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63.ロベルトの幼少期(ルカ母視点)
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「ルカが、ロベルト殿下について報告してきたそうじゃないか……」
「ええ、そうね。少しやり過ぎが目立つけれど……、それでもロベルト様が健やかにあれるなら、わたくしは別に構わないと思うのだけれど」
交わりは2人の事だし。あまり口を出すのも良くないわ。
「相変わらず、ロベルト殿下には甘いな……」
わたくしは夫の苦笑を受けながら、「当たり前でしょう」と返した。あの子が、やっと手に入れた安らぎを、笑顔を、わたくしは応援したいのよ。見守っていたいのよ。
そして、ジュリオ殿下……ジュリアの事もまた見守りたいと思っているのよ。
わたくしは、結い上げていた黒髪を解きながら、過去に想いを馳せた……。
そう全ての始まりは、ジュリオ殿下が7歳の時に始まった。
現国王夫妻……チェチーリア様とフィリップ陛下の婚約が成った少し後だったように記憶している。あの時のジュリオ殿下は、まだ未来に希望を持っていた。チェチーリア様の為に頑張る健気な子だった。
それが壊れたのは……紛れもなくあの日だろう。
ジュリオ殿下の乳母に、先代の国王が手を出した。殺したのだ……。あの日、先代の国王はひどく酔っていた。まだ幼いジュリオ殿下の目の前で、ジュリオ殿下の乳母に乱暴したと聞く。
権力を振りかざされれば拒否は出来ない。どれ程、嫌でも……。まあ、わたくしは拒否するけれど……。
そして、ジュリオ殿下の乳母は命を断ってしまった。先代の国王が殺したようなものだ。
余程、ショックだったのだろう。幼い子には受け止めきれないものがあったのだと思う。ジュリオ殿下は、そこから1週間ほど部屋に籠ったきり、出て来なかったと聞く。その間、何も食べなかったし飲まなかったとも聞いた。
1週間後、とうとう待てなくなった先代の国王は、ジュリオ殿下の部屋の扉を無理矢理開けさせた……。開けると、ジュリオ殿下はニコニコと笑っていて、何があったか覚えていないと言ったらしいわ。そんな訳などないのに。皆はそれを信じたのよ。
いえ、信じるしかなかったのかもしれない。
それ程に不気味な笑顔だったと聞いたわ。
それから、明確にジュリオ殿下は変わった。今までチェチーリア様の為に頑張っていた魔法の勉強も、それだけではなく王子として学ばねばならぬ事も全て放棄して……遊び歩くようになった。
その一件に加味して、魔力の無さを責める者が後を断たなかったのもいけないと思う。チェチーリア様との交流すら、咎められるようになっていった。色々な事がまだ幼いジュリオ殿下に降りかかり、そのせいで全てを諦め、全てがどうでも良いという姿勢を貫くようになっただけでなく、貴族に対する当たりもキツくなったように思う。まるで、先代の国王を真似ているかのように……。
心が壊れてしまったのだと思ったわ。
だけれど、ルカと結婚すると言って、女性に、ジュリアになって……、わたくしに会いに来たジュリオ殿下は、以前の壊れたジュリオ殿下ではなかった。全てを諦め放棄したジュリオ殿下ではなかった。未来に希望を見出しているような真っ直ぐとした目をしていた。
うちのルカが良い作用をしたようね。ルカが、ジュリオ殿下の救いとなれたのなら、これ以上嬉しいことはないわ。
…………。
だけれど、あの当時の事を……わたくしはジュリアから未だに聞けずにいる。聞いてしまえば、せっかく前を向いたジュリアの心が折れてしまいそうで、怖いのよ。
そして、あの当時……ロベルト様はまだ5歳だった。感情表現が豊かで、乳母と呼びながらわたくしの後ろをついて来てくれる、とても可愛らしい子だった。
わたくしは、この子だけは何があっても守らないといけないと思ったわ。王宮に置いておいたら、ジュリオ殿下のように心を壊してしまう。そんな危機感すら抱いた。
だから、わたくしは先代の国王の許可を半ば脅してもぎとった。この邸に連れ帰ったのだ。だけれど、それは間違いだった……。
そんな事をしなければ、王妃は……いえ、王太后は……ロベルト様を連れていったりしなかった筈だ。
わたくしが目を離してしまった隙を狙って、ロベルト様を勝手に連れて行ってしまった。その時、お部屋でロベルト様は良い子でお昼寝をしていた時で、少し目を離してしまった時だった。
まさか、一国の王妃が貴族の邸に忍び込み、無断で連れ出すなんて、誰が思うだろうか……。あの人からすれば、己の子を取り返したかっただけかもしれないけれど……。如何せん、後先を考えない方なので、あの人の当時の心境など理解したくもない。
だけれど、何の不手際か、ロベルト様は賊に攫われてしまった。あの時……まだ11歳だったフィリップ陛下の立場は王太子となっても完全ではなかった。王権争いに巻き込まれてしまったのだ。フィリップ陛下を推す者からすれば、ロベルト様は邪魔者に他ならない……。
……けれど、フィリップ陛下はその件に関わった者を、粛清してしまった。一応……己の味方ではあるのだけれど、不快感を隠す事なく粛正し、ロベルト様の立場を守ろうとして下さった。11歳にして見せた王者としての才覚に、彼もまた苦労しているのだという事が容易に窺い知れた。
…………。
一国の王子が攫われたなど、表に出してはならないので、水面下で……それでも死に物狂いで探した。
数日後……やっと見つけた時、ロベルト様が捕まっていた場所は血まみれだった。耐えられなくなったロベルト様の魔力が爆発したのだ。
ロベルト様の体は……、見るに耐えない程に傷だらけだった。5歳の子供が……大人だとしても、とても耐えられるとは思えないような拷問の傷跡だらけだった……。何があったのか、と聞かなくても分かるほどに、その傷跡が如実に物語っていた。
けれど、ロベルト様はその傷を魔法で治す事なく、平然とした顔でぐちゃぐちゃになった死体の前で、穏やかに立っていた。それはもう狂気すら感じた……わたくしは今でも、あの日を、あの表情を、忘れられない……。
……それでも、わたくしが駆け寄ると僅かに表情を動かして、「もう乳母と会えないかと思った。良かった」と言ってくれたのよ。でも、王太后はロベルト様の心に傷ができないように、手元で面倒を見ると言った。
守れなかった貴方がそれを言うの? と怒鳴りつけてやりたかったけれど、彼女がロベルト様の母親だ。わたくしは乳母に過ぎない。なので、あの時は間違いだと思っていながら、わたくしは何も言えなかったし、何も出来なかった。
それから……半年間、会わせてもらうことすら出来なかった。
その後、何度も面会を申し出ては却下され、とうとう我慢が出来なくなったわたくしは、先代の国王を鞭で打ち縛り上げ、ロベルト様との面会にこぎつける事に成功したのだ。
だけれど……もうその時には全てが手遅れだった。あんなにも感情豊かだった子は……感情を一切動かさない子になっていた。
笑いもしない、泣きもしない。声を荒げる事もしない。ただ冷淡に話す子になってしまった。
感情豊かで、よく笑いかけてくれたロベルト様は永遠に失われてしまった。
その後、うちのお馬鹿な夫が、ロベルト様がSMに目覚めたら、その冷淡さが生かせるのでは……と言い出して、色々教えていたように思うわね。少しでも、気休めになればと思い放っておいたのだけれど……今のロベルト様を見る限り、多少は役に立ったのかしら?
勿論この事件を、ルカは知らない……。幼かったし話す必要もないと思っていたからだ。そんな状態でも有難い事に、ロベルト様はルカとは仲良くしてくれた……兄弟として良き友人として、ルカにだけは……ちゃんと心を開いて育っていってくれた。
……………。
そのロベルト様が少し変わったのは、シルヴィア様と出会った8歳の時かしら……。そこから少しだけマシになった気がするわね。何せ、ルカ以外の他者に興味がもてるようになったのだもの。
そして決定的に変わったのはシルヴィア様と婚約した以降ね。少しずつ少しずつ、感情を表に出すようになってくれた。シルヴィア様と婚約して1年が経つ頃には、わたくしにまた笑顔を見せてくれるようにもなった。
二度と見ることは叶わないと思っていた笑顔を見られることが出来たのは、紛れもなく、シルヴィア様のおかげよ。
氷のように凍てついた心を溶かしてくれたのは、誰でもなくシルヴィア様なのよ。だから、わたくしは貴方への感謝を絶対に忘れないわ。わたくしにとっては、シルヴィア様は恩人なのよ。
ルカが、ロベルト様がやりすぎてシルヴィア様を泣かせている時がある、この前も過呼吸を起こさせる事態を招いたと報告してきた。
それはいけないわ。
恩人をそのような目に合わせるなんて。ロベルト様を叱らなければ……。そうは思っても……わたくしは、過去の負い目から、いまいちロベルト様を叱れないのよね。
ルカはロベルト様に鞭でも打って躾ければ良いと言うけれど、ロベルト様は過去の事もあって、痛みには強い。体を剣で貫かれても顔色を変えない子なので、鞭なんて動じないと思うわ。
まあ、過ぎた快感は時に毒にもなるという事を教えるのなら、同様に快感の地獄に落とし込めば良いのだけれど、ロベルト様みたいなタイプに己の限界を教えれば、次からその限界を相手にも求めるようになる可能性も否めないのだけれど、良いのかしら?
それに息子同様のロベルト様には食指が動かないのよね。するならシルヴィア様の手でさせたいわね。
わたくしはあくまでアドバイスだけに徹し、ルカに手伝わせつつ、教えても良いのだけれど……。逆にそれを糧にして、もっと酷くなる可能性をルカは分かっているのかしら?
まあ、元々ロベルト様もルカも、他者の限界を見極める目は持っているのだけれど、なまじ見極められる目を持っているからこそ、ギリギリを求めすぎるのよ。余計な調教をするより、その目をもう少し育ててあげた方が良い気もするのだけれど、面白いのでもう少し傍観して楽しもうと思う。
まあ、どちらにしても一度シルヴィア様と会ってみたいし、ロベルト様の事も嗜めないといけないから、一度呼び出してみようかしら?
◆後書き◇
多分、お仕置きはルカが嬉々として率先してシルヴィア焚き付けてやりそうです(≧m≦*)ムフフ
ロベルトのお仕置きを書く前に、ルカ母とロベルトの関係性を書いておかないといけないと思ったので、今回は説明回です。重たくて、すみません。
ジュリオは心に傷を負ってはいましたが、ご存知の通り、心が壊れてはいません。王族としてより平民として生きたいなと思って動いていたので。
でも、ルカ母にはそう見えていた、という事です。
「ええ、そうね。少しやり過ぎが目立つけれど……、それでもロベルト様が健やかにあれるなら、わたくしは別に構わないと思うのだけれど」
交わりは2人の事だし。あまり口を出すのも良くないわ。
「相変わらず、ロベルト殿下には甘いな……」
わたくしは夫の苦笑を受けながら、「当たり前でしょう」と返した。あの子が、やっと手に入れた安らぎを、笑顔を、わたくしは応援したいのよ。見守っていたいのよ。
そして、ジュリオ殿下……ジュリアの事もまた見守りたいと思っているのよ。
わたくしは、結い上げていた黒髪を解きながら、過去に想いを馳せた……。
そう全ての始まりは、ジュリオ殿下が7歳の時に始まった。
現国王夫妻……チェチーリア様とフィリップ陛下の婚約が成った少し後だったように記憶している。あの時のジュリオ殿下は、まだ未来に希望を持っていた。チェチーリア様の為に頑張る健気な子だった。
それが壊れたのは……紛れもなくあの日だろう。
ジュリオ殿下の乳母に、先代の国王が手を出した。殺したのだ……。あの日、先代の国王はひどく酔っていた。まだ幼いジュリオ殿下の目の前で、ジュリオ殿下の乳母に乱暴したと聞く。
権力を振りかざされれば拒否は出来ない。どれ程、嫌でも……。まあ、わたくしは拒否するけれど……。
そして、ジュリオ殿下の乳母は命を断ってしまった。先代の国王が殺したようなものだ。
余程、ショックだったのだろう。幼い子には受け止めきれないものがあったのだと思う。ジュリオ殿下は、そこから1週間ほど部屋に籠ったきり、出て来なかったと聞く。その間、何も食べなかったし飲まなかったとも聞いた。
1週間後、とうとう待てなくなった先代の国王は、ジュリオ殿下の部屋の扉を無理矢理開けさせた……。開けると、ジュリオ殿下はニコニコと笑っていて、何があったか覚えていないと言ったらしいわ。そんな訳などないのに。皆はそれを信じたのよ。
いえ、信じるしかなかったのかもしれない。
それ程に不気味な笑顔だったと聞いたわ。
それから、明確にジュリオ殿下は変わった。今までチェチーリア様の為に頑張っていた魔法の勉強も、それだけではなく王子として学ばねばならぬ事も全て放棄して……遊び歩くようになった。
その一件に加味して、魔力の無さを責める者が後を断たなかったのもいけないと思う。チェチーリア様との交流すら、咎められるようになっていった。色々な事がまだ幼いジュリオ殿下に降りかかり、そのせいで全てを諦め、全てがどうでも良いという姿勢を貫くようになっただけでなく、貴族に対する当たりもキツくなったように思う。まるで、先代の国王を真似ているかのように……。
心が壊れてしまったのだと思ったわ。
だけれど、ルカと結婚すると言って、女性に、ジュリアになって……、わたくしに会いに来たジュリオ殿下は、以前の壊れたジュリオ殿下ではなかった。全てを諦め放棄したジュリオ殿下ではなかった。未来に希望を見出しているような真っ直ぐとした目をしていた。
うちのルカが良い作用をしたようね。ルカが、ジュリオ殿下の救いとなれたのなら、これ以上嬉しいことはないわ。
…………。
だけれど、あの当時の事を……わたくしはジュリアから未だに聞けずにいる。聞いてしまえば、せっかく前を向いたジュリアの心が折れてしまいそうで、怖いのよ。
そして、あの当時……ロベルト様はまだ5歳だった。感情表現が豊かで、乳母と呼びながらわたくしの後ろをついて来てくれる、とても可愛らしい子だった。
わたくしは、この子だけは何があっても守らないといけないと思ったわ。王宮に置いておいたら、ジュリオ殿下のように心を壊してしまう。そんな危機感すら抱いた。
だから、わたくしは先代の国王の許可を半ば脅してもぎとった。この邸に連れ帰ったのだ。だけれど、それは間違いだった……。
そんな事をしなければ、王妃は……いえ、王太后は……ロベルト様を連れていったりしなかった筈だ。
わたくしが目を離してしまった隙を狙って、ロベルト様を勝手に連れて行ってしまった。その時、お部屋でロベルト様は良い子でお昼寝をしていた時で、少し目を離してしまった時だった。
まさか、一国の王妃が貴族の邸に忍び込み、無断で連れ出すなんて、誰が思うだろうか……。あの人からすれば、己の子を取り返したかっただけかもしれないけれど……。如何せん、後先を考えない方なので、あの人の当時の心境など理解したくもない。
だけれど、何の不手際か、ロベルト様は賊に攫われてしまった。あの時……まだ11歳だったフィリップ陛下の立場は王太子となっても完全ではなかった。王権争いに巻き込まれてしまったのだ。フィリップ陛下を推す者からすれば、ロベルト様は邪魔者に他ならない……。
……けれど、フィリップ陛下はその件に関わった者を、粛清してしまった。一応……己の味方ではあるのだけれど、不快感を隠す事なく粛正し、ロベルト様の立場を守ろうとして下さった。11歳にして見せた王者としての才覚に、彼もまた苦労しているのだという事が容易に窺い知れた。
…………。
一国の王子が攫われたなど、表に出してはならないので、水面下で……それでも死に物狂いで探した。
数日後……やっと見つけた時、ロベルト様が捕まっていた場所は血まみれだった。耐えられなくなったロベルト様の魔力が爆発したのだ。
ロベルト様の体は……、見るに耐えない程に傷だらけだった。5歳の子供が……大人だとしても、とても耐えられるとは思えないような拷問の傷跡だらけだった……。何があったのか、と聞かなくても分かるほどに、その傷跡が如実に物語っていた。
けれど、ロベルト様はその傷を魔法で治す事なく、平然とした顔でぐちゃぐちゃになった死体の前で、穏やかに立っていた。それはもう狂気すら感じた……わたくしは今でも、あの日を、あの表情を、忘れられない……。
……それでも、わたくしが駆け寄ると僅かに表情を動かして、「もう乳母と会えないかと思った。良かった」と言ってくれたのよ。でも、王太后はロベルト様の心に傷ができないように、手元で面倒を見ると言った。
守れなかった貴方がそれを言うの? と怒鳴りつけてやりたかったけれど、彼女がロベルト様の母親だ。わたくしは乳母に過ぎない。なので、あの時は間違いだと思っていながら、わたくしは何も言えなかったし、何も出来なかった。
それから……半年間、会わせてもらうことすら出来なかった。
その後、何度も面会を申し出ては却下され、とうとう我慢が出来なくなったわたくしは、先代の国王を鞭で打ち縛り上げ、ロベルト様との面会にこぎつける事に成功したのだ。
だけれど……もうその時には全てが手遅れだった。あんなにも感情豊かだった子は……感情を一切動かさない子になっていた。
笑いもしない、泣きもしない。声を荒げる事もしない。ただ冷淡に話す子になってしまった。
感情豊かで、よく笑いかけてくれたロベルト様は永遠に失われてしまった。
その後、うちのお馬鹿な夫が、ロベルト様がSMに目覚めたら、その冷淡さが生かせるのでは……と言い出して、色々教えていたように思うわね。少しでも、気休めになればと思い放っておいたのだけれど……今のロベルト様を見る限り、多少は役に立ったのかしら?
勿論この事件を、ルカは知らない……。幼かったし話す必要もないと思っていたからだ。そんな状態でも有難い事に、ロベルト様はルカとは仲良くしてくれた……兄弟として良き友人として、ルカにだけは……ちゃんと心を開いて育っていってくれた。
……………。
そのロベルト様が少し変わったのは、シルヴィア様と出会った8歳の時かしら……。そこから少しだけマシになった気がするわね。何せ、ルカ以外の他者に興味がもてるようになったのだもの。
そして決定的に変わったのはシルヴィア様と婚約した以降ね。少しずつ少しずつ、感情を表に出すようになってくれた。シルヴィア様と婚約して1年が経つ頃には、わたくしにまた笑顔を見せてくれるようにもなった。
二度と見ることは叶わないと思っていた笑顔を見られることが出来たのは、紛れもなく、シルヴィア様のおかげよ。
氷のように凍てついた心を溶かしてくれたのは、誰でもなくシルヴィア様なのよ。だから、わたくしは貴方への感謝を絶対に忘れないわ。わたくしにとっては、シルヴィア様は恩人なのよ。
ルカが、ロベルト様がやりすぎてシルヴィア様を泣かせている時がある、この前も過呼吸を起こさせる事態を招いたと報告してきた。
それはいけないわ。
恩人をそのような目に合わせるなんて。ロベルト様を叱らなければ……。そうは思っても……わたくしは、過去の負い目から、いまいちロベルト様を叱れないのよね。
ルカはロベルト様に鞭でも打って躾ければ良いと言うけれど、ロベルト様は過去の事もあって、痛みには強い。体を剣で貫かれても顔色を変えない子なので、鞭なんて動じないと思うわ。
まあ、過ぎた快感は時に毒にもなるという事を教えるのなら、同様に快感の地獄に落とし込めば良いのだけれど、ロベルト様みたいなタイプに己の限界を教えれば、次からその限界を相手にも求めるようになる可能性も否めないのだけれど、良いのかしら?
それに息子同様のロベルト様には食指が動かないのよね。するならシルヴィア様の手でさせたいわね。
わたくしはあくまでアドバイスだけに徹し、ルカに手伝わせつつ、教えても良いのだけれど……。逆にそれを糧にして、もっと酷くなる可能性をルカは分かっているのかしら?
まあ、元々ロベルト様もルカも、他者の限界を見極める目は持っているのだけれど、なまじ見極められる目を持っているからこそ、ギリギリを求めすぎるのよ。余計な調教をするより、その目をもう少し育ててあげた方が良い気もするのだけれど、面白いのでもう少し傍観して楽しもうと思う。
まあ、どちらにしても一度シルヴィア様と会ってみたいし、ロベルト様の事も嗜めないといけないから、一度呼び出してみようかしら?
◆後書き◇
多分、お仕置きはルカが嬉々として率先してシルヴィア焚き付けてやりそうです(≧m≦*)ムフフ
ロベルトのお仕置きを書く前に、ルカ母とロベルトの関係性を書いておかないといけないと思ったので、今回は説明回です。重たくて、すみません。
ジュリオは心に傷を負ってはいましたが、ご存知の通り、心が壊れてはいません。王族としてより平民として生きたいなと思って動いていたので。
でも、ルカ母にはそう見えていた、という事です。
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