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3、婚約破棄される僕③
しおりを挟むなんで、どうして戻らないの!?
僕は焦って、スキル解除ボタンを連打していた。
しかし何度押しても僕の姿は変わらない。
そして僕がスキルと格闘してる間に、どうやらあの二人は見つかってしまったのか、騒めきはここまで聞こえてきていた。
だから早く言い訳をしに行かなければならないのに……。
そう思った僕は、スキルを今すぐに解除する事を諦めるしかなかった。
「こうなったら、妹のフリをして出て行くしかないか……」
僕には同じ髪色と瞳、顔や体型までも殆ど変わらない一才歳下の妹がいる。
どこまでも似た僕たちだけど、ただ一つ違う事があった。
妹は極度の引きこもりなのだ。そのため身なりを全く整えていないせいで、今の姿はお世辞にも可愛いとは言えないのだけど……。
しかし覚悟を決めた僕は、妹として僕の部屋に向かうことにした。
「妹を見た事がある使用人なんて殆どいないから大丈夫なはず……」
少し不安になりながら僕の部屋に慌てて戻ると、大勢の使用人が詰めかけていた。
そこに仲の良いじいやが一人いたので、妹のフリをして話しかけてみることにした。
ポイントは顔の俯き加減と、喋るときの間の取り方だ。
「あの……どうしたのですか……?」
「お、お嬢様!? 何故お嬢様がこちらに……?」
普段引き篭もってるやつが外にいたらこんな反応になるよね。
でも、僕は自分だとバレていない事にホッとしていた。もしかしたら女装姿ですれ違った使用人たちも、最初から僕を妹だと思って会釈していたのかもしれない。
「そ、それがですね。フラム坊っちゃんの部屋に何故かシュクル殿下と、ガレット様が倒れておりまして……」
「そ、そんな……お兄様のお部屋で……?」
「しかも坊ちゃんは何処かに行ってしまったようで、事情が伺えず。お嬢様は何かご存知では……いえ、寝室にいたお嬢様がご存知な訳ありませんよね」
流石妹、部屋から出ていない事前提で話しかけられてるな。
でも僕は証人にならなくてはいけないから……。
「……いえ、私知ってるかもしれません」
「し、知ってるのですか!?」
「先程お兄様に用があって、部屋まで来たのですけど……丁度お兄様は婚約破棄されたと部屋から飛び出してきたところでした。私はそれを追いかけようとしたのですが、そのとき何故か部屋の中にいるお二人が突然喧嘩を始めたような声が聞こえてきて……もしかするとそれが関係しているのでしょうか?」
凄い、これ全部僕の大嘘だ。
だけど信じてもらえるように、真面目な顔をして眉を寄せる。
「それは本当ですか? では、お二人は痴話喧嘩でこのような事に……」
「そうかもしれません。……でしたらお二人が起きたときに再び喧嘩を始めるといけませんから、別々の所で治療してお帰り頂くのがいいかと思うのですけど……」
「仰る通りですね。では、お嬢様は寝室にお戻りください。ここは人手が増えて危険ですからね、後の事は私どもにお任せください」
「……では、後は頼みます」
「かしこまりました」
頭を下げるじいやに背を向けて、僕は早足で寝室へと歩いて行く。
よし、なんとか乗り切った。だから早く女装を解除しないと!
僕は寝室までなるべく誰にも会わないように歩き、ようやく後一歩のところまで来ていた。
しかし、ヌッと現れた人物に僕は驚いて立ち止まる。
「お兄様……」
「ひぃっ? って、よく見たら妹のリノーじゃないか。相変わらずオバケと間違えそうになる……」
……って、本物の妹!? ど、どうしよう……僕は今妹としてここにいるけど、誰にも見られてないよな?
焦った僕は周りを見回したけど、使用人は誰もいないようだった。
「ふふ……相変わらずお兄様は面白いですね……」
挙動不審な僕を見てリノーは笑ったのだけど、凄く不気味だった。実際は僕と似てるから可愛いはずなのに、その顔は半分以上黒髪に覆われていて、怖い。
だってホラー映画にでてくるアレみたいに見えるから、急に現れたら心臓が飛び出るよ。
「な、何か用かな……? 僕は今忙しくてさ、早くそこの部屋に入りたいのだけど……」
「そうなんですか? でも私は今、お兄様に聞きたい事があるのですけど……」
ニタリと笑う妹がなんと言うのか聞きたくなくて、僕は顔を逸らしてしまう。
「お兄様はどうして……女装してるんですか?」
「くっ……やっぱそこは気になるよね。でもそれは僕が一番思ってる事だし、そのせいで今すぐ死にたい気分なんだけど……」
「成る程、お兄様はその姿がバレたくないと……でしたらお話があるので今すぐに私のお部屋に来て下さいますか?」
バラされたくなかったら部屋に来いという事か……。部屋といっても、そこはリノーの寝室なのだけど。
「……しょうがない。確かに話し合いは必要だし、リノーの部屋に行くよ」
そう言って、僕の寝室と横隣になっているリノーの部屋に入った。その瞬間、僕はすぐに逃げ出したくなっていた。
リノーの部屋は暗闇に蝋燭が5本並べられており、今から闇の儀式でもおこないそうな雰囲気だったのだ。
「なにこの部屋……怖い。妹よ、お前は悪魔召喚でもするつもりなの? まさか僕は生贄……」
「ふふ……お兄様ったら本当に面白い……だけど今日は違いますから」
今日は?
ならば違う日にここへ来たら生贄にされるかもしれないってことだろうか……。
「それよりも私、先程見てしまったんです……」
「……えっと、何を?」
「お兄様が…………私のフリをして使用人に話しかけてるところを……」
僕はその一言に血の気が引き、焦っていた。
なんで妹に、妹のフリをしてるところを見られて……?
「どうして知っているのか? という顔をしてますね、お兄様……」
その通りだ、女装をして妹のフリをしていたなんてバレたら、僕の人生は終わりを迎えるだろう。
……どうする僕?
「あら、嫌ですよ……。そんな怖い顔で睨まないで下さいお兄様。私がそれを知ったのは偶然……先ほどお兄様が部屋から出て行くところを見たからなんですよ……」
「僕が出るところを?」
そうか慌てて飛び出したせいで、人が居るかどうか確認をしっかりしていなかったんだ。
「面白そうでしたのでついて行きましたら、周りの使用人がお兄様を私だと思って話しかけている事に驚きました。……ですが正直、私はお兄様が例えどんな格好をしていても興味がない事に気がつきましたから、安心して下さい」
「それは有難いけど、一応僕がリノーのフリをしていた事は謝るよ……というか妹だから教えておくけど、この女装はスキルなんだ」
ここまでバレてしまったら、スキルの事を教えても問題はないだろう。
「そうでしたか……この世には摩訶不思議なスキルが沢山あるのですね……。しかしそんなことよりも、私は気がついてしまったのです……」
「な、何を?」
ずいっと顔を近づけてくる妹は、紫色の瞳を片目だけギョロリと僕に向けた。
やはりその姿は、怖い。
「お兄様の女装。私に似ているのですよね?」
「……はい?」
「私がお洒落したらこんな感じなのですよね?」
「た、多分? って、どんどん顔を近づけないで、怖いから!」
「すみません……でも、本当に似ているという事がわかれば充分です」
そう言うと妹は、ようやく顔を遠ざけてくれた。
そして、何か机の中からゴソゴソと手紙を取り出すと僕に渡したのだ。
「お兄様。女装をバラしてほしく無いのでしたら、私の代わりにこの手紙に書かれた女子だけのお茶会に出てください……」
「は?」
僕が妹の代わりにお茶会に……?
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