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59.袴デート(ロベルト視点)

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「ロブ、準備ができました。どうですか?」

 嬉しそうに駆け寄り、クルクルと回って見せてくれるヴィアの可愛らしさにクラクラした気がした。


 ヴィアは白地に、濃い青緑と水色のボカシが入った牡丹と桜が描かれた着物を着ていた。寒色系の色遣いが、普段よりも大人の女性らしく上品だ。そして、紺ボカシの袴に桜と蝶がデザインされたコーディネートが、とても似合っていて、美しく可愛らしい。


 僕達は約束通り、最後の日に時間を取り、デートをする事にした。
 兄上は義姉上と、最後の公務があるようだ。まあ、他国に来ている以上、国王はのんびり遊んでなどいられないのだろうね。だけど、僕が時間を作りたいと頼むと、快く了承してくれた。

 兄上は、僕が起こしたシルヴィアの過呼吸の件を知っている。あの場にいなかったし、後で問い詰められる事もなかったけど、何があったかは全て把握しているのだと思う。
 その埋め合わせも兼ねて、時間をくれたのだと思う……。本当に出来た兄上だよ。


 因みにルカは、姉上と部屋でのんびり過ごすようだ。姉上も月のものが終わって、もう元気だって喚いていたから、今までの分を取り戻すかのように、イチャつくのではないかと思うよ。興味ないけどね。


「ヴィア、可愛すぎるよ……。もう少し、地味なものに着替えたほうが良いのではないかい?」
「え? 嫌です。わたくし……ロブの髪の色に似た青い袴が気に入っているのです。見て下さい。紺から青へのグラデーションが美しいでしょう?」


 着物より、君が美しく可愛らしいから言っているのだよ。
 嗚呼、こんなにも可愛いヴィアを今から皆に見せなければならないのか……。見せびらかす、という点では良いのかもしれないけど、それよりかは……隠してしまいたい。

 隠して……部屋に閉じ込めて……今すぐにでも、その着物を乱してしまいたい。


 僕はヴィアを抱き締めて、頭にスリスリと頬擦りをした。
 今日のヴィアの髪型はハーフアップだ。いつも下されているゆるふわウェーブの髪が、後ろでキュッと結ばれ、綺麗なウェーブの髪が腰まで流れていて、とても可愛らしい。

 嗚呼、可愛すぎる。可愛すぎるよ、ヴィア。


「その可愛さは罪だよ、ヴィア。仕置きをしたいくらいだ」
「罪? 何がですか? 今日はお詫びのデートなのでしょう? なのに、何故お仕置きという言葉が飛び出すのですか?」


 変なロブ、とヴィアは首を傾げているけど、穏やかでいられる訳がないだろう。

 今すぐ犯したいのに……。
 僕は己の欲を抑え込みながら、ヴィアの髪に己の指を絡めた。


「では、馬車に乗ろうか? それとも牛車にするかい? どちらでも、好きな方を使って良いみたいだよ」

 ただ、牛車は進みが遅いのが難点らしいけど、この国の道路状況には合っているみたいだね。


「馬車は乗った事があるので、今日は牛車に致します。初めて見る乗り物ですし、是非乗ってみたいのです」
「牛車の歩みは、人の歩く速度と大して変わらないらしいけど、構わないかい?」
「はい! 大丈夫です! 今日は時間がたっぷりとあるのでしょう?」
「……そうだね」


 牛車の中でゆっくりと……か。押し倒さないように気をつけよう。まだ早い。まだだ……。





「わあ! とても美しいのです。芸術的な街並みですね。素晴らしいです!」


 僕達は、この前行った下町の方ではなく……メイン通りの方へと向かった。観光地にもなっているらしく、建築美が素晴らしい。寺社仏閣というものも、実に興味深い。我が国でいうところの神殿なのだろうけど、全く違うように見えるから不思議だね。


 はぁ、それよりも疲れた……。
 ヴィアは、牛車の窓から外を覗き、ずっとキャッキャッしていたんだけど……それを見ていて、触れる事も出来ないのは拷問に近い。

 それに昨夜は、明日に差し支えるとか言って、させてくれなかったし……。色々と爆発しそうだよ、僕は。


「あ、このドルチェ……いえ、甘味ですか? 美味しそうですね」
「甘い物の前に食事をしないかい? 昼食がまだじゃないか……」
「ですが、今日は甘味でお腹をいっぱいにすると決まっているのですよ」
「そんな事……誰が決めたんだい?」

 食事はちゃんとしたまえ、とヴィアの鼻を掴むと、ヴィアがだって……と頰を膨らませた。


 ………………。


「好きなものを何でも食べて良い、というのだったら、僕は今から君を食べようかな……」
「っ!!?」


 ヴィアの胸元の合わせに指を引っ掛けて、耳元でそう囁くと、みるみる内にヴィアの顔が真っ赤になった。
 まるで茹で蛸のようだ。


「か、揶揄わないで下さいませ!」
「揶揄ってないよ。ほら、先に食事に行くよ」
「うう……はい……」


 その後、築100年以上経つという庵を、当時の趣はそのままにモダンに改装した店へと吸い込まれるように入っていった。此処には和のドルチェもあるから、丁度良いだろう。
 川沿いにあるので窓から、和の景色が堪能でき、ゆったりとした時間の流れる空間が実に居心地が良い。

 そして、何故か個室に通されてしまった……。
 身分が高い事を察したのかもしれないけど……個室に通されて……手を出さない自信がないのだけど……。



「見て下さい、ロブ! 抹茶のパスタですって! わたくし、これが食べてみたいです! 緑なのに、ジェノベーゼではないのですよ!」


 凄い! と喜んでいるけど……こんな所に来てまでパスタとは……。


「パスタなんて、いつでも食べられるだろう?」
「ですが、抹茶のパスタは無いじゃないですか! それに湯葉、というものが入っているのですって!」

 まあ……ヴィアの好きな物を食べれば良いのだけれどね。

「で、お茶は何にする? 折角だから、和のお茶を楽しまないかい?」
「はい! あ! 八朔の和紅茶ですって!」
「僕の話聞いてた? 和のお茶にしようと言っているのだよ。何故、紅茶を選ぶんだい?」


 僕がヴィアの頬をつまんで引っ張ると、「ひゃって……」と、慌てている。

 まったく……。

「だって、和の紅茶ってどんなものなのかなって、気になってしまって……」

 はぁ、仕方がない。
 僕は結局、その和紅茶と和のお茶を頼んだ。

 そのお茶は渋みも少なく、風味と旨味が強く引き出されていて、とても美味しいお茶だった。

「これは良いよ。上品な香りと鮮やかな緑の色合いも美しいし……緑茶……と呼ばれるに相応しい綺麗な色だ」
「これも美味しいですよ。八朔という柑橘の甘さとほろ苦さがミントの爽やかさに、よく合っています!」


 どうぞ、とニコニコ差し出すヴィアに、僕は和紅茶も飲んだ。確かに……柑橘の香りがとても良い。ミントと、とてもよく合っている。

 僕たちは、その後両方のお茶を楽しんだ。


「はぁ、パスタも美味しいのです。でも、これでお腹をいっぱいにしては駄目なのです。甘味が待っているのです」
「…………」

 僕は己が頼んだ和食を食べながら、ヴィアをジロリと睨んだ。

 まあ、分かっていたよ。どうせ、食べきれない事くらい。
 僕はヴィアが残したパスタも平らげる事にした。残した物を食べるのは行儀が悪いかもしれないけど、抹茶のパスタが……多少気になったからね。
 ……すると、抹茶が練り込まれたというからには、抹茶の苦味がするのかと思ったけど……そんな事はなく、とても食べやすいパスタだった。

 だけど、我が国のパスタと違い、和の風味ととても良い香りがする……とても美味しいパスタだった。


「あ! 見て下さい! この抹茶アイスと餡子がドーンと大きく盛られ、白玉や蜜柑に桃、林檎など、その他沢山の果物などが豪華に盛り付けられたあんみつというものが、気になります」
「…………好きな物を食べれば良いよ」
「では、ロブはこの焦がしきな粉パフェにしましょうね」


 は?

「待ちたまえ。僕はいらないよ」
「良いのです。どちらも食べたいので……でも2つは食べきれないので、分けっこしましょう。ほらほら、お店の中で自家焙煎したこだわりのきな粉らしいですよ」
 
 その焦がしきな粉パフェというものは、きな粉とバニラアイスの間に、豆乳ブランマンジェとほうじ茶ゼリーを挟んだ和のパフェだった。
 上に焼いたメレンゲが乗っている。それをスプーンで崩しながらサクサクと食べるらしい……。


「美味しいですよ、ロブ。このメレンゲのサクサク食感が何とも言えません。あ、更にきな粉を目一杯かけられるらしいですよ」

 ヴィアは、僕のパフェをスプーンで掬いながら、各テーブルに置かれているらしい……きな粉ポットを手にし、微笑んだ。

 …………こんなにも無邪気に楽しまれていると、手を出しづらいのが辛いところだよ。



「ヴィア、餡子が頬についているよ」

 まったく……両方を交互に食べるからだよ。

「え? 何処ですか?」
「此処だよ」

 とても幸せそうに食べるヴィアの頬の餡子を、立ち上がり舐めて取ってやると、ヴィアが顔を真っ赤にして固まった。


「な、な、な、何をするのですか!!?」
「何って、ついている餡子を取ってあげただけだよ」
「で、でしたら、手で……」


 別に構わないじゃないか……このくらい。
 このくらい許されるだろう?

 もう一度、ペロッとヴィアの頰を舐めると、ヴィアが飛び上がって、真っ赤な顔で僕を睨んだ。

 可愛い顔で睨んで、誘っているのかい?
 襲っても良いのだろうか?


「やめて下さい。誰か来たらどうするのですか?」
「大丈夫だよ、個室だから。呼ぶまで、誰も来ない」
「そ、そんなの分からないです!」


 迫ってくる僕の顎を力一杯押しながら、「ほら、冷めますよ」とヴィアが言った。

「アイスは元々冷たいだろう? 熱いものなんてない筈だけど?」
「あ……えっと……」

 失敗した……と、顔に書かれているヴィアに、僕は苦笑して、ここら辺で我慢をしてあげることにした。


「まあ、良いよ。楽しみは夜に取っておこうかな」
「ロブの馬鹿……」


 その後は、寺社仏閣を見て回りながら、露店で林檎飴という物をヴィアが欲しがったので、買ってあげた。
 ただ大きい林檎は食べきれないだろうし、僕も手伝ってはあげられないから、姫りんごという小さな林檎飴にしておいた。


 ただ、この飴をゆっくり舐めたり、大きいのに口に頬張ろうと頑張っている仕草を見ていると、何とも言えない気持ちになった……。


「……っ」
「ロブ? どうかしたのですか? 顔が赤いですよ」
「うるさい。何でもないよ」


 僕が顔をそらすと、ヴィアが可愛らしい顔で首を傾げながら僕の顔を覗きこもうとして来た。

 こっちは、理性と必死に戦っているというのに……帰ったら覚えていると良いよ。



◆後書き◇

 ロブがデレデレしながら、必死に性欲と戦っています(笑)

 焦がしきな粉パフェは吉祥菓寮祇園本店さんで、八朔の和紅茶と抹茶のパスタは和カフェTsumugiさん(関東)のものをお貸し頂きました。
 どちらも美味しいので、是非ご賞味あれ⸜(* ॑꒳ ॑*  )⸝⋆*
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