狙われてショックを受けていないかと王女様を見た。
 しかし、その顔は全く無表情のままだった。

「やはり、兄上でしたか……」
「いやいや、何故そんなに冷静なのですか?」
「何故と言われても、私はよく兄上に殺されかけているので……」
「は?」
「しかし兄上絡みの暗殺は、例え犯人を捕らえたとしても事件を揉み消されてしまい無罪釈放になるので、彼女たちはこのまま放置で良いでしょう」

 相手が王太子というだけでそんな無茶が押し通る世界なのかよ。
 そんなの国としてもうおかしいよ。
 だから、僕は王女様に詰め寄って言った

「そんなの良くないですよ……ちゃんと罪を償わせるべきです!」
「ふふ、貴方はリノーの手紙に書いてある通りの人物みたいだ」

 そう言うと、王女様は僕の手を取る。その事に焦ったのは僕だ。

「あの、て、手てて!?」
「貴女に話したい事があるので、私の部屋に一緒に行きましょうか」

 そして僕たちは動かない令嬢達を放置して、手を繋いだまま王女様の部屋へと向かった。
 でも最後に彼女たちをチラリと見つめる王女様の顔は、少し寂しそうに見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵
ファンタジー
 伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。  そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。  けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。 「国外追放になって悔しいか?」 「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」  悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。  その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。  断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。 ※他サイトでも連載中です。  毎日18時頃の更新を予定しています。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

『踊り子令嬢』と言われて追放されましたが、実は希少なギフトでした

Ryo-k
ファンタジー
サーシャ・フロイライン公爵令嬢は、王太子で『勇者』のギフト持ちであるレオン・デュボアから婚約破棄を告げられる。 更には、実家である公爵家からも追放される。 『舞踊家』というギフトを授けられた彼女だが、王国では初めて発見されたギフトで『舞踊』と名前がつくことからこう呼ばれ蔑まれていた。 ――『踊り子令嬢』と。 追放されたサーシャだが、彼女は誰にも話していない秘密あった。 ……前世の記憶があるということを。 さらに『舞踊家』は前世で彼女が身に着けていた技能と深くかかわりがあるようで…… 追放された先で彼女はそのギフトの能力を発揮していくと…… ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...