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69.懐妊(ジュリア視点)

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「チェシリーが、兄上が恐らく双子の男女がお腹にいるって言ってました!」

 チェシリーに王宮に招かれて帰ってきた俺は、ルカの学院の執務室へと駆け込んだ。

 懐妊してるって!
 間違いないって!

 兄上と宮廷侍医にも確認してもらった!
 もうバッチリだ! 思い違いなんかじゃない!

「わ、わたし、懐妊してるってお墨付きもらいました!」


 嬉しい。
 すげぇ、嬉しい。これで、俺も本当に女になれたんだ。ルカの妻に、なれたんだ。

 ルカの血を次代に繋ぐ事が出来るんだ。
 愛する人の子を産む事が出来るんだ。


 色々な感情が、自分の中を巡る。
 とても幸せだ。


「ジュリア。何故、泣くのですか? 嬉しいのなら、笑いなさい」
「こ、これは嬉し泣きだから良いんだよ」


 ルカが俺の涙を拭いながら、困ったように笑ったから、俺はルカに抱きつきながら、「嬉しいんだ! 嬉しすぎて、どうして良いか分からないくらい嬉しいんだ!」と、笑った。


「双子か~。名前、何にしようか? 私たちの名を捩るとか?」
「ジュリア。名は好きにして良いですから、膝からおりなさい。まだ仕事中です」


 俺がルカの膝に座りながら、名前を考えていると、ルカが俺を膝からおろそうとした。

 仕事の邪魔をするつもりはねぇんだけど、この感動を今すぐ一緒に噛み締めたいんだよ。


「そんな事よりも懐妊したのですから、フラフラと出歩かないように」
「フラフラなんて出歩いてないです。馬車に乗って王宮に遊びに行っているだけです」
「それがフラフラしていると言うのですよ。これからは、この執務室にいるか、宮のほうにいるか、どちらかにしなさい」


 ルカを待ってる間、退屈なのに……。チェシリーとくらい、お茶させろよ。

 つーか。ルカはあのロベルトの調教の一件から、俺が王宮に行くのを嫌がる。俺があんなの浮気と一緒だ、って泣き喚いて、宥めようとしたルカの話を聞かなかったから……。
 あの日……そのままルカの手を振り払い、俺はチェシリーに愚痴りに行ったんだ。そしたら、兄上もいて……兄上が一緒になって怒ってくれたから、俺はそのまま甘えちゃったんだ。

 ルカはロベルトのほうが大切なんだって、かなり長い時間拗ねていた……。1週間くらい、拗ねていた。

 でも、そのせいか……あの仲直りをした日から、俺がチェシリーや兄上と会うのを嫌がる。王妃のお茶会の誘いを断る事なんて出来ないから、行くな、とは言われないけど……。あからさまに嫌そうな顔はされる。

 そんな顔しなくても、ちゃんと帰ってくるのに……。あの時みたいに1週間も王宮に立て篭もったりしないのに……。


 でも案の定、ルカは……俺の体が普通の女性よりも不安定な可能性や他の女性に比べて流れやすい可能性、つわりなどが重くて、体調を崩しやすい可能性、色々な可能性を踏まえた上で、不安なので安静にさせたいと兄上に申し立てた。
 兄上は、「仕方がないね。ただ何があった場合は、必ず報告するように」と、ルカを許してしまったせいで、俺は産まれるまでの間、ルカにより絶対安静を命じられることになった。……というより、それを口実に俺を王宮から遠ざけたんだと思う。


 まあ、絶対安静にしろという言葉通り、ルカは優しく俺の世話をしてくれた。学力も、ちゃんと学院卒業出来るレベルまで上げてくれたし。
 だから、俺はルカの執務室のルカの隣で、本を読んだり、勉強したりし、子供の名前を考えたりしながら、のんびりと過ごした。眠くなったら、部屋に運んでくれるし、至れり尽くせりだった。

 でも、安定期に入ったら様子見ながら手を出してきたから、絶対安静じゃねぇじゃんと思いつつ、まあまあ嬉しかった。だから、許してやるよ。


 そうこうしているうちに、俺は本当に双子の男女を出産した。ルカ似の女の子と、俺に似てる男の子。

 女の子は、ルカと同じ黒髪に俺と同じ空色の瞳で、リチュカと名付けた。
 男の子は、俺の髪というより父上や兄上、ロベルトの……青い髪を薄めたような色の髪だった。俺の目と同じ空色の髪。そして、ルカと同じシャンパンゴールドの瞳。ルージュオと名付けた。


 名付けに関しては、色々悩んだ末に……俺らの名前を捩りつつ、しっくりする名前を考えたつもりだ。
 ルカも色々と相談に乗ってくれたし、名前を考えている時間はすげぇ楽しかった。


 それに、2人とも何故か魔力があった。
 俺にはない魔力が。


「何も驚く事はありません。以前にも言った通りに、貴方自身にはなくとも貴方の中に流れる血には、魔力があるのですから」
「……で、でも、魔力がある女の子だと、王室に望まれる可能性だって出てくる。兄上が治めるようになって……この国は変わったけど……それでも、王室には嫁がせたくない」


 兄上は、ロレンツァをセシルの婚約者に望んでるみたいだから、多分大丈夫だとは思う。
 でも、きっとロベルトは首を縦に振らないと思う。王権争い……それを身を以て経験している分……誰よりもそれを嫌悪しているロベルトが、ロレンツァを王室にやる訳がない。


「……貴方はそのような心配をせずとも大丈夫です。我が家は侯爵家です。代々の王太子妃は、公爵家もしくは王族の魔力のある姫だと決まっていますし、恐らく大丈夫かと……」
「侯爵でも、王族の姫として扱われる可能性は十二分にある気がする……」

 ほら、だって俺。一応王子様王女様だった訳だし。降嫁したけど。


「チェチーリア様のご実家や、他の公爵家からという手もあるのですから、出産後にあまり気に病み過ぎないように。産後の肥立ちが悪くなったら、どうするのですか?」


 ルカは、俺を無理矢理ベッドへと放り込んで、「寝なさい」と言った。
 でも、俺はそんなルカの服をギュッと掴んだ。


「あ、あの……俺、前も言ったと思うけど、乳母は雇わない。わ、わたしは自分の母乳で育てたい」
「その考えは尊重しますが、如何せん双子なので……貴方ひとりでは無理です。私は日中は執務があり手伝ってあげられませんし……1人くらいは乳母を雇ってはどうですか?」


 でも……。
 俺の側にきた乳母は不幸になる……。

 絶対不幸になるから……。


「嫌だ……」
「……分かりました。ただ、やってみて……貴方だけでは、無理だと判断した場合は乳母を考えます。分かりましたね」
「乳母は絶対いらない……」
「ジュリア、ワガママは許しませんよ」


 良いもん。俺ひとりでも出来るってとこ見せてやるし。無理そうなら、チェシリーやシルヴィアちゃんに手伝ってもらうもん。


「言っておきますが、王妃陛下とシルヴィア様が懐妊したそうですよ。なので、残念ながら手伝いは見込めませんね」
「は? う、嘘だ!」
「嘘ではありません。先程、連絡がきました」


 ルカは、その報告書を俺の前でヒラヒラと振った。

 つーか、俺の魂胆が丸わかりってとこもムカつく。それに……。


「いま、2人とも懐妊ってことは同い年の子が産まれるって事ですよね? え? なんかズルい……」


 俺も、皆と同じ時期に仲良く産みたかった。そして、仲良く皆で子育てしたい。

 俺が夢見がちな馬鹿なことを言っていると、本格的にルカに「もう寝なさい」と叱られてしまった。


「なぁ、ルカ」
「うるさい。早く寝なさい。無理をすると、本当に産後の肥立ちが悪くなりますよ」
「ありがとう。子供産ませてくれて……。俺、ルカの子産めて、本当に幸せだ」
「それは私のセリフです。ありがとうございます、ジュリア」


 愛している、と言って……俺に口付けてくれるルカの唇が優しくて暖かくて、俺は泣いてしまった。

 でも、結局俺はその後も色々と考え過ぎて……疲れたのか知恵熱を出した。
 いや、知恵熱じゃなくて……産褥熱ってやつらしい。兄上が「禁忌の術のせいかもしれないね」と言ってたけど、兄上の治癒魔法で熱を下げてもらったから、辛さとかはそんなになかった。


 俺は本当に幸せだ。
 兄上は俺を、過去の事を全て許して大切にしてくれる。妹として扱ってくれる。
 ロベルトも、なんだかんだと言いながらも歩み寄ってくれる。俺のこと、姉上って呼んでくれるし。それに、ジュリオの時とは違い、俺を見る目が柔らかい気もする。


 ルカ……本当にありがとう。
 ルカの手を取って、本当に良かった。ルカの子を産めて、本当に幸せだ。

 これからは家族4人だ。仲良く幸せに、健やかに暮らしていきたい。


 俺たち兄弟が受けた苦労は、絶対に経験させたくない。
 絶対に俺はこの子達を守ろうと心に誓った。


 ────結局、俺ひとりでは大変だったけど、侍女たちや以前世話になった街の女の人たちが、色々と世話をやいてくれたから、然程困ることはなかった。


 …………。
 乳母、今どうしてる? ちゃんと神の御許にいけているんだろうか。俺が子供を産んだって聞いたら、きっと泣いて喜んでくれるんだろうな。

 俺は、今でも悔やんでいるんだ。俺なんかの乳母にならなければ、今もあの優しい人は生きていたんだ。傷つく事なんてなかった。

 だから、俺は乳母を置かない。
 それが俺に出来る唯一の贖罪なんだ。

 それに他の人を乳母と呼びたくない。
 俺にとっての乳母は貴方だけだから……。

 どうか……安らかに眠ってくれていますように。
 少しでも乳母の魂に救いがありますように。

 神の御許で、幸せに暮らしていて欲しい……。
 いつか俺が生をまっとうしたら会いにいきたい……。ちゃんと謝りたい。俺は幸せだよって報告したい。


◆後書き◇

 リクエスト、「ルカとジュリアの子が見たい」でした。このリクエストは、色々な方から頂いたので、とても嬉しかったです。
 これにて、リクエスト分が全て終わりましたので、一度閉じます。

 この番外編は皆様から頂くリクエストをお題として、話を書いていくという趣旨で始めたものでした。とても勉強になりました。ありがとうございます。

 お付き合い頂き、ありがとうございました!!
 またお会い出来たら幸いです!
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