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40.温泉2(ロベルト視点)

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 僕達も、不満ではあったけどルカに促されるまま、温泉へと入る事にした。

「はぁ、部屋にも露天風呂がついているのだから各々で入れば良いのに……。皆で入る必要あるかな? 何も楽しくないよ」


 兄上はずっと溜息を吐いていて鬱陶しい。
 ルカは、そんな兄上を無視して、黙々と頭と体を洗っている。


 そんな時にヴィアの『水着を着ていると、体が洗えませんね……』や、義姉上の『では、もう脱いじゃいましょうか』という言葉が聞こえて来た。


 ヴィア、僕の言いつけを破るとは良い度胸だよ。
 後で覚えておくと良い。

 兄上は「シシー、酷いよ」と呟いている。


「兄上は怒らないのだろう? 義姉上は、そう信じているようだけど」
「そうですね。これで怒ってしまえば、さぞかし王妃陛下はガッカリされるでしょうね」


 ルカと僕が揶揄う様に、その様な事を言うと兄上が不思議そうな顔で「どうして、私がシシーを怒らなければならないの?」と言った。


「怒るなら、シシーの裸を見たジュリアかな」

 冗談だけどね、と笑っている兄上の目が全然笑っていなかった。

 義姉上は、この人の奥底にある仄暗いものに気付いていないのだろうか……。まあ、元々は根が明るい人だから考えもしないのだろうね。


 僕がそんな事を考えていると、あの愚姉ぐしも不思議に思ったのだろう。兄上は実は腹黒いというような事を義姉上に言っていた。

 やはり、女性となっても愚かさは変わらないようだ。
 僕としては、そこには触れない方が良いとは思うけどね。

 ルカも愚姉ぐしの発言に、深い溜息を吐いている。


 そうこうしている内に、愚姉ぐしが胸が弱いという話になったようだ。話を聞く限り、ヴィアが後ろから抱きつき、義姉上が前から抱きついているようだ。

 愚姉ぐしが『兄上とロベルトに殺される!』と叫んでいる。


 だけど、これは僕にと、言うより……ルカに、ではないだろうか。
 その証拠に、ルカは静かに怒っていると思う。分かりづらいけど、あの笑顔は怒っている笑顔だ。


 まあ、今回の件はヴィアと義姉上が悪い。
 兄上も、「シシー」と低い声で呟いているから、きっと後で叱られると思うよ。


 僕もヴィアを許すつもりはない。僕達がいないからと言って、ふざけ過ぎだ。


 その内、義姉上の『ジュリアちゃん、乳首がたってきましたよ。感じているの?』という揶揄うような声が聞こえてきた。
 ヴィアも『ジュリアちゃんって、本当にお胸が弱いのですね』と楽しそうに笑っている。


 楽しそうな女風呂と違い、こちら側の風呂は嫉妬に狂いそうな男ばかりだけど。


『もうやめろって! 馬鹿! そんなに人の胸を揉むなら、お前らのも揉ませろよ!』


「ジュリア、それだけは許さないよ」

 兄上が今にも隣に怒鳴り込みそうな声でそう言ったけど、義姉上はいとも簡単に『どうぞ』と言った。それどころかヴィアも『女同士なのだから、良いですよ』と快諾していた。


「…………」

 ヴィア……分かっているのだろうね。
 今夜は君が泣こうが喚こうが、罰さなければならないようだ。


 隣からは、ひっきりなしに触り合いっこをして、きゃっきゃっ、ウフフ、というような声が聞こえている。


「…………」


 兄上とルカの表情を見る限り、もう限界なのだと思うよ。まあ、僕はそれをネタにヴィアを強請ゆするつもりだから良いのだけどね。どんどん墓穴を掘れば良いさ。


 ルカはずっと恐ろしいまでの笑顔を浮かべているし、兄上は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「それで、兄上はどうするんだい? 流石にあそこまでしていたら、義姉上を叱るべきなんじゃないかい? 愚姉ぐしだけが悪いわけではないようだけど?」
「……そうだね。ジュリアよりも、シシーとシルヴィア姫の方が悪い子だね」
「いえ、ジュリアもジュリアです。あのように、容易く触らせて……」


 皆がイライラしているのが、よく伝わってくる。
 まあ、僕もだけどね。


「ロベルト。ルカ。そろそろ、自分たちの姫を迎えに行かなければならないようだ。姫達がのぼせてしまわないうちに」


 兄上の胡散臭い笑顔に、僕は「仕方がないね」と頷くと、ルカも「その必要があるようですね」と言って、立ち上がった。



 ふっ、どうやら義姉上も愚姉ぐしも、万事休すのようだね。面白い展開になってきたよ。


 せいぜい、ふざけていた事を悔いれば良い。

 …………勿論、ヴィアもね。


◆後書き◇

 女性陣は楽しくてふざけています。そして男性陣は穏やかではありません。
 女性側は声が大きいので全部筒抜けですけど、男性側は大きな声で話していないので、聞こえていないのでしょうね。あと、ふざけるのに夢中で聞こえていないのもあるかもしれません(笑)

 次は各々、お仕置きタイムですね(ΦωΦ)フフフ
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